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あなた:Aro/Ace(3)

 こんばんは。夜のそらです。
 ちょっと前から、AロマンティックとAセクシュアルの関係を考えるための連載を始めました。これが第3回です。

 前回の記事では、SAM(Split Attraction Model)=「魅力を分割するモデル」をご紹介しました。「性的指向」とか「好きになる性」などの概念によってひとまとめにされがちな、「性的な魅力」と「恋愛的な魅力」を分けて考えるのがSAMです。

 今日は、そのSAMによって可能になった、コミュニティのことについて書こうと思います。そして最後は、このブログを読んでくださっている、あなたについても書こうと思います。

1.SAMのはじまり

 前回の記事の最後でお伝えした通り、恋愛的指向と性的指向を分割し、両者を自由自在に組み合わせることで自分たちの経験(≒セクシュアリティ)を表現するSAMの考え方は、Aセクコミュニティのなかで誕生しました。

 もちろん、恋愛とセックスを分けて考える考え方はそれ以前にも断片的には存在していましたので、AVENの創始に端を発する現代版のAセクコミュニティのなかだけにSAMの由来を求めるのはおかしいのではないか、という人もいます。

 それでも、「性的指向」という言葉がはっきりと定着したあとの時代に、それと並行するものとして「恋愛的指向」という言葉を用いて、二つをパラレルに考えるSAMの発想は、やっぱりAセクコミュニティに起源をもつと言うべきだとわたしは思います。

 ちなみに、現代版SAMの核となる「恋愛的指向」という言葉がAceコミュニティの中で使用されたのは、2001年、Aセク当事者たちによる伝説のYahooメーリングリスト「Haven For The Human Amoeba」の投稿においてだったと言われています。そののち、AVENのコミュニティ掲示板であるForumでその言葉が用いられるまでには4年の歳月がかかり、2005年からはAVENで活発に「恋愛的指向」という言葉が用いられるようになりました。コミュニティの歴史を語り継ぐ古老のAceによれば、2007年くらいまでに、現在のSAMの考え方がほぼコミュニティの中で定着したとされています。 
※詳細が気になる方はTumblr等で検索を。

ちなみに、日本語圏における「(狭義の)アセク/ノンセク」の言葉が分かれていった時期も、おそらくこのあたりに重なるのではないでしょうか?わたしは日本語圏のコミュニティに詳しくないので、誰か分かる方がいらっしゃれば教えてください。誰かがAVENに出入りしていて、「性的指向」と「恋愛的指向」の言葉が分かれていくのを見て、日本語に輸入していったというのが、一つの有力な可能性ではないかと思っています。

2.分かれた(別れた)コミュニティ

 こうしてSAMの考え方が定着したことで、Aセクシュアルコミュニティのなかでの「Aセクシュアル(Asexuality)」という概念は、もっぱら「性的指向」についての概念となりました。つまり、誰にどのように恋愛的魅力を感じるのかは、Aセクであるかどうかにとっては関係がないのだ、ということになりました。

 その結果、性的指向を同じくすることで集まっていたAceコミュニティは、逆説的にも、恋愛的指向にかかわるアイデンティティを識別することを私たちに可能にしました

 性的指向とは別に、恋愛的指向というものがあるんだ。Aセクシュアルがあるのと同じように、Aロマンティックというものがあるんだ。

 このSAMの考え方によって最初に救いを得たのは、きっとAceコミュニティのなかにたくさんいた、Aroace(AロマンティックーAセクシュアル)の当事者たちだったろうと思います。そのAroaceたちは、Aロマンティックという言葉が生み出される現場を目撃し、そしてそれを自分たちのアイデンティティにできただろうからです。
 こうして、Aセクコミュニティのなかで生まれた「恋愛的指向」の概念、そして「Aロマンティック」というアイデンティティは、ものごとの必然ですが、「Aロマコミュニティ」という新たなコミュニティを生み出すことになりました。AセクコミュニティのなかにいたAroaceたちが、Aceコミュニティを飛び出して、Aロマコミュニティを独立させていったのです。

 けれども、その独立の過程には、さまざまな悲しみがありました。それについては、次の記事でしっかり書いておこうと思います。ただ、ひとつだけここで書いておくとすると、SAMを手に入れたAセクコミュニティの当事者たちのなかに、SAMを間違った仕方で使った人がいたのです。

「わたしたちはAセクシュアルだから、性的魅力は感じない。でも、恋愛感情はある。だから、Aセクだからって心が冷たいわけじゃないんだ。Aセクも恋愛する。愛を知ってるんだ。だからマジョリティと同じなんだ。」

 こういう風にSAMを使ったAceが(たくさん)いたのです。

 これが、AceコミュニティのなかにいたAroaceたちにとってどれほど辛い経験だったかは、想像にかたくありません。想像するだけで涙が出ます。

 SAMは、Aロマンティックという新たなアイデンティティを生み出しました。しかしそれは、AroaceたちをAセクコミュニティから追い出すためにも使われてしまいました。Aロマコミュニティは、そうして、次第にAセクコミュニティから独立していきました。

3.あなた

 このように書くと、ただでさえ小さいAceコミュニティからAroaceたちが出ていって、Aロマコミュニティを作ったように聞こえてしまうかもしれません。確かに、そういう側面はあります。

 しかし、前の記事で書いたように、現在ではもう、SAMはAceコミュニティだけのものではなくなりました。それは、ありとあらゆる性的指向と恋愛的指向を組み合わせることによって私たちの経験を表現する、人類共有の財産となったのです。
 実際のところ、ヘテロセクシュアルやホモセクシュアル、バイセクシュアルやパンセクシュアルなどの性的指向を自認するAロマンティック当事者は、当たり前のようにたくさんいます。ArocalypseやAUREAに出入りしているAロマの人たちも、言うまでもなく、Aroaceだけではありません。

 つまり何が言いたいかというと、SAMに基づいてAロマコミュニティがAセクコミュニティから分かれる(別れる)ことで、両者のコミュニティは、小さくなるよりもむしろ、大きくなった、ということです。

 そこで、突然ですが、わたし(夜のそら)から読者の皆さんにお伝えしたいこと。いや、あなたにお伝えしたいことがあります。

 あなたも、Aceコミュニティに招かれています!

 Aセク(アセク)という言葉があるのは知ってるけど、自分は恋愛経験があるから当てはまらない。そんな風に思っていませんか?
 恋愛感情がある、ドキドキ・キュンキュンしたりもする、だから自分はAセクとは関係ない。そんな風に思っていませんか?

 そんなことはありません。Aセクコミュニティは、Aロマコミュニティとは別のものなのです。Aセクコミュニティのなかには、恋愛をするAceもたくさんいます。色んなAceがいるのです。

 そう、あなたもAceの仲間になりましょう。

 恋愛感情はもつけど、性行為がどうして恋愛に必要なのか分からない。恋愛関係の中で、どうしても性的な魅力をパートナーに感じられない。性行為のたびに申し訳なく思ってしまう。でも、相手のことが嫌いなわけではない。……そんな風に悩んでいる方はいらっしゃいませんか??

 あなたはAセクシュアルなのかも知れません。
 そして、ようこそAceコミュニティへ!

4.おわりに

 SAMの考え方は、AロマコミュニティとAセクコミュニティの二つを分かつことになりました。AセクコミュニティからAロマコミュニティが別れてゆき、二つのコミュニティが分かれることになったのです。
 わたしの連載のタイトルである「Aro/Ace」の真ん中の「/」(スラッシュ)は、ですから、ふたつのコミュニティを分かつ分割線でもあります。

 しかし、そうしてコミュニティが分かれたことで、コミュニティはどちらも間口を広げることになりました。

 そう、あなたもコミュニティに招かれているのです。ですからもう一度。

 ようこそAceコミュニティへ。