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23 逆光の中で友釣り

眩しさで目印を見失う
真夏の安曇川・朽木、船橋下流
そのシーズンは、橋下手が広く浅いチャラ瀬になっていました。小石底の流れ、所々に少し大きめの石が頭や顔を出しています。深さは踝くらい、石底全体が明るく、流れも輝いています。野鮎が居ることは間違ありません。分かっていても、竿を出す気になれません。鮎のキラメキが無い流れは、何となく信用できないのです。また、竿を出しても真夏の炎天下の野鮎達、人影、竿影に敏感に反応し中々追ってくれません。

ただ、夕方近く、太陽が西に傾き始め低い山の峰に隠れる前、チャラ瀬の底が昼間にもまして明るく艶めきます。その艶めきは、下手の深みから沢山の野鮎が、食みに上って来ていることを知らせています。
私はこんな時、逆光を避け、船橋下手左岸側に立ち竿を出します。傾き始めた太陽を背にすれば、竿影、人影が長く流れに写り、怯えた野鮎達は瞬時に岸から遠ざかります。掛けようと思えば、オトリを遠くへ泳走さすしかありません。友釣りには不利にもかかわらず、太陽を背に竿を出すのは、ただ単に眩しいのが苦手だからです。決して「夕日の友釣りマン」を気取っている訳ではありません。

鮎クラブの名人は、この時間帯、三十匹前後を掛けると豪語しています。確かに太陽に向かって立てば、野鮎が陰に驚くことは無く、足許でも追うはずです。竿さばき次第では、短時間で三十匹前後を掛けることは大いにあり得ます。
分かっていますが、逆光はつらい。特に低い位置に傾いた太陽に向かって立つのは非常に辛い。逆光の中、偏向メガネを通して見る景色は、何もかもが黄金色です。更に水面は金砂の如く輝きながら流れ下って行きます。眩しさを避けようと目線を下れば、水面が見えません。どちらにしても、黄金色に輝く景色の中、偏向メガネは役に立ちません。

その日は欲に駆られ、大釣り出来るという名人の話を信じ、その可能性の高いこの時間帯を無駄にしないため、逆光に向かってオトリを放しました。水面ギリギリまで目印を下げオトリを追跡します。
光の中、眩しさでしょっちゅう目印を見失います。それでも竿先は野鮎の追いと、掛かりを敏感に伝えてくれます。だが流れの何処で掛かったのかが分かりません。眩しい逆光の中、アタフタと目印を探します。私の立ち位置より上手で掛かったはずですが、どの辺りかがはっきりしません。仕方なく竿を立て聞いてみます。私が思っていた位置より上手、対岸寄りの様です。
無理やり引き抜けば、とんでもない方向に飛んで行きそうです。しばらく竿を立て、徐々に自分の正面に呼び込みます。ただ、輝く景色の中、思う通りに誘導出来ているかは不確かです。
目くらましの中、しびれを切らし引き抜きます。少しずれましたが、突然目に飛び込んできた掛かり鮎達に飛びつき、タモに収めました。その後も足元近くから流心と広い範囲で追いがあり、その度にアタフタを目印を探し、モタモタと引き抜く。実に効率の悪い動作を繰り返し、太陽が完全に峰に沈むまでの短時間、十数匹を取り込みました。

こんなに低い位置の太陽、眩しい景色の中での友釣り、よく追います。今まで竿出すことを避けてきました。ポイントの食わず嫌い、もったいないことをしてきました。
そのシーズン、何度かチャレンジ。しかし、どうしても目印を見失う初歩的ミス。名人が言う釣果には遠く及びませんが、自分なりに満足できる釣果を得ました。言ってみれば、自他ともにに認める名人と自称名人との腕の差です。

ところが、船橋下流にあったあの広いチャラ瀬は、翌シーズンには跡形もなくなく無くなり、その後のシーズンにも表れることはありませんでした。それで私の逆光の中での友釣りチャレンジも、その1シーズンで終わってしまいました。



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