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洗濯機を経費にしたい。

――洗濯機を経費にしたい。

 この誰もが抱くであろう願い……全てはここから始まった。

 事の発端は、果たしていつから語るのが正しいのかわからないのだが……ある時から我が家のドラム式洗濯機が爆音を奏でるようになった。
 すすぎ等はいいのだが、脱水及び乾燥モードに突入すると……


 ……ゥオン……オンオノンオンオンオオオオオオオオオオオォォオオォオオォォオオオォオォォオオオォーーーーーーーアアアアアアアァアアァアァァアァァーーーーーーーーーーーーー!!


 といった感じで、ぶっ壊れている、というより、ちょっと壊れている、という感じだ。
 これが人間なら絶妙にクリエイター向きだろう。
 野放しではただのウンコ製造機でも、きちんとした編集が付けば良い作品を作る事は請け合いだ

 それはともかく、我が家の洗濯機である。
 洗濯、脱水、乾燥も一応やってくれる。
 が、爆音である。

 確か少音設計だか何だか洒落臭い事を謳っていたモデルだったが、今やまごう事なき爆音発生機なのだ。
 とはいえ、毎日ともに暮らしているとあまり気にならず「前よりうるさくなったな」ぐらいの感覚でいた。
 が……ふと気がついた頃には、隣室でマッチョ達が運動会でもしているんじゃないのかというレベルになっていた。

 他の症状としては、大して洗い物を入れていないのに、『もういっぱい、無理、死ね、殺すぞ』と電子音で訴えてくるぐらいだ。
 なので恐らくドラムのサスペンションあたりが死んだのだろう。

 ただ、先ほども述べたように機能としては生きている。ほんのりダイナミックに賑やかになっただけ。
 だから使い続けていたのだけれど……さすがに、もう限界、っていうか、マンションの隣室や階下の人に迷惑かと思い、買い換える覚悟を決めた。

 まぁ、2023年6月22日の朝のお笑い番組(?)『ラヴィット!』で、お笑い芸人のZAZYさんが家電を買う、というコーナーがあり、そこで洗濯機を買っていたのが、影響として一番大きかったように思う。
 (新モデルが出始める前の)今が一番いい時期です、と家電量販店の店員さんが言っていたのだ。

 これは好機、とばかりに買い換えを決意である。
 何なら番組内でZAZYさんが買った日立のビッグドラムのモデルを狙ったりしたぐらいだ。

 だが、昨今のドラム式洗濯機は高い。
 調べてみると20万スタートで、諸々合わせて30万は覚悟、という感じだ。

 もちろん安いのもある。
 だが、私は乾燥までやれるドラム式が良かったし、安かろう悪かろうの怪しげなメーカーに水周りの家電を任せたくはなかった。

 加えてサバイバルゲームで使用する迷彩服などを頻繁に洗うが、生地が多い上に厚めのドイツ連邦陸軍のパーカータイプのものを愛用しているため、洗える&乾燥できる容量は大きければ大きい程良かった。
 夏場はもちろん、サバイバルゲーム中に雨でも降ろうものなら着替えも多くなり、当然洗い物はかなりの量になる。
 そうなると、迷彩服とそれ以外で二度洗わなければならないが、一回洗って乾燥させるのに5時間前後かかるため、実質的にどちらかはびしょぬれのまま、汗まみれのまま、一晩放置する事になる。
 それがどれだけしんどいかは想像するまでもないだろう。

 乾燥機能を使わずに干せばいい?
 不可能だ。うちのベランダは交通量の多い極太の道路に面しているため、半日足らずで白いタオルが戦場帰りのタフな野郎へと変貌してしまう。
 室内干しには除湿機とサーキュレーターを使用しているが、そこまで良い環境とも言い切れない。
 だから、洗濯機はデカければデカイだけ良いのである。

 まぁ、単に洗い物を貯めがちだというのもあるが……。

 それはともかく、である。

 こうなると、やはりどうしても30万は用意しなければならない。

 そこで、冒頭に戻るのだ。

 30万……私のような小市民には圧倒的に高額である。
 だから、想う。
 だから、願う。


――洗濯機を経費にしたい、と。


 今更だが、自己紹介させていただくと、私はモノカキだ。
 小説を中心に、シナリオやら何やら文字を書いて日々口に糊している。
 そのため、一般的な人とは違うものが経費になったりもする立場なのだが……家電というのは存外に厳しい。

 無論、作品の中で使うから、描写するから、その資料なのだとできればいいが、現状ガンアクションばかりな私が経費に出来るのはせいぜい銃器関係・サバイバルゲーム関連ぐらいなもの。
 最新の洗濯機が資料として必要な作品はさすがにない。
(余談だが、昔『世にも奇妙な物語』であらゆるものを経費にするために、作中にそれらを出しまくってたらえらい目にあった、という話があった)

 噂によれば、『家電の全てを経費にしている』という作家もいるそうだ。
 『古いのと新しいの、洗濯機の二台を家に置き、税務署にはプライベートでは古い方を使い、仕事に関連する衣装だけを洗っているから経費なのだと主張すれば良い』と言う知恵者もいるらしい。

 さすがに、私は前者のように豪胆ではないし、後者を採用できるほどの地主ではない。
 そして、『アサウラさんがVtuberをやって、その全身スーツを洗ってると言えば経費になるのでは? やりますか? モデルすぐ作りますよ、●●●万円で』という狂気の誘いをしてくる某VtuberスタジオのCCOがいたりもした。
 確かに週に三回ぐらい更新、生放送も頻繁にやれば税務署とて「やむを得ん」と判断しそうな気もするが……いろんな意味で無謀が過ぎる。

 洗濯機は経費にはならない。
 それは、はね除ける事のできない世界のルールなのかもしれない。

 諦めてさっさと買ってしまうのが正しいか……。
 そんな事を考えながら、漫然と仕事に追われるばかりの日々を送っていたのだが……

 ある朝、目覚めと同時に思いついたのだ。


 noteで洗濯機の記事を書いて有料で販売すれば……それは仕事ではないのか?



 早速それをTwitterで書いてみたところ、複数の意見が寄せられた。
 特に興味深かったのは、ユーチューバーは(同じようにして)経費にしている、というものだ。
 なるほど、ユーチューバーなら確かに買ったものを動画で紹介しておけば経費にもなってネタにもなって一石二鳥だ。

 ではモノカキは?

 ……エッセイだ。生活エッセイである。
 そう、コレだ!!

 昔なら、我々のような身分の人間は出版社様から依頼を受けるなどしなければ仕事にありつけなかった。

 しかし、現代は違う。

 仕事は自分で作れる。
 自分で作って、自分で売れる。

 それも、自費出版のようなハイリスク・スーパーローリターンな手法をわざわざやる必要もない。

 noteでいい。
 noteなら、なんとでもなるじゃないか!

 何なら通勤途中のサラリーマンが、電車の揺れで誤ってタップし、記事を購入してくれようものなら……その瞬間に、このエッセイはモノカキの世迷い言からお仕事になり、我が家の新しい洗濯機は経費に昇華するのである。

 こんなに素晴らしい事はあるだろうか!


 私はいろめきだった。
 恐らくこれを読んでるはずの、節税、脱税、タックスヘイブンというワードに勃起が止まらない世のクリエイター達も同様のはずだ。
 きっとこの記事を読み終わったらすぐに有料配信のやり方を調べはじめることだろう。

 私はこのアイディアを早速noteディレクター、萩原氏に相談した。

 朝から会議、会議、会議を経て、18時スタートの会議を二時間(私はここから参加)、その後、某氏の誕生日会(飲み会)へ一緒に向かい、電車が遅延するというコンボが決まった結果、深夜一時を過ぎた終電の中……普通に考えれば相談できるような状況ではなかったが、氏はすでに私のTwitterを見て『いいね』をしてくれていたので、話は一瞬で済んだ。

 なお、noteディレクターと先ほど説明したが、彼は、正確には小説・漫画の編集、アニメのプロデューサー、VtuberスタジオのCCO、ポケモンマスター……と、多用な肩書きを持ちすぎて、逆に何もわからなくなっている不審者だ。
 わかりやすく言えば、(冗談みたいだが割と本気で)ハイパーメディアクリエイターといったところの人で、業界関係者内ではかなり有名な人物だったりする。
 ちなみに『リコリス・リコイル』の立役者の一人でもある。

 彼は言う。

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