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わたしの丸ごとが、アートになる〜アーティスト・キュレーター(なりきりラボ#17)〜

小学生向け、アウトプット型・探究学習プログラム「なりきりラボ」「おしごと算数」(2019年度グッドデザイン賞受賞)。子どもたちの探究心や創造性を刺激する、数十の職業が詰め込まれています。マガジン「なりきりラボ・おしごと算数の世界」では、その一つひとつのタイトルの魅力をご紹介します。今回は、「アーティスト・キュレーター」(なりきりラボ#17)です。

<プログラム開発者、いわたく・きいろちゃんに聞きました!>

いわたく(岩田拓真):
株式会社a.school(エイスクール)代表取締役校長。京都大学総合人間学部卒、東京大学大学院工学系研究科修了(専門分野は、脳科学とイノベーション)。大学院在学中に、ひとり親家庭に対して動機づけ教育を行うNPO法人Motivation Makerを仲間とともに創業し、理事に就任。Boston Consulting Groupにて経営コンサルタントとして勤務した後、a.schoolを創業。探究学習の塾「a.school」を運営するとともに、様々な創造的な教育コンテンツの開発に携わる。自分自身も新しいことを学ぶのが大好き。一児の父。

きいろちゃん(木幡壮真):

a.school講師・プログラム開発・新規事業立ち上げ運営リーダーを務めるマルチプレイヤー。東京大学工学部卒。大学在学中、教育系ベンチャーにて中高生向け進路プログラムの企画・営業・運営のインターンを2年間経験。東京大学アントレプレナーチャレンジ2018では教育系サービスを考案し特別賞を受賞。同年11月よりa.school「なりきりラボ・おしごと算数」メンターを務め、2020年4月新卒でa.schoolへ入社。

ー アーティスト・キュレーター。今までのなりきりラボ・シリーズにはない、新しい雰囲気をまとっていますね。

きいろちゃん:そうですね。形から入って、授業で使うスライド資料もデザインをがらっと変えてみました(笑)

いわたく:このテーマに向き合うにあたって改めて(これまでのなりきりラボ・シリーズの)スライド資料を見直したときに、子どもの反応や学びがデザインされすぎてはいないだろうかという問いがたって。この授業設計はそこからスタートしましたね。

アーティストというと「美術的な作品をつくる人」というイメージが強いかもしれませんが、このプログラムでは作品づくりそのもの(=表現の外側・見かけ)をゴールにしていません。作品づくりをとおして「自分」(=表現の内側)にとことん向き合うのが目的です。

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ー 「じぶん探究」というプロセスを重視している、ということなんでしょうか。授業はどんなふうに進むのでしょうか。

なりきりラボの授業は通常「インプット(知識の習得)→アウトプット(知識をいかした表現や創作、発信)」という流れを辿るのですが、今回はインプットがかなり少なく、プログラム序盤からアート作品の鑑賞や制作にとりかかります。アートについて頭で考えるのではなく、身体で触れるというか、五感や直感からアプローチすることを大事にしているからです。

まずは「鑑賞」について。作品にじっくり向き合う美術館タイムと、作品を見て自分がどう思ったか、感じたか、一人ひとりの気づきを対話するカフェタイムという2つの時間をつくっています。この間、作者の意図や作品が描かれた背景などの説明は一切行いません。著名な作品も、子どもたちの作品も、同じスタンスで鑑賞するんです。

次に「制作」について。鑑賞と制作は必ずセットで用意されていて、さまざまな表現方法(抽象画・コラージュなど)が紹介されます。でもそれらはあくまでアプローチであって、大切なのは「自分とはなにか」を考え表現すること。How(どのように表現する)よりWhy(なんで表現する)、ですね。

ー そもそもどうして、自分と向き合うのに表現する必要があるのでしょうか?

いわたく:自分の内側を形にすることで、他者からのフィードバックを得たり自分自身が改めて俯瞰してみたりと、今まで気がつかなかった「自分」に出会えるかもしれないからです。表現・対話・内省というサイクルを繰り返すことでより深く自分を知ることができる、ということですね。

そもそも人は他者や環境との関係性のなかで育まれるもので、自分ひとりでは完結しない。だから、じぶん探究には内と外を何度も行き来することが不可欠なんです。

きいろちゃん:じぶん探究を頭だけでやろうとすると「思考」「言葉」「論理」中心になってしまって、それら左脳的なアプローチでは自分を捉えきれないんですよね。そこで五感をつかって表現してみると、言語化できなかった自分をあぶり出すことができる。

いわたく:「自分とはなにか」と言葉で問いかけている時点で、すでに頭で考えちゃっているんですね。論理と感性、どちらも大切ですが、このプログラムでは後者に比重を置いているんです。

ー そもそも小学生にとって自分を探究するというのは、なかなかハードルが高い課題のように思います。お題が抽象的というかなんというか。

いわたく:確かに簡単ではないですよね。でも、大人はみんな「自分とはなにか」に向き合えているのかというとそうでもない。年齢は問題でなく、「じぶん探究」を積み重ねてきたかどうかが重要なわけで。だからあえて、まだ自分の感性に対して素直で表現することを臆さない小学生のうちに、自分について考えることに慣れ親しんでくれたらと思ったんです。

中高生で同じことをやろうとしても、抽象的思考ができる良さがある一方で、どうしても恥じらいが邪魔してしまうことがありますからね。人は変わり続けるという前提で、人生を通じて自分自身を探究し続けてもらえたらと。

きいろちゃん:もう一つ、自分のネガティブな側面に光を当てるいい機会だから、小学生もじぶん探究に挑戦してみてほしいなと。子どもが自分のことを考える機会って大抵、自分の夢や希望などポジティブなものばかりですよね。まるで子どもには悩みやコンプレックス、人には言えない経験がないかのようだけれど、そんなことはない。ネガティブな側面をとおして自分にアクセスできること=だめなところ、恥ずかしいところも自分なんだと受容できることが大事なんじゃないかな、と。もちろん、そのプロセスはしんどいだろうし、一筋縄ではいかないでしょうが・・・。

ー なるほど、自分の暗い部分から湧き出るエネルギーもアート作品につながるんですね。歴史上の有名なアーティストもそういった作品を数多く生み出しているかと思うのですが、今回のプログラムでは名画の紹介のようなものはするのでしょうか?

きいろちゃん:毎授業の終盤に、世界の名画や有名アーティストの紹介はします。ただ、作品そのものの評価やアーティストの権威性ではなく、彼らのアーティストとしての姿勢を子どもたちに伝えるのが目的です。じぶん探究の先輩アーティストとして、彼らの生き様を見せる感じ。

いわたく:先輩アーティストの作品を見ることで、「こんな表現方法もあるんだ!」「こんな想いで表現していいんだ!」と、表現することそのものへのハードルが下がってほしいですね。すごい作品として紹介してしまうとその表現に引っ張られてしまったり、表現へのハードルがあがっちゃったりしかねないので。

ー 先輩の作品を参考にする、ならできそうですよね。じぶん探究、なかなか大変そうだけれど、楽しみになってきました!

きいろちゃん:それはよかった!このプログラムをつくりながら、僕や講師が制作から鑑賞、対話まで一連の流れを実践してみたんです。ある講師は「自分が食べられているみたいで、すごくいい時間だった」という感想を残してくれて。

自分も知らない「じぶん」を感性の導くままに表現し、それを他者に観て、感じて、伝えてもらうこと。学校の図画工作とも美術館での鑑賞とも違う、「なりきりラボ」ならではの体験だと思います。

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いわたく:これまでのプログラムのなかで最も自由度が高い一方、答えは自分のなかにしかないんですよね。描いたり作ったりと繰り返しながら、いかにして自分のなかで答えを更新し続けられるか。親や先生や世の中など、今まで外に評価の基準を置いてきた子どもたちは、最初戸惑ってしまうかもしれません。

きいろちゃん:だから最後に開く展覧会「じぶん」では、製作者に作品について説明させるのはナンセンスかなと思っていて。まずは鑑賞者が作品そのものとじっくり向き合って、自分の感覚で捉えたり、鑑賞者同士で対話を重ねたりしてみてほしいんです。その様子をみてさらに、製作者自身も新しい気付きを得る、そんなサイクルができるといいですね。

このプログラムをきっかけに、今後美術館や展示会を訪れたら、まずはキャプションを読まずに作品そのものとじっくり向き合ってみてほしいですね!

▼なりきりラボ・おしごと算数の紹介記事はこちらから!

▼エイスクールのHPはこちら


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