ビートとユーリ(ポケモン二次小説)

※ポケモンの二次小説です。
苦手な方はご注意下さい。



「ビート君のそれは、癖?」

通算5杯目のカレーを頬張りながら、ガラルチャンピオンは首を傾げた。
どうでもいいけど貴女の胃袋はどうなっているんだ。大盛りを5杯も食べて更におかわりだと?
店の店員も引いてるじゃないですか。味変に生クリームと納豆なんてどうかしている。

「それとは?」
「髪の毛をよく弄るじゃない?」
「ああ」
「だから癖なのかなと思って」
「癖なんでしょうね」
「…………」

軽くあしらえばジト目で睨まれた。僕の返答がお気に召さなかったようだ。まあ僕も嫌みのつもりで言ったので、彼女の分かりやすい態度に思わず笑ってしまう。
するとなぜか彼女の不機嫌は消えてしまい、幸福そうにまたカレーを食べ始めた。他人に笑われて気を悪くしない人間は珍しい。僕は彼女といると珍妙な気持ちになる。

数刻前、所用でエンジンシティに寄る事になった。早早に用事を終わらせて、さて帰りましょうか腰を上げた所。丁度ワイルドエリアから帰ってきたという、この女に捕まった。良いカレーのお店を見つけたから一緒に行こうと、強引に手を引かれ、今に至る。

「いいんですか?」
「んん?」
「仮にも貴女はチャンピオンだ。男と二人でいる所を見られたらスキャンダルになるかも」
「ここはダンデさんの行き着けなんだ。だから落ち着いて食事が出来るんだよ」

そう言われれば、確かに静かだ。案内された席も個室で余計な物が少ない。前チャンピオンは、笑っているようで笑っていない男だったのを思い出す。

誰かに継承するものは、決して喜ばしいモノだけではない。薄暗い現実も引き継がなければならなくて。この人の場合は、それが「自由」だったのかもしれない。
彼女にはもう、彼女らしい「自由」が何処にも足りない。

「奇っ怪な人ですね」
「なにが?」
「僕なんぞと一緒にいてなんの特になるんです?」
「特?」
「僕には、人を怒らせる才能があるんです」
「うん」
「僕と関わる人は、だいたい皆さん不愉快そうに顔をしかめます。その原因はもちろん僕にあります。僕は僕が一番大事で他人なんてどうでもいい。だから他人に気を使う事が出来ない。忖度なしに思った事は遠慮なく口にするし、なにより僕は他人を馬鹿にしている。だから人の神経を逆撫でする」
「…………」
「僕はこの性分を直す気はありません。だから人が離れて行こうと、それは仕方がない事です」
「私は、ビート君の馬鹿正直な所。嫌いじゃないよ?」
「………」
「嫌じゃないから、一緒にご飯食べたいと思ったの。世界って広いんだよ。ビート君の知らない人間だっているよ」

君もまだまだだなぁ。なんてへらりと笑いながら、カレーにマヨネーズをかけ始めた。ほんのり酸っぱい香りが鼻をつく。不思議と美味しそうに見えるから、僕はどうかしてしまったのかもしれない。

「馬鹿は余計です」
「そういう意味の馬鹿じゃないよ」

分かっている。この女が変わり者な事くらい、もう既に。
僕がどんな人間であろうとも、どうでもいいのだ。バトルをして魂をぶつけ合う。その摩擦だけを信じている、かなり頭のおかしい人間。正真正銘のポケモン馬鹿。
そして、その馬鹿に絆されかけている僕も馬鹿だ。

「……落ち着くんです」
「何が?」
「髪を触ると、高ぶりそうな感情を抑えられる」
「そっか。やっぱり馬鹿正直だ」
「馬鹿で結構。ポケモン馬鹿さん」
「あはは‼️」

何がそんなに楽しいのか分からない。分からないものを楽しめるから、この人はチャンピオンになれたのかもしれない。だからこそ、彼女は強いのかもしれない。

ポケモンも人も、彼女に惹き付けられるのは。彼女が自分の欲望に忠実だからなんだろう。

「すみませーん。カレーおかわり下さーい‼️」
「あんた、まだ食べる気ですか」

世界は、僕の想像しているよりもずっと広いようだ。

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