見出し画像

デザイナーの責任について

こんにちは、今日は僕が読んだ本についてのお話です。

「ロッテ キシリトールガム」や「明治 おいしい牛乳」の
パッケージを手掛けたデザイナー佐藤卓さんの新潮社から出版されている
「塑する思考」という本を読みました。

“塑する”の意味は
“弾性”と“塑性”という柔らかさを表現する言葉があり
“弾性”とはグっと押したときに「プニュ」っと戻る性質であり、
“塑性”とはグっと押したときにもとに戻らずに
「ペコっと」凹んでしまう性質だそうです。

“彫塑”という言葉がありますが、粘土細工のことですね。

佐藤さんは「デザイン」とは「塑する行為」であると
言っています。

デザインにとって“弾性”とは自分の考えに固執する性質。
“塑性”とは社会や人間関係、文化などに多方面から
押され、その中で形作られることがデザインだと。

佐藤さんが電通に入社したての頃、
ニッカウイスキーの商品開発を自主企画で提案しました。

1980年代の頃、ウィスキーの若者離れが激しくなっていました。

そこで、当時まだ20代だった佐藤さんは
自分たちの世代にウケるウィスキーを提案することにしました。

実際に工場に足を運び、製造工程をその目で見て、
販売の現場を確認し、
様々なリサーチを行いました。

当時、グラフィックデザイナーであった佐藤さんにとって
特に苦労したのボトルのデザインでした。

たまたま、自身でコレクションしていた
沢山のアンティークボトルを眺めながら、
空になったボトルでさえも
お金を出して買いたいようなボトルのデザインをしようと考えました。

「ウィスキーを売るためだけのボトル、飲み終えたら捨てられるのが
前提のボトルデザインではなく、飲んだ後にもそれ自体が魅力的な
物としてあり続けるボトル、別の用途でまた使いたくなるボトルデザイン」
を考えました。

結果、提案した新商品はすごい売れ行きとなったのでした。


佐藤さんは東京芸大デザイン科のご出身です。

僕も美大でなのでよくわかりますが、
大学は“個人の表現”として作品作りを教育します。
そのため、学生の頃はデザインであっても
自己表現の色合いが強くなります。


しかし、デザインの現場に入って
佐藤さんは考え方を改めました。

「本来デザイナーとは何をするべきなのかを考えた時に、
デザインをキャンバスに見立てて自分の作品を描いている
場合なのか?」

「表現力を身につけるだけでなく、
デザインの社会的意味について同時に学ぶ必要があると
私が気づいたのは、社会人になってからでした」


この考え方は僕も長いデザイナー人生で
命がけでビジネスしている多くのクライアントと仕事をするうちに、
「デザインのためのデザインなんかしても仕方がない」と
実感するようになりました。

その中でも“パッケージ”は
パンフレットや新聞のように
素通りする媒体ではなく、
手元に残ったり、
捨てるときも色々と手間どったりと、
社会的存在の意義が問われる“存在”です。

だから、パッケージのデザインを考えるときは
お客さんが手渡された後に
どのような“存在”であるべきか?
ということも重要な課題となります。


私達パッケージデザイナーにとって、
デザインの仕事は“責任”と対峙させられる仕事であることを
強く意識させられる佐藤卓さんの「塑する思考」という本。
是非一度、ご覧になってください。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?