「Adobe XDが消える?」AdobeのFigma買収による今後についてとFigmaに関するQ&A
「Adobe XDがなくなる」「早くFigmaにデータを移行しなきゃ」と日本のWebデザイン界隈が騒がしいです。個人的には「みんなちょっと騒ぎすぎ」と思っています。Twitterがイーロンマスク体制になったあとのゴタゴタで「Twitterがなくなる」「早く移行先を探さなくちゃ」と日本のユーザーが騒いでいたのと似たものを感じます。
わたしがもっと冷静になろうよと思っている理由は以下。
Adobeから公式の発表が何もない
アメリカで「Adobe XDがなくなる」などの話題は出てない
FigmaにAdobeがらみの機能強化がまだ何もされていない
まだAdobeのFigma買収そのものも完了していない
仮に開発終了でもすぐに使えなくはならない
とはいえ、買収当時の関係者へのインタービュー記事と最近の状況から「Adobe XDがなくなりFigmaに一本化される」という路線で進んでいると判断するのは間違ってないでしょう。
そこで、あらためてAdobeのFigma買収により今度どうなっていくのか&Figmaに乗り換える人のヒントになるような情報をQ&A形式でまとめてみました。
「あらためて」というのは、2022年9月にわたしのポッドキャスト「アシカガCAST」で「AdobeのFigma買収について」という話をしてるからです。
今後どうなるかの予想は、このポッドキャストで話した内容と基本的に同じです。あくまでも、いちユーザーの個人的な予想ですのでご了承を。
Adobe XDは使えなくなるの?
仮にAdobe XDの開発終了が発表されたとしても、すぐに使えなくなることはないはずです。
現状はまだ「単体販売は終了(公式発表なし)」「メンテナンスモードとなる(公式発表なし)」という情報だけですし、「Creative Cloudコンプリートプランでは引き続き提供されるので新規インストールも可能(公式発表なし)」とあるので、そんなにあせって対応する必要はないと思います。
なお、2015年5月に開発終了を発表したFireworksの場合、「Creative Cloud上では提供を続け、バグ修正やセキュリティ関連のアップデートは継続する」と告知され、その後2019年5月までの4年にわたり提供は続けられました。
なぜAdobe XDが消えると話題になっているの?
2023年1月24日に、Adobe のWebサイトのAdobe Creative Cloud製品一覧からXDが消えたとTwitterで話題になりました。それを受けてITmediaがアドビに確認した記事を1月25日に公開。その記事によると「単体販売は終了」「メンテナンスモードとなる」との返答を得たとのことです。
そこで、「Adobe XDはそのうちなくなる」「早くFigmaに移行しなければ」とWebデザイン界隈で話題となりました。「これまでのデータを移行しなくちゃ」とあせっていた人のように、XDがすぐに使えなくなると早合点した人も多そうです。
なお、わたしが調べた範囲では、英語サイトでAdobe Creative Cloud製品一覧からXDが消えたことを話題にしていた人はTwitter上に2人しかいませんでした。以下、2022年12月14日の段階でそれに気づいた人のツイートです。
XDの単体プランは販売終了したの?
Adobeからの正式発表がないのでなんとも言えないというのがわたしのスタンスです。アドビの日本法人に問い合わせて「単体販売は終了」と説明を受けた人が複数人いましたが、一方で「電話窓口などから購入可能」と説明された人もいました。
なお、法人向けのXDグループ版は以下のページからネットでも購入可能のようです。
そして、このページの「すぐに導入をご希望の場合」のところのボタンから、個人向けの単体プランも購入できそうでした。
なお、アメリカのAdobeサイトでは、以下のページの「Free trial」から単体プランを購入できそうです。
https://helpx.adobe.com/xd/get-started.html
以下、アドビの日本法人に問い合わせて「単体販売は終了」と説明を受けた、なつき @Stocker_jp さんの記事です。
FigmaはAdobe Creative Cloudのラインナップに入るの?
Creative Cloudのラインナップに入ってくると思いますが、従来XDがいた位置を埋めるために入るのではなく、別な扱いで入るはずです。
Adobeが提供するツールのラインナップとして一覧に入るだけで、Creative Cloudコンプリートプランのユーザーが追加料金なしでFigmaの全ての機能を使えるようにはならないと予想します。
FigmaはXDやPhotoshop、Illustratorのようにパソコンにインストールして使うものではなく、Web上で利用するサービスです。そしてスターター(無料)/プロフェッショナル/ビジネス/エンタープライズと複数のプランを用意しています。
FigmaがCreative Cloudのラインナップに入るときには、スターターとプロフェッショナルの間くらいの位置付けのFigma for Creative Cloudといったプランを用意するんじゃないかと推測します。Creative Cloudのユーザーには、無料プラン以上のことができる特別なプランを用意し、プロフェッショナル以上の機能が必要な場合は従来通りの有料での契約が必要になるという仕組みです。
根拠として似たような前例があります。Adobeは2021年8月に動画のレビューをするコミュニケーションツールFrame.ioを買収し、2022年4月にFrame.io for Adobe Creative Cloudがリリースされました。このFrame.io for Adobe Creative Cloudが、まさに無料プランとプロプランの間のようなプランだったのです。Frame.ioは独立したサービスとして継続されていて、複数の有料プランがあります。
Adobe Creative Cloud 向け Frame.io のよくある質問(FAQ)
FigmaがCreative Cloudのラインナップに入ったときには、Frame.ioと同様に、新規で利用する場合にAdobe IDでログインできるようになるでしょう。
Figmaは無料で使えなくなるの?
わたしの予想ではFigmaはWeb上で利用するサービスのまま開発が続けられて、無料でも使えて高度な機能が必要な場合には課金する「フリーミアムモデル」を採用し続けると思います。
なので、無料で使い続けられると予想します。ただし、無料プランの制限が変更されて、実質有料プランじゃないと仕事に使えないレベルの内容になってしまう可能性もゼロではないでしょう。
Figmaの無料版ってファイル3つまでしか作れないの?
下書き(Drafts)内なら無料プラン(スタータープラン)でも無制限にファイルを作成できます。「下書き」といってもデザイン作業において制限があるわけではなく、個人用のファイル置き場といった位置付けです。
Figmaのスタータープランの説明にある「3つのFigmaファイル」は、チームで共同編集できるファイル数の上限が3つといった意味で理解してください(簡略化した説明ですが)。
Adobe XDユーザーはFigmaに移行したほうがいいの?
そんなに焦る必要はないですが、Adobe XDはいずれなくなる前提でFigmaに移行することは視野に入れた方がいいと思います。
Adobe XDをノンデザイナーのための簡単グラフィックツールとして利用していた場合、Adobe ExpressあるいはCanvaがその代わりになるかもしれません。
FigmaがAdobeCCファミリーになるまで移行は待った方がいいの?
Figmaを無料プランで使い始めれば金銭的負担は増えないので、Adobe Creative Cloudのラインナップに入るのを待たずに移行の準備は進めていいと思います。
「FigmaはAdobe Creative Cloudのラインナップに入るの?」で説明したように、AdobeCCファミリーになったとしても複数の料金プランは残り続けると予想します。
そういった意味では、組織で使用する場合には料金面が移行のネックになりそうです。
Figmaは日本語に対応してるの?
メニューやインターフェイス含め日本語化されています。
2022年7月27日に日本語版の提供がスタートしましたが、それ以前は日本語のテキストは使えるもののメニュー類は英語でした。
なお、XDもそうですがテキストの縦書きには対応していません。
Figmaはオフラインで使えるの?
インターネットにつながっていない状態では使えません。
ただし、Figmaでファイルを開いた状態でオフラインになった場合、編集を続けることはできます。オンラインになったときにデータは同期されます。
Adobe XDにできてFigmaにできないことはないの?
Adobe XDよりFigmaの方がカバーする範囲が広く、利用用途としてはAdobe XDにできることのほとんどはFigmaでも可能なはずです。
機能面でいえばAdobe XDにしかない機能ももちろんあり、たとえばリピートグリッド機能はFigmaにもぜひ採用(移植?)してほしい言うユーザーが多いです。音声コマンドや音声再生をプロトタイプに追加できる機能が追加されたときは、Adobe XDの独自機能として話題になりましたが、日本語には対応していなかったようです。
Figmaはデザインからプロトタイプ作成、ハンドオフ(Handoff/デザイナーから開発者への引き継ぎ)までカバーする範囲が広いツールです。特にデザインツールとして考えた場合に、Adobe XDよりFigmaの方が機能が豊富です。
Adobe XDのデータをFigma用に変換できるの?
Magiculという有料のオンライン変換ツールがあります。XDのコンポーネントをFigmaのコンポーネントに変換できたり、プロトタイプ機能で作ったページ遷移などもそのまま引き継げるようです。
単に再編集可能なグラフィックデータとして変換すればいいのであれば、Adobe XDからSVG形式で書き出せば、Figmaで読み込むことができます。
FigmaでAdobe Fontsは使えるの?
使えるフォントと使えないフォントがあるようです。また、日本語フォント全般に言えるんですが、フォント名が日本語で表示されないなど使いにくいです。
Japanese Font Pickerというプラグインを使うと、日本語フォントを見本から選べて便利です。このプラグイン上でもフォント名は日本語では表示されません。
将来的にはFigmaはAdobe Fontsに正式対応するはずです。
FigmaでIllustratorファイルは読み込めるの?
Illustratorファイル(ai)、epsファイルは読み込めません。SVGは読み込めます。
Illustrator + SVG Importというプラグインがあるんですが、わたしの環境では今のところなぜかうまく使えていません(読み込み中のまま進展しない)。
FigmaでPSDファイルは読み込めるの?
PSDファイル(Photoshop形式のファイル)は読み込めません。PDFも読み込めません。
Figmaでベジェ曲線の編集はできるの?
ベジェ曲線の描画・編集はできます。
Illustrator以上の操作感でベジェ曲線を扱えるツールなんかないと思っていましたが、Figmaのパスツールはさりげなくすごいことができて驚きました。特にベクターネットワークはすごいです。
Figmaのパスツールのすごさに興味を持った方、あるいはIllustratorの方が優れてるに決まってると疑ってる方は、Webアイコンのスタンダードなサービス Font Awesome のデザインチームの人が2021年に書いた、「10 Reasons We Switched to Figma For Icon Design(アイコンデザインのためのツールをFigmaに乗り換えた10の理由)」の記事をぜひ読んでください。
↑こちらの技術評論社gihyo.jpの記事に、わたしが「10 Reasons We Switched to Figma For Icon Design」のタイトル部分だけを翻訳したものが載っています
XDがなくなるならIllustratorでWebデザインするのじゃダメなの?
Illustratorはもともと印刷物を作るためのツールなので、画面上で完結するデザインを作るには工夫が必要です。適切な設定をしてデータ作成時に気をつけないと、アンチエイリアスの関係でエッジがボケた画像が書き出されたりします。
Webデザインには不要な機能も多く、高機能とのトレードオフとして起動も遅いですし操作も重くなりがちです。無理にIllustratorに合わない作業をさせるより、FigmaなどのWebデザインに特化したツールを使った方が快適に作業できます。
Photoshopも同様の理由でWebデザインには向きません。
写真加工やロゴを作るなど素材の作成・加工においてはIllustrator、Photoshopの力が必要となるケースはもちろんあります。
Adobe XDは軽くて使いやすかったのになんでなくなるの?
確かにIllustrator/Photoshopに慣れた人にとっては、同じAdobeのツールなのにXDは軽い(起動も動作も早い)ことで評価されていました。でもFigmaも十分軽いのでご安心ください。
使いやすさに関しては、XDの方がFigmaより機能が少ない分シンプルで使いやすいかもしれません。
同じような用途のツールを2つ開発するより1つに絞った方が良いという判断であれば、機能も豊富でユーザー数も多く世界的にWebデザインツールの事実上の標準となっているFigmaを残すのは当然だと言えるでしょう。
Webデザインに使うグラフィックツールはPhotoshop→XD→Figmaと移り変わり激しすぎじゃない?
世界的にはPhotoshop→(Fireworks)→Sketch→Figmaといった移り変わりですね。SketchがWeb用デザインツールのスタンダードな存在になったのは2016年くらい、Figmaがその座を奪ったのが2020年です。
移り変わりが激しいのは、グラフィックツール界の王者であるAdobeがWebデザイン分野では弱くスタンダードなツールを生み出せなかったからだと、わたしは思っています。
日本でSketchがそれほど普及しなかった理由は日本語化されなかったことと、Mac版しかなかったことだと思います。そして、Adobe XDが海外に比べて普及した理由として、最初から日本語化されていたという要素が強いはずです。Figmaの普及が遅かったのも、2022年7月まで日本語化していなかったからでしょう。
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ポッドキャスト「アシカガCAST」
「アシカガCAST」では、デジタル活用のヒントをスキマ時間で聴けるポッドキャストを月〜水の朝8時に配信しています。
↑アシカガCASTを聴く方法、エピソードリストなどを教えてくれるチャットボットです。
Apple Podcasts、Amazon Music、Spotify、Google Podcastsなどで聴けますので、耳が空いているときにチェックしていただけるとうれしいです。
Audiobook.jpの聴き放題、YouTubeでもお聴きいただけます。
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