寡婦日記⑤
上級の受講中に夫を亡くした。皆勤だった料理教室を一ヶ月休んだ。葬儀や事務手続きが落ち着くまでの間、ずっと義母が一緒にいてくれた。
連絡やら申請やらで、私がスマホにかかりきりの最中、義母がご飯を三食作ってくれた。
悲しみに沈む義母に米澤先生の料理の本を手渡した。他にも図書館で料理の本を色々借りてきて、二人で読んだ。どんなに悲しくても料理の本は読めた。いたずらに心を乱さず、余計な感情を引き起こさず、穏やかに過ごせた。
連絡と作業の嵐を抜けた頃、久しぶりに台所に立った。自然食でも何でもない普通のオムライスを作った。フライパンを振ったら気持ちが上向いた。手を動かして何かができるということが単純に楽しかった。楽しいとか、嬉しいとか、面白いとか感じるのは随分久しぶりのことだった。
「どんなことがあっても人には這い上がる力がある」。米澤先生の言葉の意味を、心の底から深く感じている。その通りだと確信している。
人生にはどうにもできないこともあるけれど、それでも人は這い上がり、明るく強く生きていける。
夫をしっかり見送れた、夫と過ごした日々は本物だったという確かな手応えが、私の中にどっしりとある。大変な時に支えてくれた料理教室の仲間たち。そういう人間に私もなりたい。
次は研究科。学び続け、この命を全力で生き切りたい。
※通っている料理教室に提出した感想文。時系列は前後するが心の記録として転載する。料理にかぎらず「手を動かす」ということは健やかなことだ。
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