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シカゴ・オープナーの研究

※浅田さんが、10年前に書きなぐっていたマジックの研究文章を発掘したので当時のままの(5分くらい手直しはしたけど)形で、しばらく掲載しまくるシリーズ。

<シカゴオープナーを考える>
誰もがこのマジックに助けられたことはあるだろう。

レギュラーデックに一枚だけ色違いのカードをセットしておくだけで、ずいぶんと洒落たマジックができるようになるのは心強い。

それもただの単発のカード当てではなく、起承転結があり、これ一つを演じるだけでもそれなりに満足できるのだから。

<オープナーとして適しているのか>
 ​このマジックはオープナーと銘打っているけれど、それは本当だろうかとおもってしまう。

というのも、このトリックはたしかにセットの関係上、デックをとりだしてはじめにおこなわなければならない。しかしだからといって、すなわちオープナーだと言いきってしまうのは違うようにおもうから。

そう「はじめに演じなくてはならない」のと「そのトリックがオープナーとして適している」かはまた別の話だ。そう考えるとき、このシカゴオープナーはどうにも、前者のようにおもえてしまう。

つまり、ただ単にセットの都合ではじめに演じなくてはならないだけであり、そこからオープナーだということにされてしまったトリック──というだけなのではないか、と。

それは現象だけをみてみるともっともで、シカゴオープナーは、カード当てを単に二回繰り返しているだけだといえなくもない。そして、演技の最初のトリックとして、カード当てをいきなりおこなうというのは、あまり褒められたことではないというのは言われることである。冗長だから。

さらに、最初にカラーチェンジなどという、あきらかに技術を超えた現象をおこしてしまっては、つぎになにを演じるべきなのかも難しい。

どうもマジシャンはさらっとカードの色を変えてしまうが、よく考えてみるとそれはかなりの奇跡である。さらに、もしも次にカードマジックをするとして、先ほどの色違いになったカードをどのように扱うか、というのもいつも気になってしまう。

もちろんその色違いのカードは胸ポケットにでもいれてしまうが、そのデュプリケートとなるカードはデックのなかにあるままだから。もしも観客が次にそのカードを引いてしまったら、辻褄があわないではないか、と。

もしものときのために、色違いのカードを片付けるときに、もう一枚の同じカードもアディションして、二枚ともよけてしまう方法も考えらる。

けれども実際は、そこまでするのは面倒くさい。なので、まったく気にせずに次のマジックをしているが、常に気にかかっていることでもある。

これらを考えてみるとシカゴオープナーは、ルーティンに組み込むにはすこし角が立ち過ぎている気がする。そもそも一つのマジックとして、二段構えのストーリーがしっかり展開されているので、これだけを演じて終わるのがスマートなのかもしれない。

<色について>
シカゴオープナーについても、ラストトリック(注・そのうち掲載します)のときと同じように「色」という観点から考察してみる。

なお、本項目は、デックの中から一枚のカードが変色して出現する、という現象であればこのマジックには限らない。

青(もしくは黒)のデックから赤が出現するのか、赤のデックから青が出現するのか、それら二つの比較をするのである。

これらの色の価値を、やはりライトトーナス値(注・暗い色より、明るい色の方が存在感があるよみたいな理論)に照らしてみると、赤がプラスで、青がマイナスの存在であるといえる。

そしてシカゴオープナーにおいて主役とすべきなのはデックではなく、たった一枚の変色したカードである。

ならばそれの価値を高めるよう努めるべきだろう。つまりは「プラスの中のマイナス」ではなく、「マイナスの中のプラス」を選択する方が良いと考えられる。「青のデックの中に、たった一枚の赤いカードが」という状況が理想だということである。

同様に、カラーチェンジングデックにも同じことが言える。

一般に、カラーチェンジングデックをするなら、青から赤への変化の方が鮮やかだと言われる。それも同様である。

赤いデックを青にするよりは、青いデックを赤にするほうが「価値」が負から正へと推移することになるから。見た目に鮮やかにみえることだろう。その価値の増大が、より大きなインパクトを生み出すのである。

<二度目はなぜストップなのか>
このトリックは、その仕掛け上、一度目はデックからカードを引かせることができるけれど、二度目はフォースをすることになる。

それも、ボトムにフォースしたいカードがきているので、すばやさからヒンズーシャッフルでのフォースがつかわれることが多いようだ。

たしかにこのフォースはすばやくできて重宝する。ただ、一度目と比べてみたときに、なぜ二度目は引かせてくれないのか、という観客の疑問にこたえられなくてはならないとおもう。

一度目の現象を終えたあとで、二人目の観客にカードを選ぶのをお願いすると、その観客がカードを引くのかとおもって手をのばしてしまった、という経験はないだろうか。

もちろんすぐに「今回はストップと言ってください」と口にすれば良いだけの話なのだけれど、その台詞も「なぜ今回は違う方法なのか」という質問には答えていない勝手なものである。

それが個人的に気にくわない。なので、おそらくマジシャンならすでに誰でもやっているだろうけれど、自分は、二度目は遠くの観客か、両手がふさがっている観客を指名することにしている。

だから今回はカードを引かせられないのだという理屈である。その意図を雰囲気でなんとなく観客に感じさせるのである。状況によってはそうもいかないけれど、自分はいつもそのようにしている。

<なぜ二度おこなうのか>
一枚のカードが色違いになって中央からあらわれる。そしてそのカードが、まさしく観客の引いたカードである。

これだけでもう完璧な奇跡なので、マジシャンはなぜ二度目をしようとするのだろうか。もう一枚カードを引かせようとするのだろうか。

「二度目が本当のクライマックスだから」とマジシャンは言うだろうけれど、それは観客には関係のない演者の勝手である。

なんにせよ、ぐだぐだと喋りながら、もう一回カードを選ばせるようではいただけない。そこにしっかりとした意図をつくるべきだとおもう。

それについて愛媛のマジシャンである三瀬健太氏の台詞が非常に興味深い。あまりにも優れている言葉だとおもったので、紹介する許可をいただいた。一度目の現象が終わったあとで、マジシャンはこう言ってみせる。

「もう一度やってみせましょうか。というのも、このマジックを一度で終わると、きまって『最初から赤かった』なんて言い張る人がでてくるのです」

そしてそのあとでフォースをしたときに、マジシャンはそのカードを抜き出して裏の色をしっかりと確認する。そして、ここで、小憎らしく、次の言葉を述べるのである。

「まだこのカードは青いですよね。あぁ、〝まだ〟なんて言っちゃいけない」

この二つの言葉は、本当にクレバーである。

すくなくとも自分の好みだ。二度目のカード当てをおこなう理由を綺麗につくっている。これでそうだと納得しない観客はいないだろう。

そして、「これから、二枚目のカードの裏が変わりますよ」と暗にほのめかすことで、一枚目のカードを観客の意識からはずすのにも一役買っていることも強調したい。

これで二度目の現象をおこなえば、観客はまるで意識していなかったところから衝撃をうけることになる。そして、この嘘にならない範囲での、〝暗に〟というのがもうセンスなのである。

※まだまだ発掘した文章を投稿するモチベーションがほしいので、よかったら、このツイートを感想をつけて引用RTしてほしい〜!!そしたら頑張れます!!マジで!!まだまだ大量にあるねん!!


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