廃屋の怪談 ②
どこからここの情報を嗅ぎ付けたのか。
今日の夕方頃にいきなり「超直感と度胸をつける修行だぞ」なんて、語尾にハートが付きそうな言い方をするもんだから正直イラっとした。
宿題も終わり夕御飯前にテレビを見ながら人が微睡んでいてもお構い無しなんだよあいつは。
とはいえ、それに逆らえば容赦ない教育的指導という名の暴力が飛んでくるんだから、たまったもんじゃない。
妥協するしか、ないのだ。
夕御飯のクリームシチューを食べ、母さんに断りこのお化け屋敷に来た。するとそこには、よく見知ったクラスメートの顔が二つ。
いや、何となくは予想していたけどさ。今まで共に修羅場をくぐって来た。けど、それでも友達を巻き込むのはやはり気が重い。俺は思わずリボーンをキィッと睨んだ。しかし奴はまるで道端に落ちてる石ころを相手するように俺を無視した。そこまでされたら俺も傷つくぞ、おい‼️
まあそんなこんなで季節外れの肝試しは始まり、そして今に至るわけです。
「だいたいムードってなんだよ。そういうものは愛人に使えばいいよ」
「……さりげなく凄いこと言いますね」
「ははっ。ツナ機嫌悪いのな!」
別に機嫌なんて悪くない。全然ムカついてなんかいないし。京子ちゃんが面白そうって言ってた、土曜9時のドラマ見たかったのになぁ。なんてこれっぽっちも思ってないしね。
「お前は意外とツンデレ属性なのか?」
「……いきなり現れるなよ。そして心を読まないで下さい」
「リボーンさん‼️」
「お。小僧じゃねーか‼️」
この薄暗い廊下で見るリボーンの顔は何よりものホラーだと思う。
「どうしたんすか。確か屋上で待ってるって」
「ははっ。もしかして一人が怖かったのか?」
「んな訳ねぇだろうが野球馬鹿‼️」
「獄寺、静かにな」
「はいリボーンさん‼️」
獄寺君のいい返事を最後に、リボーンは黙り込んでしまった。えっ、なに。まさか本当に怖かったの?
…………なんて心配してはいない。
そんなの杞憂(最近覚えたんですこの単語)だろうし。
リボーンは何かを思案中のようで、腕を組んで眉間に皺なんか作ってる。場の空気がシリアスな流れになってきた為か、獄寺君も山本も黙り込んでしまった。
そんな中、俺は一人のほほんとしていて。普段は垂れ下がっているリボーンの眉毛が、きゅっと額の中心に引き上げられているのが珍しいなぁ、なんてぼんやり考えていた。こうしてよくよく見てみると、リボーンって黙ってれば普通に赤ちゃんの顔だ。黙ってれば普通に可愛い。ていうか、結構間抜けな顔なんじゃないかこれ。
「誰が間抜けだ」
「いでっ‼️」
俺の弁慶に100のダメージ‼️
「可愛らしいってのは否定しねぇ」
「否定しないのかよ」
「だが男に言われても気持ち悪いだけだろうが」
「別にいいじゃん!お前赤ちゃんなんだから可愛いって言われてなんぼだろ?」
「女にならな。男は死ね」
「思春期の女学生かよ」
「女学生って例えは古いぞ」
「別に変な意味で言ってる訳じゃないんだしさ」
「ほーう。変とはどんな意味だ」
「クラスの女子が言ってたんだけどさ。なんだっけ、えーと。しょたこん?びーえる?」
「やめろキメェ」
「ちょっと意味は分からないんだけどさ。幸福な気持ちになるとかって言ってたからあれかな、母性本能みたいな事なのかな?」
「男のお前に母性本能があってたまるか」
「え、じゃあ父性本能?」
「お前はもう喋るな。アホが露呈する。先生は泣きそうだ」
「なんか知らないけど馬鹿にしてるだろお前‼️」
「二人供、息ぴったりなのな。夫婦漫才みてぇ」
「どっちがボケで、どっちがツッコミかは不明だがな」
四者四様。阿呆な会話しかない。
勝ち目のないリボーンとの不毛な戦いはとりあえず置いておく事にする。じゃないと話が前に進まない。中学生にしてこんなに妥協する事を覚えてしまって、大人になってからの自分をちょっと心配する。それもこれも目の前にいる、ぐるぐるもみあげ赤ちゃんのせいなんだ。俺をガキ扱いするくせに、自分はそれ以上に融通がきかないんだから。
「俺のもみあげはチャームポイントだぞ」
「だから心を読むなって……、あぁもう!いいから。で、何かあったの?」
「……お前反抗期か?」
およよ~。なんて業とらしくしおらしい演技をしてくるもんだから、なんか色々と面倒くさくなった。それが相手にも伝わったのか「ノリの悪い奴だ」と舌打ちされた。酷いっ‼️
でも反論するのも億劫なので、なにも言わず先を促す事にする。
「今すぐここから出るぞ?」
………………………。
予想外なセリフに、一同はシーン。
戸惑いから思わずきょとん顔を晒してしまう俺達。だって、あのリボーンがだよ?大雨のなか海水浴という名のトライアスロンをやらせるリボーンがだよ?雪がしとしと降るなか乾布摩擦大会を開催するリボーンがだよ?途中で中止にするなんて誰が信じるだろうか。いや、だれも信じないだろう。獄寺君も山本も首を傾げてるし。
「……それは、なんで?」
「ここはヤベェんだ」
「何がヤバイんすか?」
「どうしたんだよ小僧?」
リボーンの顔はいつになく真剣だった。
そこで俺は、直感的に何か。得体の知れない不気味さを覚えた。
なにかが、来る。
「……妙なもんが、住み着いていやがる」
その言葉が合図かのように、遠くから何かが笑う音がした。
つづく。
※家庭教師ヒットマンREBORN二次創作
反抗期に少し入っている綱吉をイメージしています。根が善人な綱吉は、ろくに反抗できずに反抗期を終えてしまいそう。
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