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ただ眠かっただけだと言わせて【読書日記】

9月21日(Sat)

三連休一日目。とはいえ、私は少し仕事があったので午後に出かける。帰宅後、久しぶりにガストに行きたくなって夫と出かけた。ふたりでチキンを食べる。

帰宅してからワイルド『ドリアン・グレイの肖像』を読み進める。半分ほどまで。純粋無垢な美少年だったドリアン・グレイがヘンリー卿の言葉に影響を受け、少しずつデカダンな道へと足を踏み入れていく。そうして、その変化を代わりに受けるドリアン・グレイの肖像。



9月22日(Sun)

夫と共にネカフェで漫画を読んでダラダラしにいく。快活CLUBのご飯がとても好きなので、お昼も食べてっちゃおう!などと言っていたら、もともと予定していた3時間を過ぎていて、結局6時間いた。

一日中、ダラダラしていただけなのであまりお腹がすいておらず、夕ご飯は簡単に冷麺にすることにした。

夜、東直子『青卵』を少し読む。

今そばに居る人が好き水が産む水のようだわわたしたちって

やすらかにずぶぬれている永遠にまわりこまれて手を上げました

東直子『青卵』



9月23日(Mon)

空気が秋めいていてびっくりする。夏がいなくなってしまった。

映画館に行くつもりだったのだけど、出かける準備をしているうちに、そこまで行きたいわけでもない気がしてきて中止。家でイチローのKOBE CHIBEN vs 高校野球女子選抜の試合を見ることにした。松坂大輔、松井秀喜ととても豪華。

私が野球に興味を持ち出したのはわりと最近なのでイチロー、松井秀喜の凄さをよく知っているわけではないのだけど、夫はイチローを見て野球をしていた人なので、とても楽しそうだった。
結果は、KOBE CHIBENが勝ったのだけど、最後の松井のホームランはヒーローすぎて大興奮。

ファンタジーが読みたい気分だったので乾石智子『夜の写本師』を読み始めた。オーリエラントの魔導師シリーズ。濃密で色の濃い夜の空気。絶望の闇色の夜、大切な恩師の命を目の前で奪われ、復讐のために生きることを決めた少年の姿に心を奪われる。魔法のある世界はわくわくする。



9月24日(Tue)

涼しいを通り越して寒いとすら感じる目覚め。急激に秋が深まりすぎではないでしょうか。衣替えをいつするべきか悩む。

今日は通院の日。いつもは朝イチで行く病院だけど、仕事があったので午後にしてみたら混んでいてびっくりした。季節の変わり目であまり調子がよくなく、薬を追加するか提案される。とりあえず次の診察まで様子を見ることにした。
もうひとつ気になっていた症状の検査の相談をすると胃カメラをしなくてはいけないらしく、これも検討することにする。先生からは絶対にしたほうがいいと言われた。でも胃カメラは怖い。

帰宅後、ワイルド『ドリアン・グレイの肖像』を読み終えた。充満する芸術と頽廃の香りを堪能した。美しきドリアン・グレイが辿る残酷と破滅への道。ドリアンが背負うべきだった老いや罪を請け負った肖像は変容し、現実世界の彼の表面は美しき美少年のまま時を過ごす。変容と不変、現実と虚像。

夕焼けが空を染めてから、消えるまでの、ほんの数分のあいだ──子供たちはかくれ、家では晩ごはんの支度がすすみ、いつものように豆腐屋のラッパが通り過ぎてゆく。そして、かくれんぼの鬼だった子供だけが、とりのこされたように立っている。

寺山修司「かくれんぼの塔」『寺山修司青春作品集:1 赤い糸で縫いとじられた物語』

去年、この本を買ったきっかけだった寺山修司の「かくれんぼの塔」を読み直した。七十年の時を、かくれんぼの鬼だった老人は、いつまでもかくれんぼは終わらぬまま、子供たちは少年の姿のまま隠れ続けていると思っている。



9月25日(Wed)

チョコエッグが欲しくなって二つ買った。どちらも目当てのものは出なかったので残念。

残業で夫の帰りが遅い。一人の食事はあまり好きではない。



9月26日(Thu)

少し暑い気がするけど、風はもう完全に秋だった。金木犀はまだかな?

乾石智子『夜の写本師』を読み終わる。濃厚なファンタジーだった。そしてまだシリーズがあるのが嬉しい。
海、闇、そして月。かつてひとりの女が持っていた力をすべて奪った男。時を超え繰り返されてきた復讐。そして今度は魔法は使わない男として、右手に月石、左手に黒曜石、口のなかに真珠をもって生まれた。

きっかけは恩師と少女を目の前で殺されただけではなく、もっとずっと続いてきた憎しみがあった。その描写は痛ましく、苦しいものではあったけど、月も海も闇も美しく心を奪われていた。そして、はじまりは愛だったのだ。身を焦がすような愛が憧憬と畏怖と憎悪と混じり合い、愛憎が奪い、殺せと運命を貫いた。

「『誰もがもっている七色の混沌の闇の心の奥底には、なにものにも穢されることのない純粋な紫水晶が輝いている』」

乾石智子『夜の写本師』

次は、胸の奥底に紫水晶の輝きを持つ少女の物語になるんだろうか。楽しみ。



9月27日(Fri)

夫が私が読書家であるかどうかの話をしてきて、本は読んでいるけど読書家とは言えないと思うと答えると、上を見すぎな気がすると言われた。「君が望んでいるのはどんな本の話をされても同等に語れるような状態なんだろうけど、君がいつか読書家だと胸を張れる時が来たら我が家は本に埋まるなぁ」と夫。出来れば次の引越しまでは本棚を増やさないでくれと頼まれた。住処を移ろい変わりながら生きていく上で、蔵書問題は壁。

夫は今、ブレイク・スナイダー『SAVE THE CATの法則 本当に売れる脚本術』を読んでいるらしく、ひとつのジャンルに対してどれだけの下敷きとしての引き出しを持っているかというような話もした。王道を書くためには王道を知らなきゃならないし、ひねりを加えるにも王道を知らなくちゃスベる気がする。
それから、描かない所まで作り手はその世界を考えているんだろうなと話し、夫が宮崎駿はただの船乗りがその日の弁当のおかずに何を食べてるかまで考えてるみたいなことを何かで見た気がすると言っていた。そうして作られた世界の重厚さを、ただ刹那的に、しかし深層の世界に潜り込ませながら受け止めている。

夜のうちに『青卵』を読み終わりたかったのだけど少し残ってしまった。

足の爪のびすぎている さびしくはないんだ少し眠かっただけ

東直子『青卵』

この歌を読みながら無性に泣きたくなってしまった。いつも眠るのが早い夫の隣で、私は毎晩本を読む。隣から聞こえる寝息以外に音のしない真夜中のぽっかりと空いたこの穴は、寂しさなどではなくただ眠いだけなのかもしれない。そうてあればいい。

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