辻村深月著「名前探しの放課後」感想(ネタバレ含む)
~はじめに~
本日ご紹介するのは辻村深月著「名前探しの放課後」である。本作は第29回吉川英治文学新人賞候補作となった作品で、あらすじを見て面白そうに感じて読んでみたので、感想を述べたい。
以下、ネタバレを含みます。
未読の方はご注意下さい。
~あらすじ~
ある日、高校生の依田いつかは妙な感覚に襲われる。自分の記憶と違う周囲。なんと3か月前の自分に戻ってしまったようだ。彼の記憶に残るのは3か月後、同じ高校の同級生が自殺してしまったというショッキングなニュース。どうやら3か月前にタイムスリップしてきてしまったようだ。依田いつかは戸惑うながらも同級生の坂崎あすなや他の仲間たちと共に同級生の死を防ぐために動き出す。
~おもしろいポイント~
①自殺したのはだれだ?
依田いつかは同級生が自殺したのは記憶しているがそれが誰なのかは思い出せないという。そのため最初はそれが誰なのか探すという展開になり、それが作品名になっている。序盤で自殺者の候補となる同級生から暴力やお金を脅し取られているという河野基を見つけ、そこからは終盤まで河野を救うために尽力していく展開となる。しかしこの河野のための行動は実はフェイクで、いつかは誰が自殺者なのか覚えており、そしてそれは最初にタイムスリップしたことを相談した坂崎あすななのであった。あすな以外の協力者はそのことを知ったうえで、河野という偽の自殺候補者をでっちあげ、それを救うという一種のイベントを通してあすなを救おうとしていたのであった。河野が偽の自殺者候補だということは最後の最後まで明かされないのだが、おそらく河野ではないのだろうということは辻村作品を読んできたものであれば薄々感づくかもしれないが、それでも最後まで本当の自殺者は誰なんだという予想がこの作品の楽しみだ。
②いつかの決意
前述の通り、本当の自殺者は坂崎あすなであり、みんなはそれを防ぐために動いているのだが、その行動は依田いつかの強い意志に皆が共感し協力しているという形だ。タイムスリップなどという話は到底信じられないが、いつかの自分の時間・お金を犠牲にしてでもあすなを救いたいという普段ちゃらんぽらんのいつかの強い意志に、信じる信じないは別にして皆は協力する気になったのであった。あすなの自殺のきっかけが祖父の死に際に間に合わなかったことだと知っているいつかは、時刻表おたくの河野や陸上部のエースで足の速い小瀬などと協力し、いついかなる時にあすなの祖父危篤の知らせが入っても最速であすなを祖父のもとに送り届けられる準備を進めていた。そのためにいつかは借金をしてバイクの免許を取ったり河野と小瀬にお金を払って協力を申し出たりと大きな犠牲を払っていたのだ。最終盤その万全の準備によってあすなを何としてでも祖父のもとに送り届けようとするいつかたちの姿は非常に感動的であり、他人のために人はここまで必死になれるのだと教えてくれている気がする。
③終盤での怒涛の伏線、残された伏線
本作にはあらゆるところで伏線が張られている。どちらかというとわかりやすく伏線が張られており、ほとんどが回収されないまま終盤へと突入し、そして一気に回収されていくという気持ちの良い流れだ。わかりやすい伏線は読者に予想の余地を与えてくれ、いろいろと想像する楽しみがあって個人的には好きだ。
また本作では最後まで回収されない(暗にしか語られない)伏線がいくつか存在する。私は最後まであの伏線は何だったのだろうとわからなかったのだが、調べてみるとどうやら「ぼくのメジャースプーン」という別作品を読むとわかる伏線になっているそうだ。他作品を読まないとわからない伏線は賛否が分かれるが、個人的にはシリーズ作品や同著者の作品間でみられる繋がりや伏線は嫌いではなく、むしろ他の作品に手を伸ばすきっかけとなってよいと思う。
~最後に~
本作は青春を描いた作品としても読んでいて気持ちよく、また最後のどんでん返しも気持ちがよかった。ドラえもんの話が出るなどところどころに辻村深月らしさを出している感じも個人的には好きだ。前述の通り「ぼくのメジャースプーン」と繋がりもあるので、興味のある方は下記の記事をご覧いただきたい。
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