貴方にさえ出会わなければ

雨が降ればいいのに


君にさえ


出逢わなければ良かったのに




「荒れてんな、雲雀」


声をかけられた青年は、血塗れの中にいる。

どす黒い、赤。赤。赤。

その中で狂ったようにトンファーを振り回す癖に、青年の肌は真っ白で綺麗なものだから不気味だった。


「…山本、武」

「よっ。久しぶりだな」


やっとこちらを振り向いた青年の瞳は、獲物を狩る肉食獣のように鋭く。だけど同時に死んでいた。彼は何も見えていない。


「今まで何してたんだ?」

「数日前から僕の周りに小蝿が集まるようになってね。いい加減鬱陶しいから咬み殺していた所」

「…そうじゃねぇよ」

「何?」

「ツナが死んだんだ」

「……ああ」


どこか遠くを見るように、青年は虚ろに呟く。『死んだんだ』の言葉を噛み締めるように反芻して。


「連絡はいってる筈だよな。なのに何で帰って来ないんだ?」

「どうして?」

「どうしてって」

「僕には関係ないだろ?」


関係ないと言い切る青年は、どこかそうして無理やり切り捨てようとしているようで。痛々しい。


「でもお前…、好きだろ?」

「何が?」

「ツナの事」


珍しく瞳を真ん丸にして、驚きの表情をみせた青年はきっと動揺してる。切り捨てられる訳がない。ツナの側にいる時の青年は、とても優しい顔をしていたのだから。


はっと、苦虫を潰すように笑う彼は。今にも泣きそうで悲しい。


「馬鹿じゃないの」

「うん」

「僕が沢田を?」

「うん」

「有り得ない。あんな草食動物に」

「そうだな……」

「有り得ない。……僕は、僕は」


もういいよ。


そう言って震える青年を抱き締める。ぎゅっと、強く。強く。


「…嫌いだよ。沢田綱吉なんて」




君にさえ出逢わなければ


僕は


一人で生きていけたのに。




泣きそうなのに涙を流せない青年は、そう小さく溢した。泣けない癖に、その言葉は泣いていた。


「雲雀。……ツナに、さようならを言いに行こう?」



雨が降ればいいのに


そうしたら


溢した涙を


隠せるから。


弱い姿の君を


誤魔化せるのに。



「……出逢わなければ良かった」

「………」

「こんな感情いらなかった」

「うん」


「沢田綱吉なんか大嫌いだ」


「相変わらず、素直じゃないのな」


十年経った今も変わらず天の邪鬼な青年に苦笑いをこぼし、山本武は頭を撫でてやる。

ぽんぽん。ゆっくりと。

子供扱いしないでと言うくせに、体を預けてくる青年に彼は優しい。


今は、それでもいい。


だけどいつか。


………いつかは。



………………。


(勝手に先行くなよな、馬鹿野郎め)


親友に堪らなく会いたくなった。



※家庭教師ヒットマンREBORN二次創作
十年後の山本と雲雀。

キャラクターの死を扱いますので、苦手な方はご注意下さい。


山本君は、こういう時にこういう役回りを率先して行いそう。自分が辛くても、優しい彼だから。

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