「ちぷたぷさん」_第1話
■第1話:1年越しの告白
○塾からの帰り道_夕方
近い距離で並びあって歩く晴香と夏樹。
晴香「ねぇ暑いんだけど」
夏樹「俺も暑い」
会話が途絶えた途端に、大きく聞こえるセミの鳴き声。
晴香「ねぇ涼しくしてよ」
夏樹「んな無茶言われても…」
と、なにか閃いたような顔をして、不敵な微笑みを浮かべる夏樹。
夏樹「わぁったよ」
晴香「なに今の間」
ジトっと目を細めて不審がる晴香。
夏樹「こんな話聞いたことねぇか?」
夕空を見上げる夏樹。
夏樹「旧校舎二階のずっと工事中のトイレの話」
びくっと肩を震わせる晴香。
夏樹「深夜の…」
晴香、夏樹の言葉を遮って、
晴香「わーわーっ! 聞こえない聞こえないっ!」
両耳を抑え、ぶんぶんかぶりを振り、叫びつづける晴香。
涙目の晴香を見て、笑みを濃くする夏樹。
夏樹「で、その隣の音楽室なんだけど…」
晴香「わぁ~!」
両耳を抑えたまま、ぴゅ~っと駆け出す晴香。
段差に躓いて転ぶ。
○コンビニ前_夕方
鼻頭に絆創膏をつけて鼻をすする晴香に、パピコの半分を渡す夏樹。
夏樹「悪かったよ」
晴香「む~。ナツくんのいじわる」
晴香、頬を膨らませている。
夏樹「機嫌直せって。ほら、これ食べたら涼しくなるぞ。好きだろパピコ?」
晴香「ふんだっ」
そっぽを向きつつも、パピコを奪い取る晴香。
やれやれといった風の夏樹。
○住宅街_夕方
無言で歩きながら、パピコを頬張る晴香と夏樹。
夏樹「明日」
晴香「ん?」
夏樹「8月8日だな」
晴香「それがどうしたの?」
夏樹「安曇高校七不思議の中でもいちばん有名なあれ、明日だな」
びくっと肩を震わせる晴香。
晴香「…責任」
夏樹「ん?」
晴香「せ、責任とって今日はウチに泊まってって」
晴香、ぎゅっとスカートを握りしめて、
晴香「パパとママ旅行でいないから」
顔を赤らめ、ちらちらと、夏樹の顔色を窺う晴香。
夏樹「しゃーねな」
ぽんぽんと晴香の頭を撫で、にっと笑顔を浮かべる夏樹。
夏樹「お隣の妹ちゃんの頼みとあっちゃ断れねぇよな」
晴香「…ふんだっ」
ぷいっと顔を逸らす晴香。
晴香(M)「いい加減、妹扱いするのやめてよ…」
顔を赤くする晴香。
○晴香の家_晴香の部屋(夜)
夏樹「じゃ、電気消すぞ」
不満げな顔で黙りこくる晴香。
夏樹「どした?」
晴香「隣で寝て」
夏樹「は?」
晴香「いいから」
晴香、枕をぎゅっと抱きしめて、
晴香「ナツくんがこわい話したせいだよ」
晴香、俯いていた視線をあげて、
晴香「『ちぷたぷさん』がきたとき、わたしを守れないでしょ?」
じっと見つめ合う晴香と夏樹。
夏樹、観念したように、
夏樹「…はぁ。わぁったよ」
布団を畳み、枕を晴香のベッドに置く夏樹。
背を向けあって、ベッドに横たわる晴香と夏樹。
晴香(M)「ど、どうしよ…ちょっと攻めすぎかな?」
晴香(M)「でも、これくらいしなきゃ、ナツくんはわたしの想いに気づかないだろうし…」
晴香「…な、ナツくん」
しんと静まり返ったままの部屋。
晴香「…ナツくん?」
晴香がおずおずと振り返ると、寝息を立てる夏樹の顔が真ん前に。
ぎょっと目を見開く晴香。いびきをかく夏樹を見て、晴香はぷくっと頬を膨らませる。
晴香「…ばか」
寝返りを打ち、夏樹に背を向ける晴香。
晴香(M)「…ちぷたぶさんかぁ」
ぼやけた、ちぷたぷさんのシルエット。
テロップ「安曇高校七不思議のひとつ――ちぷたぷさん。
8月8日、8時8分。
選ばれた10人だけが出会えるという、七不思議上の存在。
ちぷたぷさんと対面した対面した人物は――」
晴香(M)「やめよやめよっ、わたしには関係ない話だしっ!」
ぶんぶんかぶりを振り、がっぽりと顔まで布団をかぶる晴香。
背中を夏樹の身体にくっつけて眠りにつく。
○晴香の家_リビング(朝)
八時五分を示す壁時計。
夏樹にくっつき、ぶるぶる身体を震わす晴香。
晴香「ねぇこないよね? わたしたち、選ばれたりしないよね?」
夏樹「お前、本気であの噂信じてんのかよ」
苦笑し、晴香の頭を片手で抱き寄せる夏樹。
晴香「あっ…」
夏樹「安心しろって。相手が幽霊だろうがなんだろうが、ハルは俺が守るよ」
晴香「ナツくん…」
俯き、ふるふるかぶりを振り、うなずいて、勢いよく顔をあげる晴香。
晴香「ナ、ナツくんっ、わ、わたしねっ!」
夏樹「…冗談だろ?」
青ざめた顔をする夏樹。
目の前に、ちぷたぷさんがいる。
晴香「え?」
「好きだよ」と口を動かし、目にも止まらぬ速さで腕を振るちぷたぷさん。
ごとんと、なにかがソファの下に転がり落ちる音。
夏樹の生首と視線が重なり、ぱちぱちと瞬きを繰り返す晴香。
晴香「……え?」
晴香の膝に、首のない夏樹の身体が倒れ込む。
ちぷたぷさん「…………のせいだ」
晴香とゼロ距離にあるちぷたぷさんの怒り顔。
ちぷたぷさん「お前のせいだ。お前のせいだ。お前のせいだ。お前のせいだッ!」
晴香「…あ、あぁっ……!」
ぽろぽろ涙を流し、激しく動揺する晴香。
晴香(M)「安曇高校七不思議のひとつ――ちぷたぷさん」
ちぷたぷさん「許さない許さない許さない許さない絶対許さないッ!」
晴香(M)「ちぷたぷさんと対面した人物は――」
手に持ったナイフで、ちぷたぷさんが晴香の首を斬り落とす。
晴香(M)「例外なく命を落とす」
ころころと、リビングを転がる晴香の頭。
こちらを睨みつけるちぷたぷさんと、夏樹の顔を見て、晴香はそっと目を閉じる。
○安曇高校_グラウンド(夜)
晴香「はっ……!」
夏樹「大丈夫かハルッ⁉」
晴香はうるうると目に涙を滲ませて、夏樹の胸に飛び込む。
晴香「ナツくんっ、ナツくんっ、よかった…よかったよぉ~!」
夏樹「…俺、さっき死んだよな?」
晴香「っ……! こわかったよぉ~」
夏樹「…ごめんな。守ってやれなくて」
泣き止んだ晴香が周囲を見渡すと、制服姿の生徒が、晴香と夏樹以外に8人いる。
夏樹「岬?」
岬「…夏樹?」
校内放送「8月8日、20時8分」
クレア「ほ、放送?」
美桜「静かに」
校内放送「特記事項――なし」
千冬「ねぇ、あづちん。ここって…」
理人「天国…にしては、見覚えがありすぎるな」
校内放送「それでは、ゲームを開始します」
晴香「ゲーム?」
しんと静まり変える一同。
信二「ねぇ君、俺と保健室でいいコトしない?」
未来「へ? な、なに、言ってるんですか?」
ぎい~っと、内側からゆっくり開く生徒玄関。
校舎から聞こえる不気味な笑い声。
ビビる晴香の顔のアップ。
第1話 了
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?