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火事と三者面談、もしくはホースとビール

近所で火災があった。

お昼頃、おびただしいほどのサイレンが怖いほど近づいてきたので、かなり近くだと分かった。

ポンプ車が停まってるの、もしや、うちの前?

消防隊員らの声が飛び交う。
拡声器で、大きな声で。

ベランダに出たらすぐ煙が見えたので、慌てて屋上に上がる。

ごうごうと勢いのある炎と煙。
家の前の通りの、もうひとつ向こう。とても近い。

熱波が、私の居る屋上にも風と一緒に押し寄せ、燃えているもののにおいがした。

次の瞬間、風に煽られ、数秒だけ炎が強くなった。

巨大な炎の輪。
恐怖と迫力に、身がすくんだ。

お願いです、あの輪の中に命がありませんようにと祈ることしか出来ない。

炎に向かって、弧を描く水や消火剤。

幾多の方向から、それらは撒かれ続けた。

燃えているあたりは、住宅密集地で道が非常に狭く、車両は入れない。
人が、二人横並びで歩くのがやっとだ。

近隣の建物のベランダや屋上には、消防隊員の姿。

その建物の人達も一緒になって、炎に向かって黄色くて太いホースを向けていた。

すぐに赤い炎は、完全に見えなくなった。

煙が風に舞う。
さっきまで燃えていた勢いを感じさせる煙。

動揺しながら、夫にメールした。
家のすぐ近くで火事があったこと、こちらは大丈夫だったこと。

彼の職場は自宅から近いので、「会社のトイレからまだ煙が見える」とすぐ返信がきた。

ママ友からメールが届く。
「近かったよね?大丈夫」
「うん、すぐそこだった。大丈夫、ありがとう」

道路は、スパゲティをぶちまけたみたいにホースだらけ。
よくもこんなに……と思った。消火栓から、ポンプ車からかき集めてきた大量のホース。

消火活動をしてくださった方々に感謝だ。


午後、長男の三者面談があったので、彼の中学校へ向かった。

道に溢れていたホースは一本だけを残し、きれいに消えていた。

面談の順番を待っているあいだ、 noteを開く。

 noteをやめますと書いているひとを、引き留める術を知らない。
動揺はしても、引き留めようと思わない。

それぞれが書き、生きていくしかないのだから。

それは道路にぶちまけられたホースみたいに、どこからともなく現れたもので。
絡まりそうで絡まらなくて、ここまできたもので。

気がつくとすでに片付けられているのか、やめますと言ってからなのか、どこまでも自由でいいもの。


三者面談の内容(実力テスト、期末テストの結果)が毎度のことながら衝撃的で、正気を保つため、帰り道に缶ビールを買う。

しらふで夕飯は作れない。

こんな日は特に、酔わずに、ごはんなんて作れるはずがないじゃないか。

火事だよ、三者面談だよと自分に言い訳をする。
私は言い訳名人だ。


帰りに、火災現場のすぐ近くを通った。

消防隊員さんと警察官の方々、すれ違うときに軽く会釈する。

心の中で手を合わせる。

燃えてしまったものたちに。

ホースは一本残らずきれいに片付けられていて、いつもの道になっていた。

焼けたにおいを深く吸い込んでから、家路につく。
家族たちが帰ってくる家に。
もう怖さはない。



今日も性懲りも無く、よっこらせと自分の不恰好なホースを伸ばしてる。

読んでくださるあなたに向けて。

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