32回目
18の時から観ている。
夫の実家は東京、板橋区で、義母がひとり暮らしをしている。
何か起こらない限り、私達家族と夫の妹家族で、義母の家に集まって花火をみる。
「いたばし花火大会」は私達の夏の行事。
初めて観たのは大学に入った夏だ。
サークルの先輩だった夫に「花火大会があるのだけど、行かない?」と誘われた。数名で駅に集合し、荒川の土手で観た。
翌年は「ふたりで観よう」と言われた。
が、夏の始まりに彼が入院、観ること叶わず。
そのあとはずっと、ふたりで観た。
花火の後、彼の実家に立ち寄るようになった。
「第一土曜日は花火の日だからね」
義母から知らせが来る。
結婚してからは、家族全員で観るようになった。
ビールを飲んで、枝豆、揚げもの、刺身、煮物、炒め物があふれる食卓。
集合住宅のベランダから見える花火。
おなかがはち切れそうなほど食べて飲んで、通勤ラッシュ級に混んだ電車に揺られて帰る。
甥っ子や姪っ子、うちの息子達が花火メンバーに加わった。
子ども達が乳幼児から低学年くらいまで、帰り道は修行だった。
いや、帰り道だけではない。
花火の日は修行。
一泊旅行並みの荷物、抱っこ紐、花火に飽きてしまった時のグッズ、用意されたごはんを食べなかった時用の子どもの食べもの、着替え、諸々。
花火の日の数時間だけで、体力気力の消耗がハンパなかった。
4年前からは、花火を観る前に義父の写真に手を合わせる。
迫力ある音も夜空に咲く花も、お義父さんに伝わっているし、空のどこかで観ているように思う。
高校生と中学生になった子ども達は、花火とスマホを行き来していた。
中年と高齢者になった大人達は、昔ほどは飲まず飲めず、花火を観た。
最後にアイスを食べないと帰ることが出来ない掟のため、満腹のおなかに押し込んだ。
「ねぇ、なんで去年来なかったの?」
義母が問う。
「(長男)が受験勉強で残るって言うから、私も残ったんですよ」
「そうだった、そうだったね。今年は来れてよかったね」
義母の背中越しに花火を観た。
お元気で。
いつもお元気だけど、これからもお元気で。
………私より元気そうだな笑
「お母さん、これ、開けてくれる?」
屋台で買ってきたベトベトのりんご飴を次男から渡される。
夫は、姪っ子にデレながら慣れないゲームをしている。
長男は
「マジか。花火画像、クラスLINEにあげたのに反応ないんだけど!!やっちまったー」
と嘆いている。
今年で65回目の花火大会。
私には32回目の花火。(観ていない回も含む)
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