余珀日記15
「お手洗いのお香は何ですか」。お客さまから帰り際に聞かれた。「建長寺の巨福です」と答えた。開店前に焚くお香はお寺で求めたものがほとんどである。旅先でお寺や神社に立ち寄り、お線香をお土産にするのが我々の定番なのだ。
聞くとそのお客さまも、昔はお寺のお香ばかり買っていたという。思わず意気投合し、さらに話を伺うと京都の東寺のお香が一番好きだと教えてくださった。「またお手洗いの香りを嗅ぎにきます」、そう言ってお店を後にされた。
建長寺、報恩寺、高尾山、天河大辨財天社。移りゆく香り、過ぎゆく日々。その後、別のお客さまが所用で京都に出かけることになった。もし時間が許すようであれば東寺でお香を買ってきていただけると嬉しい、そう話すと快諾くださり、次の来店時に届けてくださった。
というわけで、先月からお手洗いのお香は東寺に変わった。甘めで少し重みのある香り。それでいて清々しくも感じるのはお寺というイメージのせいだろうか。
ついでにいうと、開店前と閉店後の朝晩、読経するのが夫の日課だ。我々が会社員時代、いずれ2人でカフェを開くと予言した美容師さんは「ご主人はそのうちどこかのお寺の住職にでもなるんじゃないか」ともおっしゃる。この予言もいつか当たるのだろうか。余珀がだんだんお寺っぽくなっていく、という可能性はあるかもしれない。
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