ポケモンCRカップ

【CRカップ】

2023年10月18日から22日の期間、ポケモンSVのストリーマー大会『第1回 Crazy Raccoon Cup Pokémon Scarlet and Violet』が開催されている。

これを指して「ポケモンCRカップ」と呼んでいるが、そもそもCRカップとは何なのかを知らない人も、ポケモン勢には少なくない。これは、CR=Crazy Raccoonというesportsのプロチームが主催する、“esportsの発展を目的として開催される(*1)”大会であるが、特にAPEXLEGENDSやVALORANTなどFPSゲームを題材にされることが多く、これらのタイトルではストリーマーと競技勢を集めた注目度の高い試合が繰り広げられ、定期的にゲーマーを沸かせるイベントとなっている。
(*1:CRカップ公式サイトより引用)

先日は、ゲームジャンルとしては下火である格闘ゲームタイトルであるSTREETFIGHTER6で異例の盛り上がりを見せ話題になったこの大会が、ついにポケットモンスターに進出してきた!というのが、CRカップに慣れ親しんだポケモン勢の興奮を呼んでいる。

かくいう自分も、APEXやVALORANTなどのゲームはポケモンに次いでプレイ時間が長く、特にAPEXが盛り上がっていた頃に開催されていたCRカップなんかは、かなり多数の視点配信を追っていたし本戦は全て見ていたので、ポケモンCRカップの開催は毎夜告知をうずうず待つほど期待していた。

【CRカップ/レギュレーション】

・シングルバトル/(オープンシート形式?)
・4日間でストーリーをクリア、ストーリー攻略に使用したポケモンで対戦
・個体値、性格、特性の変更禁止(テラスタイプは可能)
・努力値の調整禁止=旅で自然に入る範囲+レベリング時に入るもので対戦
・旅の道中で捕まえられるポケモンは8匹まで
 準伝説、コライドン、ミライドン、パラドックスは捕獲禁止
・キタカミの里はクリア後に解禁、キタカミの里で捕獲できるのは1匹まで

…一部省略したが、上記のようなレギュレーションになっている。正直に言うと、「esports」としてのポケモン対戦(←そもそもそんなものは存在しない)からはだいぶかけ離れたルール設定であるが、今回の大会の主催者による意図が「育成配信を温かく見守ってもらう(*2)」ことである点を踏まえれば、納得のいくルール設定である。
(*2:公式/おじじのてがみより引用)

【参加者/独断ピックアップ】

この記事で一番読んでほしい項目。CRカップって何? もこうは知ってるけど他にどんな人が参加してるの?っていう感じの、ポケモン村から出たことのない方々におすすめの、俺が好きな配信者を紹介する。

〇チーム02/加藤純一・もこう
普段から一番ポケットモンスターをしている二人のチーム。逆に、ポケモン配信を日ごろから見ていてこの二人の名前を知らずに生きるのは難しいと思う。参加者の中では当然、一番ポケットモンスターに関する知識があるはずなので、とりあえずCRカップを見たいという人はここのチームに集まるのが安定だろう。

…が、できれば下記の二人の配信も覗いてみてほしい。

〇チーム03/うるか

ポケモンSV発売初期に、葛葉、イブラヒム、卯月コウと四人でユニオンサークルを使いながらシナリオを攻略するという配信をしていた。たしかそれ以前はポケモンの経験がない…みたいな感じだった(はず)。それなのに、シーズン1中はかなり高頻度でポケモン対戦配信をしていて、対戦・育成面の知識が十分に備わっているため、ある程度ゲーム理解がされている配信者を見たい場合にかなりオススメ度が高い。発売当初、高頻度で作業配信のおともにさせてもらった。めちゃくちゃ偏見で言うと、シグマさんと、オタクじゃないペリカンを足して2で割ったような配信の雰囲気。

〇チーム01/だるまいずごっど

これも私見かつ偏見で例えると、ちょっと落ち着いたライバロリ。自分がCRカップという大会にハマったきっかけの人。この二人はCrazyRaccoonのストリーマー部門のメンバーであり、特に今回のポケモンCRカップは対戦内容よりも道中の配信を楽しむ部分が主体であるようなので、こういった他の参加者も覗いてみてほしい。

特にポケモン対戦ガチ勢は、対戦以前の作業が多すぎて配信を垂れ流しながらゲームをする時間が長いはず。そういった時に、これらプロのストリーマーの配信はあると嬉しいもので、新しく見る配信者を開拓するきっかけにしやすいのがCRカップなので、ぜひとも試してみてほしい。

【今大会レギュレーションでの対戦についての考察】

今大会のレギュレーションは、努力値振りや厳選を排除“しなければ”、“ガチ勢からすれば”かなり考察のしがいがあるルールのように思える。

特に「パラドックス・準伝説禁止」かつ「キタカミのポケモン解禁」の部分は、最近解禁されたばかりのキュウコンやエンペルトなどを活躍させるきっかけにもなり、公式にこのレギュレーションを望む声も多く見られるようなものだ。ただ、今大会はなぜかキタカミの里の道中進行を縛っているため、そういった試合内容は期待できないのだが…(マジでなんでだ)

改めて、このレギュレーションを考察していくが、そもそも「努力値振り」や「個体値」「性格」の厳選はどの程度試合内容に影響を与えるのか。

ガブリアスを例に考える。まず、理想のガブリアスのステータスをようきA252 D4 S252振りだとした場合、実数値は183-182-115-x-106-169。

攻撃面を取り上げ、これが最悪の状態である下降補正・0V・無振りと比べると、182/121となり、61の差が出る。でかい!と直感的に思うけど、これがどれぐらいの差になるのだろうか。

ようきA252振りガブリアスのじしんでは、無振りウーラオスに対して2回の行動で倒すことができる可能性が高い(乱数2発[90.62%])。一方で、最低数値のガブリアスであれば約3回の行動で倒すことができる(乱数3発[99.8%])。実際に与えるダメージが50%と33%でかなり大きな差が出るが、確定数でいえば1回しか変わらず、同様に相手のウーラオスの個体値が低い可能性を考えると、実はそこまで試合内容に影響しない可能性もある。

ステータス補正の中で最も影響が大きいのは、努力値振りであり、無補正のステータスに関して極振りと無振りでは「32」の差が出る。個体値も0~31なので同様に32の差がありそうだが、0~1、2~3で同じ実数値になるなどの都合で、ダメかもとさいこうの間には「15」しか差がない。そして性格補正に関しては、元の数字を1.1倍/0.9倍する関係上具体的な数値はないが、種族値102の無振りの場合、上昇補正と下降補正では「25」の差が出て極振りの場合は「31」の差が出る。

ゆえに影響がある順で並べると努力値>性格>個体値であるが、努力値は0振りになることがほぼありえないと考えると、性格補正が最も重要になるらしい。

性格補正は捕獲時にすぐに確認できるのもあり、今大会のレギュレーションで性格を変更ができないというのは見た瞬間にハズレ個体が分かるということでもあり、実際うるかさんの配信を見ている時はようきホゲータ、いじっぱりロトムなど(たしか)を捕まえて萎えていて、そのゴミを4日間背負って戦わなければいけないというのはかなり苦しい縛りなのではないだろうか。(その苦しさが配信の面白さに繋がっていないわけではない)

ステータス面でトレーナーが介入できない以上、対戦のために行える工夫は限られてくるのだが、そうなると重要な要素は「とくせい」「わざ」となる。タマゴ技の使用が困難であるというのは「わざ」に関連するかなり面白要素で考察し甲斐があるのだがこれを始めると大変なことになるのでいったん端折る。

これら重要要素が強いポケモンであればレギュレーション上強いポケモンということができる。めちゃくちゃ雑に、ゲンガーのようなシャドーボール(威力80の技)がメインウエポンであるポケモンはこのレギュレーションでは弱く、セグレイブのようなきょけんとつげき(威力120の技)がメインウエポンであれば、一定以上の火力を出しやすくて強い。

とくせい面では同じくセグレイブの「ねつこうかん」やサーフゴーの「おうごんのからだ」のように絡め手に対する拒否を行えるものや、自身の火力や耐性を補強するようなものが優れているといえるだろう。

そして戦術面では、自身のポケモンのステータスに関係なく勝利する方法があり、それが「定数ダメージ」を用いた戦術だ。ステルスロック、まきびし、いかりのまえばなど。LV1パーティでLV50に勝つみたいな考察にも近いが、実は一見カジュアルな「努力値振り/個体値厳選禁止」というルールはどくびしやステロほえるなどキショい戦術を推奨するルールなのである。

これらを順当に考えた場合でも、そうでない場合でも、このレギュレーションにおける最強ポケモンの一角として「キョジオーン」が声高に挙げられているのはこれが理由だ。キョジオーンは特性、技の両面が強く、技によりこの最強戦術である定数ダメージを稼ぐ一方で、自身は特性により定数ダメージを拒否するので当然ともいえる。

そして捕獲が強要されているポケモンである御三家の内の「マスカーニャ」は定数ダメージ戦術のために必須級な「どくびし」を習得しキョジオーンとの相性もいいという点で、このレギュレーションは「マスカーニャ」「キョジオーン」@4をメタに据えて進行するのが正着である。

…が! 実際にはこの戦術を取っている参加者はいない(たぶん)。これは今大会に「自分の中の“サトシらしさ”に従う」というレギュレーション(=忖度)が存在するゆえなのだが、この段階でこのルールの考察をする意味が薄れ、ガチ対戦視点での観戦は完全に拒絶されてしまう。

別にそれは、配信の面白さを損なっているわけではないのだが。現に、CRカップの育成配信では事あるごとに「サトシらしさ」を問われ、そのたびにランクマッチのためにする準備の全て(努力値振り、厳選、レイド周回など)のあまりのサトシらしさのなさにウケてしまう。

ちなみに一番「サトシらしさ」がない行動って、「わざマシンのために野生ポケモンを狩り、その素材を奪い取ること」だと思う。


【第二回ポケモンCRカップ】

“いい人”たちにとってはあんまり気持ちよくない話。今回のポケモンCRカップで対戦人口が増加するかも!と言っている人たちがいるが、自分はその逆だと感じた。育成を過度に簡略化したイベントでは対戦=ランクマッチに対する忌避感はむしろ強まる。ポケモンに興味を持つ人の数の底上げ~みたいな視点は、先日のWCSやDLCといった公式からの供給が十分足りている状況では、些事でしかない。(公式という圧倒的な広告塔がすでに多くの人間に訴えかけ、対戦に興味を持つ可能性がある人の数を十分に増やしたうえで、この現状なのだから)

むしろ、ポケモンガチ勢が先述したような理由で配信者を見るきっかけになり、CrazyRaccoon及びその関係者が新規視聴者を発掘しやすいイベントなのではないだろうか。そもそもこの記事を書くきっかけでもあるが、ポケモンはゲーム界隈としてやや閉じていて、CRカップの存在すら知らない人も散見された。

よって、ポケモンの大会を開催することでCrazyRaccoonにとって強いメリットがあると感じられれば今後も第二回、第三回と積極的に開催してもらえるようになり、その中で一度ぐらいは“対戦ガチ勢”に訴求するレギュレーションで開催されることもあるのではないかと期待したい。

ただ、対戦ガチ勢はキショいので、避けるように企画するほうが正しい。


【カジュアル大会で採用される“努力値振り禁止”はカジュアルじゃない】

…ので、今後の大会ではやめませんか?

にじさんじの剣盾大会と、今回のポケモンCRカップで見かけたこのルール。一見、“努力値振り”という難しい要素を対戦準備から排除しライト層に寄り添っているように見えるが、この要素を観戦者が本当に楽しむにはむしろガチ対戦以上の知識が必要になる。

具体的に、「ハッサム」vs「カイリュー」の対面を例とする。

裏のポケモンはなんかいい感じにいるとして、ハッサム側はカイリューの攻撃を一撃耐えてとんぼがえりをして、後続に繋ぐ…という動きをしたいのがエアプのみんなにも見えると思うが、なぜかハッサムが上からとんぼがえりを撃ててしまい裏のポケモンが倒れるような状況が起こった。

このシーンは双方が旅パでほぼランダムに努力値が振ってあった/性格がランダムだったためカイリューがなまいきS77振り、ハッサムがいじっぱりS120振りでハッサムのほうが奇跡的に上を取ってしまい戦術が破綻した…という、本来の対戦では起こり得ない現象が起こったことが面白ポイントになるのだが、これ、誰に伝わるんだって話。

たぶん、ランクマッチを毎シーズンプレイするようなヘビーユーザーでも、ハッサムが何振りであれば補正なし無振りカイリューを抜いてしまうのか把握している人は少数派だろう。そして知識のあるエアプのほとんどは、カイリュー>ハッサムの行動順だと認識していて、カイリューとハッサムのすばやさが逆転していることの不自然さだけは何となく伝わるだろうがそれがどれだけ異常な事態かは、実感できない。違和感のある試合展開が起こり、それが原因で勝利<敗北>したという結果だけが残るが、それよりも、観戦している視聴者の予想通りにハッサムが下からとんぼがえりを行い、その後どうなるのかという展開が繰り広げられるほうが楽しみやすいはずだ。

だから、【“努力値振り禁止”ルール】はカジュアル勢向け大会で採用するべきではなく、より面白い大会になる可能性を潰してしまっている悪しきルールである…と思う。

(逆に言えば、超コアな知識がある状態であればこういった“ランダム努力値振り”ポケモン同士での対戦でも楽しめるというのがポケモン対戦の懐の広さでもあるのだが、そういった面白さが伝わるプレイヤーの数は残念ながら非常に少ない。[ランクバトルの人口に比べ、特殊ルールの公式大会の人口が圧倒的に少ない状況もこれに近い])

もっと単純な次元での話だと、努力値振りは「技構成」や「テラスタイプ」「もちもの」といった要素とほぼ同じで、ポケモンの戦い方や戦術を決める核の要素になるので、これを安易に軽視してしまうとそもそも“対戦”として破綻してしまう。よくCRカップが開催されていたAPEXLEGENDSで言えば、感覚的には“初動で拾った武器で最後まで戦う”というようなルールで、エキシビションマッチならともかく本戦の試合で積極的に採用されるようなルールでは断じてない。少なくとも、勝利を目的として対戦について研究する意欲のあるプレイヤーであれば2~3時間もあれば把握できる内容であり、この努力値振りを避ける理由が根本的にないというのもある。

(今CRカップは[旅]に主眼を置いているので、そういう意味では筋が通っている面もあるのだが…“シナリオ攻略時の個体で対戦する”以外の要素は、どうしても余分に感じられる。振られた努力値がどうであろうと、旅を共にした相棒は相棒だし、仮に努力値の振り直しをヨシとしないのであれば、技構成や持ち物なども旅をしていた時のもので固定するべきではないだろうか。そういう主張ができるぐらい、ポケモンにおいて“努力値”と“技”や“もちもの”の重要度は似ているのにも関わらず、努力値振りだけが極端に忌避されるのには違和感がある)

ただ、もちろん“努力値振り”や“個体値厳選”など今大会で省略されている要素が、カジュアル層の多くから敬遠される原因であるのも間違いなく(これはゲームデザインが抱える問題なので)、そういった壁の払拭こそをCRカップには期待していたという個人的思い入れを度外視しバランスを取ると、“極振り以外は禁止”が順当な落としどころだと思う。であるならば、「マスカーニャはカイリューより速い」「カイリューはラウドボーンより速い」のようなカジュアル層の中でもポケモン対戦に興味のある、プレイヤーに転じる可能性のある層に悪い意味で予想外の試合展開が起こりづらく、そういった層への求心力がより強い大会内容に近づく可能性が高い。(こういう知識すらない層にとっては、どんな内容であれ関係がないので、対象として想定する必要がない)

わりと雑に考案したルールなのだが、上記の“極振り以外禁止”は大会参加者の下位プレイヤーが使用するポケモンを強化しつつ、上位プレイヤーが工夫をする余地を殺すという意味で、戦力幅は縮まるのではないだろうか。もちろん、種族値の把握など事前知識が必要になってくるので、この辺りは対戦中に種族値を調べることを許可したり、いっそオープンシートにするなど、より工夫は必要になってくるだろうが。対人ゲームにおいて勝つために努力が必要なのは、どのジャンルにおいても当たり前なので、この点からは目を背けることは難しいだろう。(身につけた知識が必ず役に立つという点で、ポケットモンスターはFPS系ゲームよりもよっぽど優しい)

【備考】
ルール段階で欠陥を指摘する要素をたくさん用意することで、プレイングや育成方針についてとやかく言うキショい視聴者を分断し、大会の本営そのものがキショい勢(俺のような)からの批判を一手に引き受けて参加者を守るシステムだと考えると、かなり天才だと思う

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