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伊坂幸太郎著「シーソーモンスター」感想(ネタバレ含む)




~はじめに~

 本日ご紹介するのは伊坂幸太郎著「シーソーモンスター」である。本作は「螺旋プロジェクト」という8作家による「共通のルール」によって繋がった作品を一斉に作るという新たな試みの中の一作である。

以下、ネタバレを含みます。
未読の方はご注意下さい。




~あらすじ~

・シーソーモンスター

 昭和後期、バブル末期の話。ある家に嫁いだ妻は、姑とうまくやっていく自信があったものの同居すると何かと争いが絶えず夫は悩んでいた。妻は姑にいら立ち、ついには自分に危害を加えようとしているのではないかと不信感を抱いていくが・・・。


・スピンモンスター

 幼いころ自動車事故で自分以外の家族を亡くし心に深い傷を負った主人公。成長し、手紙のアナログ配達を請け負っていた彼は、仕事中見知らぬ男性から封筒の配達を頼まれたことをきっかけに思いもよらない騒動に巻き込まれていく。 




~おもしろいポイント~

①シーソーモンスター

 本作は2編に分かれており、前半は昭和後期・バブル時代を描いた「シーソーモンスター」である。主人公の妻は目が蒼い海族の人間、姑は耳が大きい山族の人間であるからどうやっても仲良くできない。と、ある日訪ねてきた保険の営業から話を聞いた妻ははじめは全く信じていなかったが、自分に当てはまることが多く徐々に信じていく。ちなみにこの保険の営業マンは「審判」と呼ばれ、どの時代にも姿かたちを変えて登場する海族にも山族にも属さない中立な存在だそう。審判といっても具体的に何か干渉することはなく、基本的には見守っているだけであるが、彼ら彼女らの存在が物語の一体感を出すとともに、登場人物たちの理解を助ける進行役にもなっている。

 実は妻はいわゆる公安のような存在でめちゃくちゃ強いため、身に降りかかる危機を乗り越えていくのだが、同時に姑こそがその犯人ではないかと疑ってしまう。しかし最後にはある危機をきっかけに二人は力を合わせて戦うことになる。海族と山族は決して仲良く離れないが、この物語のように必ずしも対立しっぱなしというわけではなく、時には争いながらも和解し協力できるようだ。これは現実でも対立しあう者同士が仲良く離れなくとも協力できるということを示すメッセージなのかもしれない。


②スピンモンスター

 前半のシーソーモンスターから数十年後の近未来の話が後半のスピンモンスターである。情報のデジタル化が進んだが、逆にデジタル情報は改善や消失のリスクが高いことも理解され、一周回ってアナログな記録や情報伝達が必要とされている時代。主人公は手紙を直接届けるフリーの配達員をしていた。

 その仕事途中に見知らぬ男性から依頼を受けることになるのだが、実はこの男性は人工知能の開発者で歯止めが利かなくなった人工知能・ウェレカセリを止めてほしいという内容だった(ちなみにウェレカセリは他の螺旋プロジェクトの作品に登場する人物の名前らしい)。男性の友人とともにウェレカセリの破壊に動くが、消されることを恐れたウェレカセリによって情報を操作され凶悪犯に仕立て上げられた主人公たちは警察に追われることになる。

 前半のシーソーモンスターで登場した妻の助けも借りながらウェレカセリの破壊に動くが、その途中で主人公は自分の過去や記憶と向き合い、悩み苦しんでいく。何が事実で何が嘘なのか、現代でもフェイクニュースが問題となり情報の信ぴょう性が下がり続けているが、近い未来にはこの物語のように情報の価値は0に近くなってしまうのかと思うと薄ら寒くなる。


③螺旋プロジェクト

 まだ1作しか読んでいないが、海族と山族の対立や審判なる人物たちの存在、物語のところどころに登場する共通のモチーフやシーンなどが垣間見えた。今後ほかの作品を読むことでそれらの繋がりがよりくっきりとしてくると思うので楽しみに読みたいと思う。




~最後に~

 螺旋プロジェクトの作品は続々と文庫化されている。このあといくつか読んでみたが、テーマは同じであってもどれも作者ごとに雰囲気が全く異なりそれぞれの良さが出ていると感じた。その中でも本作は特に完成度の高い作品だと感じたため、螺旋シリーズが気になっている方は是非本作から読んでみるといいと思う(年代順に読むというのもよいが)。

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