仕事と育児を切り分けず、子どもに自分が働く姿を見せる。【わたしのバランス 母里比呂子さん Interview】
心とカラダ、仕事と暮らし、社会と自分。今を生きるあの人は、なにを軸にして、どんなやり方で“バランス”を保っているのだろう。気になる女性に「わたしのバランス」について聞く連載、始めます。
今回お話を聞いたのは、二児の子育てをしながら、故郷・静岡県掛川市を中心に事業に取り組む母里比呂子さんです。地方で暮らすママのキャリアをサポートする「育ママキャリアシェアiNG」を運営し、国産オーガニックの抹茶のブランド「MATCHA HEAVEN」を展開しています。
違和感を見逃さず、“自分らしく”いられる場所を探し求める
「なんかちがう」という自分の胸に張りついた違和感から目を背けて、心とカラダを崩してはじめて、自分が無理をしていたことに気づく。
母里さんは、そうなる前に、自分の心に芽生えた“違和感”を見逃さず、“自分らしく”いられる場所を探し続けてきました。
新卒で国際線の客室乗務員として働いて3年、リクルートへ転職。ホットペッパービューティーのヘアサロン営業担当として仕事に奔走していた頃は、朝8時に出社して深夜2時に帰宅する生活を送っていたそう。
「もともと仕事が好きでやりがいもありましたが、家庭を持ったら続けられないなと思っていました。両立ができる人もいるかもしれませんが、私は無理をしないと成り立たない状況であることへの違和感がどうしても拭えなくて、その心の声に従うことにしました。
結婚が決まって子どもが欲しかったので、転職を考えて、上司に引き止められながら、食道炎になるくらい悩んで。結局、仕事だけでなく家庭も大切にできるように、キャリアチェンジをしようと会社を辞めました。」
退職してすぐに妊娠が発覚。夫の勧めもあって、専業主婦へ。仕事から家庭へと大きく舵を切った母里さんの心の中には新たな葛藤が生まれます。
「周りにはバリバリ仕事を頑張っている友人もいて、私はこのままキャリアを中断してしまっていいのかなって悶々としていました。」
そんな母里さんの手を引いてくれたのが、リクルート時代の先輩であり、女性活躍を推進する株式会社OMOYA代表猪熊真理子さんでした。
「真理子さんに声をかけてもらって、長女が生後6ヶ月から週2回の子連れ出勤と在宅勤務で1年間働きました。OMOYAは、社会で輝く女性をサポートしていることもあって、職場に子供を連れていく文化が浸透していて。インターンの大学生が、喜んで娘の面倒を見てくれるんです。その間に、商談をしたり、提案書を作ったり仕事に没頭できるので、とても働きやすい環境でした。 そのうちに、自信を取り戻していって、もっと自分らしく生きてみようと会社をつくったんです。」
自分にとって大切な故郷に仕事を通じて恩返しをしたい
自分の会社を立ち上げた母里さんは、二児を授かり、出産のために里帰りした静岡県掛川市で新しい道を切り拓いていきます。
「地元でママになった同級生と話していたら、掛川で子育てしながら働くのは難しいと悩んでいる人が多くて。子どもがいると、時間的な制約もあって、突然子どもが熱を出して仕事に支障をきたしてしまうのではないかという心配も拭えないんです。
しかも地方ってなかなか仕事がない。でも出産育児によって一旦仕事を辞めてしまうと、今まで培ってきたキャリアも途絶えてしまい、復帰が難しくなってしまう。自分の人生を生きることが、そこで絶たれてしまうのが悲しくて。一人で抱え込むには、大きすぎる問題だと思いました。そこで、私は真理子さんに助けてもらったから、今度は私が彼女たちに仕事を提供できないかと思ったんです」
母里さんは、地元のママたちにヒアリングをして、同じ事業の失敗例を調査。リクルート時代に培った力とコネクションをフル活用して、執筆業を中心にママたちのスキルを磨いて企業とマッチングする「育ママキャリアシェアiNG」を始動します。
「私に何ができるんだろうと考えた時に、リクルートで営業からライティング、撮影までを全て一人でやっていたことを思い出しました。ライティングの仕事であれば、自分で時間の調整ができるのでママも取り組みやすいですし、私がスキルを教えられるって、気づいたんです。
また、お仕事の報酬をあげることが、無理なく続けられるコツだと思い、ライティングスクールを開いて、スキルを磨いてもらうことに力を入れました。今は、高いスキルを身につけたスクールの卒業生にある程度の報酬で、お仕事を紹介しています。初めは大変でしたが、今は掛川と愛知で26人のママたちが活躍してくれています。」
そして、「育ママキャリアシェアiNG」を始めたことで、掛川市の観光課の会議に出席するように。「掛川の魅力=深蒸し茶をアプローチすること」が議題となるため、お茶の歴史と現状を調べると、その売上は過去25年で551億円も減少。需要の低迷により生産者が厳しい状況に立たされていることを知りました。
「祖父が煎茶の手もみの先生だったこともあり、お茶の魅力を再認識してもらうために、有機抹茶ブランド「MACHA HEAVEN」をスタートしました。本来でしたら、祖父も携わっていた煎茶をテーマにするのが自然かもしれませんが、静岡掛川の煎茶のブランドはたくさんあったので、地元で競い合うことはしたくなかったんです。まったく新しい価値観を作るために、静岡の抹茶を開拓したいと思ったんですね。」
月1回のペースで帰省し、故郷・静岡県掛川の地域活性化事業に力を入れる母里さん。
「生まれ育った地元が大好きなんです。掛川に恩返しをしたいという思いはずっと持っていました。お節介な性格もあって、掛川で働くママやお茶の生産者さんの課題を知って、自分が役に立てることはしたい!と動き出していましたね。」
自分が描く”幸せのかたち”を大事な人の理解を得ながら実現していく
当時の母里さんは、パートナーが単身赴任中で、ふたりの幼い子どもをいわゆるワンオペで育てる母。故郷で事業を始める際、子育てやパートナーの理解も含め、ハードルはなかったのでしょうか。
「むしろ子どもがいることは原動力になりました!子どもたちに本物のお茶の味を知ってもらいたかったし、どんな茶葉からどうつくられているかを知るいい機会になると思ったんです。
夫は最初は反対しましていましたが、借金をせず自分のお金でやること、子育てをないがしろにしないことを条件に理解してくれて、スタートできました。成果が出てくると、より一層応援してくれるようになりましたね。」
生後6ヶ月から一緒に会社に出勤し幼稚園に通っていた長女と、幼稚園に通わず打ち合わせや茶畑に一緒に行っていた次女。
「私は子どもたちに自分の働く姿を見せたいと思っています。だから、自分の働く環境を知っている人と仕事をしつつ、初めての場合でも、子連れで行っていいですか?と確認して、可能なら連れて行かせてもらっていて。どうしても無理な場合は、友人たちに預けていますね。」
既存のルールやビジネスの“常識”にとらわれることなく、否定することもなく、家族や仕事相手の理解と信頼を得て構築してきた自分らしい働き方。
とはいえ5年間、自宅で子どもがいる状態で仕事をすることが当たり前だったという母里さん。そのコツは?
「1日のスケジュールを組んで、仕事に集中する時間と子どもたちと思いっきり遊ぶ時間を持っています。子どもが好きなドリルや絵を描く道具を渡して、“15時までママは仕事に集中しなきゃいけないから、そのあと一緒に遊ぶためにもがんばろう”と子どもたちにも伝えて。2歳くらいから、ずっと言い聞かせていると、子どもたちも理解してくれるんですよね。その代わり遊ぶ時間を決めたら約束は必ず守るようにしています。」
週7日で家事育児と仕事。子どもたちが寝ている時間、朝5時から仕事をすることも。自分の心とカラダを保つために、意識していることは?
「自分にとって寝ることと美味しいものを食べることが大事だと分かっているので、疲れたら美味しいものを食べて寝るようにしています。
それから、1日の中でお抹茶を立てて、ゆっくり飲む時間をつくること。香りの効果もあってリラックスできるんですね。あとは、運動不足を解消するために子どもと一緒にオンラインバレエをするなど、適度に身体を動かしています。
私にとっては、働くことや子どもの可愛い姿を見ることも癒しになっているんですよね。」
生活がままならないほど仕事に打ち込み、会社を辞めて専業主婦から、起業。自分が心地よくいられる場所を探し求める好奇心の芽を絶やさずに、家族の理解を得ながら、行動を重ねてきた母里さんの「わたしのバランス」。
母里さんは、「自分」を軸に、仕事と育児を切り分けてバランスをとっているのではなく、自分の仕事に子どもや故郷、大事な人や場所をつなげていくことで、健やかなバランスを保っているように思います。
仕事と育児、自分と社会、と「境界線を引かないこと」で生まれるバランスがあることを、しなやかに進む母里さんが教えてくれました。
母里 比呂子 (もり ひろこ)さん
大手航空会社の国際線客室乗務員を経て、リクルートへ転職し、美容業界の営業を担当。
結婚・妊娠を機に退職後、専業主婦に。
その時に感じた社会との断絶感から株式会社OMOYAで子連れ勤務で自信を取り戻し、オイル美容にハマっていたこともあり、妊娠中のべビーマッサージの資格取得がきっかけとなり、赤ちゃんでも安心して使用できる無添加オイルブランド「hirondelle(イロンデール)」を立ち上げる。
現在は、地元静岡県の地域活性化に貢献したいと、地方ママのキャリア支援を行う「育ママキャリアシェアiNG」代表、有機栽培の日本茶・抹茶の魅力を世界に発信するため「MATCHA HEAVEN」ブランド代表を務める。
2児の母。
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