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具体から抽象へ向かう旅 ~はしぼう歌会(7/3)ふりかえり~

さて、歌会のふりかえりです。

僕自身の結果は3位と振るわず。
ただ、前回から連続でMVPを貰いました。これは素直に嬉しいですね。

優勝は糸間ケント(@kitoma_grzr14)君。今回は復冠にふさわしい三首を並べてきた印象だったので、悔しいけど納得の結果。

ただ、優勝・MVPこそ獲らなかったものの、僕個人として非常に感心させられた一首があったので、その歌を鑑賞してみようかと思います。

閉めきったカーテンから聞く海町は羊水越しの母の歌声
/メグナツメ(@sln_e)

ナツメさんのこの一首。
まず「閉めきった」という一句目が良いですね。
なにが良いかって「閉めきった」に続く単語って「窓」か「カーテン」か「扉」か、そのくらいしか無いんですよ。
そのどれもが部屋に付随する存在だから、この出だしを見せられると、漠然とインドア系の生活詠を予想してしまう。
サブの読みがあるとしても、バンプの『ラフメイカー』みたいに心情を部屋に喩えるような路線だろうと考えがちですね。

しかし、この一首はその二つの読み筋を両方(良い意味で)裏切っている。
カーテンはあくまでも具体物〝カーテン〟として描きながら、歌全体は単なる心象風景のたとえ話ではなく、より抽象的な物語に昇華させています。

「窓越しに」聞くのではなく、「カーテンから」聞く。
「海の音」ではなく、「海町」を聞く。
一つひとつの言葉選びも良いですよね。
波の満ち引きを通奏低音としながら、町の人々の営みが複雑に混声を成すようなイメージ。その複雑さを母の胎内で聴いた〝歌声〟に帰結させる神秘的な展開力。

この歌の魅力を一言で表すと、「意外性が心地良い」ということになるでしょうか。
僕自身は、一句目である程度先が読めてしまう歌を作りがちなので、ナツメさんの〝イメージの拡げ方〟にはいつも感心させられます。
まるで、具体の世界から抽象の宇宙へ旅をしているような。

では、穂村弘さんに倣って、この歌の改悪例をつくってみます。

閉めきった窓の向こうに波の音 母の羊水を思いつつ聞く

これではダメですね。
なにがダメかって、複雑さが無い。
オリジナルの方にあった、ことばの隙間から漏れ出てくる感情が無い。

こうやって比較してみると分かるものだけど、僕自身は改悪例みたいな歌をつくってしまっている気がするなあ(苦笑)

といったように、学び多き歌会になりました。
歌作をお借りしたナツメさん、どうもありがとう。

次回も実りある歌会になりますように。

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