短編小説 「マドンナを殺した!」

私は遂に惚れ薬を生み出してしまった!
研究を初めて数年、そう!たった数年!
構想を始めたのは小学六年のころ!
「ハカセって勉強できるけどぜんっぜんかっこよくないよね!人の気持ちもわかんないしさ!」
クラスで1番のマドンナに言われたあの日!
幼なじみのあの子に言われたそうあの日!!
君だけは私の味方だと思っていたのに!!!
ずっとずっと一人で勉強ばかりしていたためずっとずっと友達のいない僕の隣にいつでもいてくれた君!
「ハカセは将来本物の博士になるんだよ!だからいつもいーっぱい勉強してるんだよ!偉いんだよ!」
そうやって幼稚園の頃いじめられていた僕のことを助けてくれたのに!年月というものはなんと恐ろしいものか!9年の月日が経ち可愛い幼稚園児は思春期という人間史上最も厄介な時期へと少女を導いた!そしてその弊害は幼なじみの私へと被弾したのだ!心臓へクリーンヒット!心臓を優に貫き、私8人は息の目を止めたであろう!
......だが9人目の私は立ち上がった!絶対に私の隣にいてくれたあの彼女を救い出してみせようと!
私の隣にいてくれた彼女を取り戻すには何をすればいいのか考えた!三日三晩寝ずに考えた!!彼女は私に少なくとも好意を抱いていたはずなのだ!それなのに今はその好意はどこにか旅に出てしまったようだ......
そうだ!!!その好意を取り戻せばいいのだ!彼女を私に惚れさせればいいのだ!と結論を!!出した!!!私は惚れ薬を作り出そうと考えた!眠った姫をキスで起こすように!忘れられたあの日の記憶を懐かしい食べ物を食べて取り戻すように!私は彼女に薬を飲ませ!彼女を確実に取り戻そうと考えたのだ!!
その日から研究を一日たりとも欠かすことはなかった!周りからどんな目で見られようとも!どれだけ「馬鹿なことをしている」と言われようとも!彼女のことだけを思い続け!ただただ幼き頃の彼女を考え続け!薬の研究に没頭し続けた!

9年もの月日が経った。彼女は容姿端麗!純情可憐!博学多才!クラスのマドンナに留まらず学校の、いや国の、いや宇宙のマドンナとして成長していた!!男女関係なく人気がある彼女とは小学校以来話すことは益々減り!廊下ですれ違った時に目があうことすら稀になってしまった!
「なんで廊下ですれ違うのか?」と疑問に思ったであろう。そう!彼女とは小中高大全て同じ学校であったのだ!決して私がストーカーのように彼女を追いかけたわけではない!たまたま同じ学校であったのだ!やはり彼女とは運命の赤い糸で結ばれており!やはり我々は隣にいるべき関係なのだ!!

21歳の誕生日!惚れ薬を構想して早9年!私は遂に惚れ薬を生み出してしまった!彼女に早速飲ませようと思った!彼女を取り戻そうと思った!ただ薬を直接飲ませるには流石に怪しまれるだろう。どうしたものかと考えた!
その時私の目に飛び込んできたのはバレンタインデーの広告!そう!私の誕生日は2月11日!バレンタインデーの3日前!そうだこれだと思いついた!バレンタインデーに彼女にチョコを渡す!そしてそのチョコに惚れ薬を混ぜればいいのだと!海外では普通男性が女性にプレゼントを渡す日だそうじゃないか!なんの問題もない!何も変ではない!早速2月14日に渡すものがあると彼女を呼び出した!メールで呼び出した!「わかった」とだけ連絡が来た!早速惚れ薬入りのチョコレート製作を始めた!来る2月14日に向けて!

三日三晩寝ずにチョコ作りに励み、遂にその日が来た!彼女は私の目の前に立っている!あの世界のマドンナが!私のマドンナになるべく!私の目の前に!腕を後ろに組みながら立っている!
「久しぶりハカセ、何?渡したいものって」
彼女は少し俯きながらこう話す!モジモジしながらこう話す!なんだ私に呼び出されて緊張しているのか!彼女も何かを察しっているのだろう!すぐさまチョコを差し出す!
「おい!これをお前にやる!!」
「…え?なにこれ...?」
「今日はバレンタインだろう!受け取れい!」
彼女は驚いた顔をしている!大きな目がパチクリしている!少し悲しそうな表情にも見える!
「バレンタイン知ってたの...?」
可愛い顔して何を言っているんだこのマドンナは私をバカにしているのか!全く私のチョコを受け取ろうとしない!手は後ろで組んだままだ!
「いいから早くこれを食べるんだ!」
私は辛抱できずに梱包を破り捨てた!そうして出てきたチョコを彼女の口に投げ入れた!チョコはスルルっと彼女の喉に流れてゆく!驚きながらも彼女はゴクンと飲み込んだ!
「.........」
彼女は下を向いて返事をしない!まずい!失敗か!...まさか毒薬になっていたりしないよな?死んでしまったりしないよな?私はソワソワし始めた!
そんな心配を他所に!マドンナは突然目を覚ました!そして目を覚ますなり私を見てこう言った!
「ハカセ!あなたのことが大好き!!これ受け取って!!結婚して!!!」
そう言って彼女はチョコを取り出し!私に渡すと同時に!私に飛びついてくっついて来た!!!
ああ!なんてことだ!!私の研究は大成功だ!!遂に彼女を!幼なじみを!マドンナを取り戻すことができた!!私の9年が実を結んだのだ!!これにてハッピーエンドだ!!


なぜ彼女はチョコを持っていたのだ?薬を飲ませてすぐなのになぜ彼女はすぐにチョコを私に渡せたのだ?今私にくっついている彼女を見る。目はハートの形になって私のことを見ている。顔はニッコニコだ。間違いなく惚れ薬はかかっている。成功だ。
彼女がくれたチョコには手紙がついていた。くっついてくるマドンナをどうにかしながらその手紙を読んだ。
「遅いよ。待ってるよ。早く気がついてよ。」
手紙にはそう書いてあった。この手紙は間違いなく惚れ薬を飲ませる前に書かれたものだ。気がつくとは何だ?何に気がつくというのだ?なぜ彼女は私の急な呼び出しにスムーズに応じたのだ?なぜ彼女はずっと私と同じ学校に通っていたのだ?私が追っていたわけではないのに。そもそもなぜ彼女に私は嫌われたのだ?

9年と3日前。私は12歳の誕生日であった。そうだ、彼女にチョコを渡されたのだ。ハート型のチョコ。生まれた時から家は隣で、親同士も仲が良く、いわゆる幼なじみとして仲良く育った。毎年誕生日には何かをプレゼント送りあっていた。
それがその年にはチョコを渡してきたのだ。物ではなくお菓子。それも私が甘いものがあまり得意でないと知りながら。
「そんなものはいらない!なんでチョコなんか渡すんだ!」
そう言って私は彼女のプレゼントを受け取らなかった。彼女は泣いていた。そして怒っているようでもあった。
「ハカセって勉強できるけどぜんっぜんかっこよくないよね!人の気持ちもわかんないしさ!」
そう言って彼女は走って帰ってしまった。私は8回死ねるほどのショックを受けた。そして三日三晩寝ずに考えた。惚れ薬を考えついたのはバレンタインデーの朝だった。その日彼女からチョコは貰えなかった。


もしかしたら彼女はそもそも私のことを好いていたのではないか?惚れていたのではないか?惚れ薬など必要なかったのではないか?私は高揚感を覚えると共に不安も覚える。既に私に惚れている人間に私に惚れる薬を飲ませた場合。その場合、その惚れているという感情は、好意という感情は何なのだろう?そもそも抱いていた純な感情なのか?それとも薬による偽りの感情なのか?目をハートにして私にくっつく彼女を見る。彼女の今抱いている感情はなんだ?まさか惚れ薬せいで本来抱いていた惚れている感情は失ってしまったのではないか?
「嘘だ!帰ってこい!マドンナよ帰ってこい!!」
私はなんてことをしてしまったのだ!私は自分の作った薬で彼女の純粋な感情を!愛情を殺してしまった!!そんな薬まるで毒薬ではないか!私は9年かけて毒薬を作り!大好きなマドンナを!私のことが大好きなマドンナを殺してしまったのだ!震えが止まらない!なんということだ!なんていうことをしてしまったのだ!
「返せ!私のマドンナ返せ!!!」
泣きながらこう叫ぶ!そんなことを叫んでももう彼女は二度と返ってこない!残ったのはハートの目をしたマドンナだ!
ハートの目をしたマドンナを強く抱きしめながら泣く!念願叶って強く泣く!マドンナを殺して強く泣く!!9人目の私も今死んだのだ!

                                                    井上 あした

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