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データ活用が生産現場で半年も定着しない

 前々回にデータ活用の壁としてデータ品質について取り上げました。蛇口をひねればきれいな水が出るように、少ない作業で綺麗なデータが手に入るように整備しておくことが大事です。そうすれば多くの人が早くデータ活用の土俵に上がれます。

 すぐにデータを調理できることはとても良いことですが、料理と同じで人が道具の使い方、流れやレシピを習得して良い成果を出せるように手を動かして腕を磨き続ける必要があります。
 私は日系大手企業に勤めていますが、スキル習得のための研修制度はとても充実していると思います。しかし育った人財が職場に戻り継続的にデータ解析スキルを磨いているかというとほとんどの方はデータ解析をやっていません。  
 研修の際は「職場で使ってみます!」と張り切っていた人も半年後には全く別の業務をやっているという事態になっています。
 今回はデータ活用の第二の壁、組織的にデータ活用が根付かないことについて思うことを書いてみようと思います。


大企業はジェネラリストを育てたいのか

 大手企業では専門性を伸ばすというよりは、ジェネラリストが賞賛される傾向があると思います。特に私のいる会社ではその傾向が強く、専門的な内容は外部の専門家(ビジネスパートナー)に任せ、社員は旗振り役に徹しどれだけ人や専門家を巻き込めたかが評価対象になります。そのため人事異動も多く1年に1回は人事異動により配置転換が行われます。
 会社の育成方針としては、研修を受講して学んだ内容を実践をするアウトプット重視型よりは、インプット重視型で業務内容を知り要件定義(や戦略方針)さえ立てれば中身の細かいことはあまり知らなくても大丈夫という雰囲気があります。一件一件深く突っ込むと他の案件を経験できなくなるからです。データサイエンティストとして専門性を育むには1年足らずで配置転換していてはとても時間が足りません。データ解析未経験で職責上たまたまAIプロジェクトのマネージャーになっているというケースも多く見られます。

トップと現場の評価基準の違い

 私はトップから「内部人財をデータサイエンティストに育てよ」というミッションを与えられ研修を実施しています。データサイエンティストとは実際にデータ解析し、そこからビジネス価値を見出せる人財を言いますが、そのようなスペシャリストを育てようとすると時間を要します。
 一方生産現場では「わざわざ手を動かしてまでデータ分析する時間は無い」、「試行錯誤している時間は無い」というスタンスが多いです。データ解析の試行錯誤は結果が出るかどうか不確定要素が多いのは事実で、効率や納期の優先度が高い現場では「こいつ非効率なことばかりやっているな」とこれではデータ解析者の地位がどんどん下がってしまいます。
 トップが求める「データサイエンティストとして育つ」は必ずしも現場で「高い評価を受ける」わけではないということで評価基準が違うわけです。

データ活用価値を伝えるのと人事評価制度の見直しが必要

 生産現場にはまだまだデータ活用による時間投資の価値が伝わっていないと思います。現に今まで携わった案件で成功事例は3割程度で、残り7割ぐらいがそもそもデータが取れていなかったり、データクレンジングなど頑張ったけど新たな知見は得られなかったという事例です。自部署が3割の成功事例に乗れば勢いがつきますが、成果が出なかったところは使った時間が無駄になっでしまったと失望してしまいます。そのため我々は今の状態で成功しそうかどうか見極めるためのPoCを実施しています。しかし全案件PoCはやれないので少なくとも研修を受講したデータサイエンティストの卵達にもその役割を担って欲しいと思ってます。ここで成功イメージが持てればデータ活用の価値が現場に広がると思います。
 そうは言っても残念ながら失敗割合の方が多いので、早く成功イメージに辿りつくにはPoCの数を多くこなし、速く回すことが大事です。
 しかし今の人事制度ではPoCをやって成果が出なかったら評価されない仕組みなので、PoCをやった回数や失敗した数も評価対象に入れるべきだと思います。
 色々な試行錯誤をやってチャレンジしていることをトップにも認知され、果敢に挑戦をしているチームや人財にはインセンティブを与えるというような仕掛けも必要かもしれません。
 またデータサイエンティストは今まで育ててきたジェネラリストとは違う育て方をしないと育ちませんよという認識をトップや人事にも持ってもらうことが必要だなと思います。


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