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雨と忘れもの

長男の通学リュックの陰に忘れ去られていた上履き袋を片手に、霊園沿いの緑道を小学校まで急ぐ。

途中、次男の校門通過を知らせるメールが届いたから、彼はまもなく自分の忘れものに気がつくだろう。

職員室の前でたたずむ次男を見つけ、上履き袋を掲げてみると、あああ……という顔をしながら近づいてきた。

「ありがとう」

「どういたしまして。いってらっしゃい」

きた道を戻ると、先ほど朝の挨拶を交わした交通指導員さんと再度目が合い、また会釈。

これから登校する児童たちとすれ違う。

黄色いランドセルカバーは新一年生の目印で、レインコート越しに薄い黄色が透けている。

傘をさしているのか、傘にさされているのか分からないほどのかわいさに、思わず目を奪われる。

一年生は、どうしてこんなにかわいいのだろうか。

彼、彼女らの傍らには、これから出勤されるのであろうお父さんやお母さんが、声をかけながら寄り添っていたりする。

「がんはろう、ハリーアップ、ハリーアップ」

お母さんの声が聞こえてきて、クスッとなる。

スーツ姿の保護者とすれ違うたびに、もし私が仕事を持っている母親ならば……と思わずにはいられない。

おそらく、こんなふうに忘れものを届けることもなく、息子たちは自分でどうするかを考えて、その日を過ごしたのではなかろうか。

その方がよかったのでは。

どんよりと曇った雨空を見上げる。

傘をさしてもささなくてもいいくらいの小雨。

道行く大半の人が、傘をさしている。

その方がよかったのかな。

答えの出ない、ましてや正解など分からない日常を、ひたすらに送るしかない。

自分の感情には、ひとまずけりをつける。

今日やらねばならないことを脳内でリスト化。
コンビニに寄り、卵とシャープペンシルの芯5
㎜としば漬けを買う。

どれも必要なもので、いま買えて助かったとホクホクしながら家に向かう。

私よ、ハリーアップ。






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