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フェデリコ・ガルシア:新しい植林の仕組み(究極のチェンジメーカー #6)

【お詫びと訂正】「今までに吸収したCO2は54億トン」との記述がありましたが、正しくは「54万トン」でした。誤った数字を記載したことをお詫び申し上げます。

Federico Garcea - Treedom (Italy, 2018年選出)

「究極のチェンジメーカー」シリーズについて
私たちアショカは世界最大の社会起業家ネットワークです。1980年創立以来、アショカ基準の社会起業家を発掘しており、2020年までに世界90カ国以上で約3800人を「アショカ・フェロー」として選出してきました。彼らは、社会にある問題の表面的な応急処置ではなく、それらの歪みを生み出している水面下の仕組みそのものを変えています。この連載では、社会を大きく変えている、「究極のチェンジメーカー」の名にふさわしいアショカ・フェローを一人ずつ紹介していきます!

ゲームから得たアイデア

イタリア・フィレンツェで生まれたフェデリコ。デンマークやスペインへ留学していた際に出会ったのは、自然と共に生き、サステイナビリティを重視するという、今までとは全く違うライフスタイルでした。しかし彼はいきなり環境問題に携わるようになったわけではありません。

バーテンダーから銀行員まで、様々な職を転々とした20代。どれもしっくりこなかったフェデリコは、アフリカ市場向けのバイオ燃料会社を立ち上げました。そして、アフリカ大陸を旅して回るうちに、「木を伐採し、木炭にする」という行為が、いかに大規模に行われているのかを目のあたりにするのです。

「どうすればもっと世界中に木を植えることができるだろう?」イタリアへ戻る飛行機の中、Farmvilleという農場シミュレーションゲームで遊んでいた彼の頭にアイデアが浮かびました。「ヴァーチャルな世界と、現実の世界を上手く融合させれば、森林を再生できるかもしれない!」

Treedomの仕組み

Treedomは、オンラインで木を購入すると、アフリカや中南米にいる農家が実際に木を植え、育ててくれるという仕組みです。

カメルーンのカカオ、ケニアのアボカド、エクアドルのコーヒーなど、自分の好きな木を選んで15ユーロ(=約2000円)から手軽に植えることができます。さらに現地の農家が写真を撮ってくれるので、自分の木がどう成長しているのか見守ることができます。それぞれの木には、どれくらいのCO2を吸収してくれるかという情報がついています。

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農家へ長期的かつ安定した収入を

世界中の人口の約半分の人が農業に関わっており、20億人は2ヘクタール以下の農地で働く小規模農家です。収入が少なく投資もできない彼らは、短期的な利益を生み出すために木を切って木材として売り出したり、土地を売って日々の生計を立てています。しかし、これは森林伐採や砂漠化を進めるため、環境面でも、農家の生活面でもサステイナブルではありません。

植林の一番の課題は、種や苗を植えた後、育つまでに時間がかかるということです。木を植え、育てるというのは長期的な投資で、育っている最中には何もリターンがありません。それに自然災害などのリスクも背負います。

Treedomが画期的なのは、まず木を植えることに対して農家へお金を渡す仕組みを作ったことです。そして、そこに成る果物を売ることで農家は継続的に収入を得ることができます。今までは生活のために仕方なく木を切っていた農家ですが、むしろ木を植えることで、長期的でより安定した収入を得られるようになったのです。

カーボンオフセット市場には認証制度があり、発展途上国の小規模農家が参加できるような場所ではありませんでした。しかし、Treedomは、オンラインで個人が1本から木を購入し、それを遠く離れた農家が実際に植林することでカーボンオフセットを可能にする仕組みを実現しました。

インパクト

木を植えるという行為には、多面的な要素があります。

まず、購入者にとっての利益は、カーボンオフセットです。2010年の創業以来、85万人の個人と7,600社の企業が参加し、240万本の木を植えました。企業プログラムを導入しているH&Mでは、1800人の社員が参加し、1万5000本の木を植えています。今までに吸収したCO2は66万トンになります。

また、オンラインで木を購入することは、貧困農家の支援にもつながります。今までに14.3万人の農家がTreedomから資金を得て植林しており、果物から継続的な収入を得ています。

この経済的な効果も大きく、15万ドルの投資に対して、437万ドル相当のインパクトが生まれたという結果が出ています。これは、1ドルの投資が29ドルのリターンになって返ってくるという驚くべき実績です。

それぞれの農家に家族がいることを考えると、環境的、経済的インパクトに加えて、社会的な意義を持っている取り組みだと言えます。

さらに、自然環境にとっても、木を伐採するのではなく、その土地に合った木を植えることは、土壌の流出を防ぎ、生物多様性の保護や森林再生へとつながります。

まとめ

小さな農家がカーボンオフセット市場の一部として参加できること、そして木材などの消費財を切り出すことで短期的な利益を出すのではなく、果物の木などを植えることによって長期的に収入を得られる仕組みを作ったことがTreedomの画期的なポイントです。地球にとっても、農家にとっても長期的・持続可能な仕組みであるTreedomは、今後も世界中で広がっていくことでしょう。

<インパクト>
購入者:カーボンオフセット、貧困農家の支援
農家:植林と果物を売ることで継続的な収入を得る
自然:森林再生、多様性保護、土壌の保護など

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もっと知りたい方へ

Treedom HP -  https://www.treedom.net/en/

Federico Garcea on Ashoka - https://www.ashoka.org/en/fellow/federico-garcea






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