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アンティーク着物と古裂と私 vol.2 店員

続きになります。

私の他にもう一人のスタッフがいて、彼女も私のように何も知らない、わからないゼロからのスタート。
彼女はふたりのお子さんがいるお母さん。
ここではKさんとお呼びすることにします。

店は、夏季、冬季休業は設けるけれど、月曜日から日曜日までは開けるというのがオーナーの方針で、Kさんと私とで分担しシフトを組みました。

オーナーは今まで、骨董市やアンティークフェアに出店し、基本ひとりで古裂や着物、駄玩具を売ってきた人でした。
長い間この業界にいて、骨董雑誌にも連載を持ち、業者仲間も多く、業界内では名前が知られている人。
たいへん失礼ながら、私がこれらのことを知ったのはだいぶ後になってからです。

「どうやって売っていけばいいのでしょう?」
Kさんも私も、自分たちが販売する商品すべてを把握できない状態に不安がありました。

「お客様の方が詳しいから大丈夫。」
オーナーの言葉の意味が分かったのは、店がオープンしてからでした。

◇◇◇◇◇◇

開店から数日は、オーナーとKさんと私の3人で店に立ちました。

開店祝いに来てくださるお客様たちが絶えず、てんてこ舞い。

オーナーとお客様との会話から商品知識を得ようだとか、販売のコツを学ぼうだとかうっすら思っていた自分を反省するほど、誰がきて、誰からお祝いをいただき、お買い上げの品を計算して、お会計して、の繰り返し。

気がつくと、自分ひとりで店に立つ日になっていました。

◇◇◇◇◇◇

開店祝いの人出もあらかた治まり、一日にご来店お客様数もゆっくり落ち着いてきていました。

重めな引き戸を開けて入ってきてくださるお客様たちに、骨董、アンティークが初めての方と、そうではない方がいることに気づきました。

前者のお客様には、このお店の商品を簡単に説明し、自由に店内を楽しんでいただく、何か質問があればこたえる、という流れです。

「何に使うのですか?」
「どうしてこんな値段なのですか?桁、間違ってないの?」
大小さまざまな大きさで、きれいにたたまれ、種類別にケースに入っている古裂について聞かれることが多かったです。

「ご使用目的はいろいろです。例えばこのあたりの縮緬は、お人形の着物や細工物、和小物の材料として使われる方が多いですね。こちらの緞子は、掛け軸の材料としてだったり、袋ものの材料にも使われたりしますね。」
「こちらの布は江戸後期の布で、刺繍もまだきれいに残っていますので、とても状態がいいです。このコンディションや大きさから、お値段はこのようになっております。」

へーえ、そうなの、うへぇ!こんなの買う人がいるんだね!、うちにも同じのあるある!(←こうおっしゃる方は沢山いらっしゃいました。……無いです。)
店内をぐるっと一周して出て行かれる方、「これ、ください」とお買い物をしてくださる方。

着物に関しては、関心があるなしがはっきり分かれていて、着物の方は着物だけをご覧になって、古裂の方はスルーでした。
開店当初は、着物、帯よりも古裂目的のお客様の方が多かったです。
(数か月後にそうではなくなります。)

駄玩具は、
「懐かしいー」「こんなの昔あったなぁ」「遊んだ、遊んだ」
年配のお客様だけでなく、お若い方でも懐かしいとおっしゃるのが不思議ですが、懐かしさやレトロ感は時代や世代を越えるのかもしれません。


初めて古いものを見た、アンティークのお店に来たの今日が初めて、という方は、比較的緊張せずにお話しすることが出来ました。

◇◇◇◇◇◇

初めの頃の私が接客で苦しんでいたのは、骨董、アンティークの世界をどっぷり楽しんでこられた方々です。

骨董市に行くのが趣味で毎週末どこかしら行っている、
古裂を作品の材料として使いたい(人形作家さん、人形着物教室の先生や生徒さん、和小物、表装、表具の方など)、
ある特定のものだけを長年集めているコレクター、
こういった方々がご来店になると、会話の途中に私が???となり、気まずい空気が流れます。

専門用語や骨董市のこと、他の骨董、アンティーク店に不勉強だったため、会話をつなぐことが出来ませんでした。

「えーとね、お軸の天地に使えるようなのあるかしら?どの箱?出して。」
「お人形の夏のお着物を縫いたいんだけど、どんなのがいい?」
「ノンキな父さんのものって、扱ってますか?」

お客様の方が商品に圧倒的に詳しく、ご自身で欲しいものを見つけて、「じゃ、これください」となる流れ。
楽と言えば楽なのですが、ただそこに居る人、です。
店員とは言えません。

中には「こんな事も知らないで、あなたよくここに居ますね」というご意見も頂戴し、本当にその通りだと痛感しました。

当時の私は、骨董の百戦錬磨のお客様から見たら、とんでもないひよっこだったと思います。ぴよぴよ。

◇◇◇◇◇◇

もうひとりのスタッフKさんにこのような事を話すと、彼女も私と同じようでした。
彼女の方が勤務日が私より多く、私は彼女の勤務日に何日か一緒に居させてもらいました。
自分の日も含め、お客様から聞かれることや会話に出てくる用語を把握しようと試みました。
古裂の書籍や骨董関連の本、インターネットで調べ、わからないことを出来る限り少なくしていくようにしました。
それでもわからないことはオーナーに聞きました。

幸いなことに、話好きなお客様もいらして、お買い物しながら商品のお話を聞く機会にも恵まれ、勉強になりました。

人形教室の先生が生徒さんたちを連れてご来店になるのは絶好のチャンス。先生が生徒さんに、布の選び方をその場でレクチャーされているのを側で聞くことが出来ました。
私は人形着物を縫ったことがないのですが、教室に通っている方に型紙を見せてもらい、布の合わせかたや、製作にはどのくらいのサイズの布が必要なのかを、ざっくりとですが、頭の中に入れるようにしました。

作家さんの展示会があれば足を運び、店の商品がどこにどう使われているのかを見ました。

付け焼刃、一夜漬け、その場しのぎ……何でもいいからとにかく知らないことを少なくしていこうと必死でしたが、もともとの性格なのか、そこに苦痛はなく、新しいことを学んでいける喜びの方が大きかったです。

しかし私には、販売員として決定的に欠けているところがありました。

次回「vol.3 リズム」に続きます。
お読みいただき、ありがとうございました。

※見出し画像は古裂で、素材は木綿です。物語のシーンを柄にしたように思えますが、どんなお話なのでしょうか。このような楽しい柄行のものを、店では「オモシロ柄」「面白柄」と呼んでいました。古裂の世界ではオモシロ柄だけをコレクションしている方もいらっしゃいます。


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