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夢の中に閉じ込められた冬眠者の夢をみる【読書日記】

1月22日(Monday)

呼吸器内科の受診日。比較的落ち着いた日も多いけど、月に数日は一日中息苦しい話をする。そうした発作が出るのはあまり良くなく、今より薬の量を増やすか別の薬に変えることも検討した方がいいということになった。とりあえず2ヶ月分は今の薬で様子を見つつ、発作時のための吸入薬を貰う。これで落ち着いてきたら量を減らしたり、薬を止めることも出来るようになるかもしれないと言われながら、もう半年の付き合いになる呼吸苦にしょんぼりする。

待合室で読んだのは、東雅夫編『ゴシック文学入門』

ついでに買い物などを済ませて帰宅してから、米澤穂信『真実の10メートル手前』を読了した。以前に読んだ『さよなら妖精』の登場人物、大刀洗万智をメインキャラとした短編集。あれから数年が経ち、フリーの記者として様々な事件に関わる大刀洗。ただどの話も語り手が彼女自身ではないことを不思議に思っていると、あとがきでそのことについて触れられていた。

次に小出和代『あのとき売った本、売れた本』を読み始める。書店の裏側が面白い。書店のフェアや平置き本、POPにいつもまんまと引っかかってしまうけど、それはこうした書店員の方々の熱意と努力の結果なのだと思うと、今のままで、いやむしろもっと引っかかっていこう!と書店での衝動買いを許していける気がする。

私の読書はとても引きこもりがちだけど、それとは別の感情として、本の中から外へと開いていける人たちのことをとても尊敬しているのです。



1月23日(Tuesday)

昨夜、母が来ると連絡が来る。特に予定もなかったので了承。今年はなんとなく年始の挨拶にも帰らなかったので母の方からやってきた。母のことは嫌いではないし、家族のことだってそうなのだけど、近くにいると私が私でいられなくなるので距離感に悩む。家族の望む私と、私の望む私との乖離。母と話す私は俗世に繋がれる。

スタバの新しいのが気になるという話になって、ジャンドゥーヤチョコレートモカとハム&クリームチーズの石窯カンパーニュを買いに行く。食べながら家族の生活周辺、そして祖父の治療の話を聞く。癌の転移が多く、希望していた治療が受けられない可能性があるらしい。検査が続き、その間にも祖父の身体は蝕まれる。今まで敢えて伝えていなかった癌のことを祖父に伝えたという。延命治療、というワードが出てきて一瞬地面の在り処が分からなくなる。

夜、筒井康隆『モナドの領域』を読み終え、そのまま『あのとき売った本、売れた本』も読了。筒井康隆作品を読んだのはとても久しぶりだったけど面白かった。何が始まったのか分からないまま無理やりに引き摺り回された気分。全てを知るGOD。世界の真実。モナド。ひとつの意志に煽動される全体が少しだけ怖かった。




1月24日(Wednesday)

雪が降った。一面の雪。そして、まだ降り続いている。本棚から取り出したのは山尾悠子『ラピスラズリ』。この中の『閑日』が大好きで雪の降る中で読み返したかったのです。窓際に椅子を据えて、顔を上げるたびに〈冬〉を目にすることができるようにして読み始める。

「眼が覚めたら、まだ春ではなかったの。だからわたしはね」
小娘はふと微笑んだ。かじかんで血の気のない顔には甘やかな色が差し、その色はことばに流れた。「──〈冬〉を見ていたの」

山尾悠子『閑日』

冬の間を眠って過ごす〈冬眠者〉たち。その眠りのさなかのはずの塔の中で眼が覚めてしまった少女と、そこで出会う亡霊。冬の冷たさに研ぎ澄まされる言葉が作り上げる世界を感じながら、私の身体も窓際で伝わる外の冷気に熱を奪われる。降り積もる雪、私の前にも亡霊が現れたらいいのに。そうして、この塔に招き入れる。

「いつでもお入りゴースト。夜の鳥のように皆が眠っている冬寝室を見て歩くこともできるし、探しているものをどこかで見つけられるかもしれない──鎖を引き摺った亡霊が探すのは無くしたお宝だけれど、おまえが探すものはきっと別のものね。二度と逢えなくても後悔しないために、これを言うのよ。〈冬〉とおまえのことをわたしは忘れない、決して」

同上




1月25日(Thursday)

こんな夢を見た。
私は水の中に沈む小さな家に住んでいて、そのうちの一部屋には畑がありキャベツを育てている。毎日、毎日そのキャベツに水をやり、天井に届くほど大きく育った時、私はこの家を出ていける。ここがどこなのか、いつから住んでいるのか、何のためにそんなことをしているのか、何も知らないままブリキのジョウロで水をやり続けている。

これが私が覚えている中で一番好きな夢。目が覚めてから、どうしようもなく悲しく寂しくなった。閉ざされたあの家には時間がなかった。本当は知っていたのだ。そんなにも大きく育つキャベツなんてないことも、そもそもあの家では何も育たないことも。停滞は永遠である。

眠りが浅いので色々な夢を日々見るのだけど、どこにも辿り着けない夢を見ることが多い気がする。この前は永遠に止まらない透明なエレベーターに乗っていた。

そんな夢のことを考えさせられたのは、東雅夫編『文豪ノ怪談ジュニア・セレクション 夢』を読んだから。少し前に読んだ本の中で紹介されていて、そういえば読んだことがなかったと思い手に取った。夏目漱石『夢十夜』、内田百閒『豹』、中勘助『ゆめ』、芥川龍之介『沼』、谷崎潤一郎『病蓐の幻想』、佐藤春夫『山の日記から』、志賀直哉『病中夢』、夢野久作『怪夢』、北杜夫『夢一夜』、小泉八雲『夢を啖うもの』。夢に関わる作品が、つらつらと夢の場面が変わるように編まれている。総ルビで脚注も多いので、これは10代の時に読まなかったのが悔やまれる。

夜、夫に将棋を挑む。八枚落ちのハンデをもらいながら大負けしたので本当に才能がない。




1月26日(Friday)

歯茎に口内炎みたいなものが3箇所できて痛い。ただ、毎年冬には同じ場所が痛んでいるので寒さによるストレスだと思われる。もともと不調が口内に出やすいので頻繁に口蓋が荒れたり、歯茎が痛んだりするのだけど口腔外科に行くほどではないから耐え忍ぶ。今年は喘息の調子も悪いのでなおさらダメージ。去年すべての親知らずを抜き終わっていることが救い。

最近配信されたアプリゲームにドハマリしている。暇さえあればやってしまう。




1月27日(Saturday)

なんだか急にあつ森がやりたくなって久しぶりに島に帰った。住人たちから11ヶ月ぶりの再会を喜んだりシレッと交わされたりしながら、アップデートされた家具たちに島を色々と弄りたくなる。改造のイメージが湧いたので、これから少しずつ変えていこう。

お昼に夫が宅配で頼んだ冷凍麺を使ってラーメンを作ってくれる。食後、夫の新しいランニングシューズを買いに出かけた。アディダスのボストン12。カッコイイ。

帰宅後、読書。あまりに息苦しいので肺に睡蓮が咲いているかもしれないと思ってヴィアン『うたかたの日々』を読んだ。
愉快でシュールな不思議な世界がどんどん悲しみの色に包まれていく。彼らが無自覚に加担してきた残忍な世界は当然ながら不幸になった彼らを救ってなどくれない。

肺に根付いた睡蓮の治療のためには花を買わねならず、コランは今までの生活を捨てて働き始める。不幸な労働。そんな悲痛に伴って彼らの愛の巣は半植物半鉱物に覆われ縮小する。暗く淀んだ室内で花に囲まれた透明な肌のクロエの姿だけが皮肉な程に鮮やかで美しい。

そしてラスト。彼らに大事に育てられたハツカネズミが猫に話すシーンがとても好きだ。

「あの人は睡蓮が水面まできて自分を殺してくれるのを待っているの」

ヴィアン『うたかたの日々』野崎歓訳

彼らの愛はとても美しく、切実で穢れがない。この世界で生きることを許してもらえないほどに。そして、この世界はあまりに残酷で無意味で消費されていく。

大切なことは二つだけ。どんな流儀であれ、きれいな女の子相手の恋愛。そしてニューオリンズの音楽、つまりデューク・エリントンの音楽。ほかのものは消えていい。なぜなら醜いから。

同上「まえがき」

コランの発明したカクテルピアノがとても素敵。




1月28日(Sunday)

お昼頃までゲーム。その後、大阪国際女子マラソンを見る。ファイナルチャレンジがどうかなぁとは思っていたけど、まさかの日本記録更新。ハーフあたりで飛び出した時は、夫と早すぎるんじゃないかなと心配してしまったけど、あまりに凄かった。大興奮。

夕方、焼肉に行く。久しぶりの焼肉だったのでいっぱい食べた。明日はヘルシーなものを食べると決める。

読書は『ゴシック文学入門』を読み進める。

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