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ヒードランは何故伝説ポケモンなのか~北海道とシンオウの両面から探る「信仰」~

 この文を読んでいる貴方は、下記の一文をご存じだろうか

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 これは、ヒードランは伝説のポケモンにカテゴライズされるにも関わらず、余りにも図鑑説明が簡素かつ凄さが伝わらないという事実から派生した、いわば公式から不遇の扱いを受けているという類のネタである。

 事実、ヒードランの初出であるダイヤモンド・パールでは「かざんの ほらあなに せいそく。じゅうじの つめを くいこませ てんじょうや かべを はいまわる」、マイナーチェンジ版であるプラチナでは「がんじょうな はがねの からだだが じぶんが はっする こうねつの ため ところどころ とけてしまっている」と、他の伝説ポケモンと違いヒードランが世界に何を齎したかの説明は全くなされていない。

 ではやはり、ヒードランは伝説ポケモンに相応しくないのか。いや、答えは全くNOである。その根拠をこれから述べて行こう。


序論

 このレポートは、ヒードランが「どれほど凄いか」ではなく、「なぜ伝説のポケモンであるのか」を考察するものである。

 そもそも、伝説ポケモンの定義とは何だろう。一つ簡単に思いつくのは、「強大な力」である。上記にも出ているように、伝説のポケモンには大抵何かしらの強大な能力が備わっていると伝えられている。しかし、この説には反証がいくつか存在する。考察としては全て挙げるのが好ましいが、尺の都合上、今回は一つだけ具体例を上げさせてもらう。 

 サーナイトというポケモンは図鑑で「サイコパワーで くうかんを ねじまげ ちいさな ブラックホールを つくりだす ちからを もつ」と説明されている。これだけ聞くと、伝説のポケモンにも匹敵するような力の持ち主と捉える人もいるだろう。ただしこのポケモンは作中では通常のポケモンとして扱われ、特段に恐れられるような描写も存在しない。

 それは何故か。私が考えるに、サーナイトは人間の生活の一部にいるポケモンだからだ。事実『ルビー・サファイア・エメラルド』の作中で、初めてポケモンを捕まえる少年が、サーナイトの進化前であるラルトスを捕獲する描写がある。

 逆説的に、伝説のポケモンが伝説足りえるに必要なのは「人の生活の外にいること」、つまりは文字通り人から人へと伝え説かれるような不確実性が条件であると考えられる。我々の世界で、そのような事柄が与太話や冗談として処理されず、実しやかに囁かれるために必要なのは何であろうか。

 そう、「信仰」である。

 続く本論では、ヒードランがどうして信仰される立場にあるのか、その背景を現実の北海道とシンオウ地方の描写、その両方から探っていこうと思う。


本論

 初めに、シンオウ神話の特異性について語りたい。一般的に神話の中身は「創世」と「建国」の二つに大別できると私は考えているが、シンオウに伝わる昔話や神話はかなり創世神話に偏っている。

 アルセウスは「原初」、ディアルガ,パルキアは「時間、空間」、ギラティナは「反物質」、ユクシー,エムリット,アグノムはそれぞれ「知識、感情、意思」(まとめて心)、クレセリア,ダークライは「夢」に関する裏表を司っており、本来神話の中枢を占めるような国生みの逸話はレジギガスの「縄で縛った大陸を引っ張って動かした」という部分に集約されている。

 ここで初めの「ヒードランが世界に何を齎したかの説明は全くなされていない」という部分に戻ってくる。私は先に神話について語ったが、神にはもう一つのジャンルがある事を意図的に伏せていた。それは土着神、つまり自然信仰である。

この世の成り立ちについての古代シンオウ人の考察である「シンオウ神話」
唯一の国生みについての言及である「レジギガスによる大陸移動説」

 その二つとは異なる「古代シンオウ人による自然信仰の現れ」、それがヒードランが伝説ポケモンである理由だと、私は考える。


 ここからは北海道とシンオウの地形や描写から、それらの根拠を述べて行こう。

 まず、ヒードランと山、とりわけ火山とは切っても切り離せない関係にある。上述の図鑑の説明通りにヒードランは火山の洞穴に生息し、そして実際にゲーム中でも火山のマップ内にて登場することから、これは容易に納得いただけるだろう。

 そして、シンオウ地方と山もまた、切っても切れない関係にある。マップ中央を縦断するように聳えるテンガン山はもちろん、下のマップを見るとゲーム内で体感するより急峻な地形が多いことに気付かれるだろう。

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 北海道も平地のイメージこそ強いものの、実際は山地や山脈を複数抱えており、シンオウほどではないものの起伏のある地形である。更に北海道の山の特徴として活発な火山活動が挙げられ、特に洞爺湖・支笏湖といった著名な湖はカルデラ湖であることが知られている。つい75年ほど前にも有珠山の噴火によって昭和新山が生まれたということを、学校などで習って覚えている方もおられるだろう。

 ゲーム内ではハードマウンテン以外に目立った火山は見られないが、これは火山が活動状態にないだけという可能性を考えると、北海道が有数の火山活動地域である事実がシンオウ地方の設定に反映されていてもおかしくないだろう。

 事実、テンガン山は「特殊な磁場」によりレアコイルをジバコイルへ、ノズパスをダイノーズへ進化させることが知られているが、これはシンオウ火山王国説を裏付ける証拠になる。

 溶岩が固まった岩石層に含まれる磁性鉱物によって、溶岩地帯の地磁気は大きく乱されることが知られており、現実でも玄武岩溶岩によって作られた地形ではコンパスが作用しないなどの実例が存在する。

 つまり、テンガン山の磁場が狂っていることから、この地形が地下溶岩由来の岩石によって形作られた、火山性の山脈という設定を読み解くことができる。

 また、活発に活動しているハードマウンテン内部にも多数のトレーナーが存在しており、火山活動に怯えるどころかホウエン地方のような「火山と共にある暮らし」を実現していることも、断片的にではあるが汲み取る事が出来る。

 そしてここで重要なのは、シンオウの人々は山を眺めたり登ったりするのではなく、古くから生活に利用していたであろう、という点である。この点はかつて鉱山で繁栄していた北海道を通しても語る事ができるが、ポケモンゲーム内の描写が細やかで素晴らしいのでそちらのみで語ろう。
(リアル寄りの北海道情報を知りたいならゴールデンカムイを読め、面白いぞ)

 まず、一つ目のジムが存在するクロガネシティは言わずと知れた炭鉱の街である。街中には石炭を運ぶベルトコンベアが流れその下にはボタ山がそそり立ち、街の下にある炭鉱と思しき所ではジムリーダーも含めた街の男衆とポケモンが共同で肉体労働をするなど、文言だけではなく炭鉱のリアルが感じとれる作りになっている。

 また炭鉱博物館がある事から、この産業がこの街をずっと支えてきた事も伺えるほか、ミオシティから行けるこうてつじまも廃坑となった鉄山という設定であり、シンオウ地方において鉱業は伝統的かつ主要な産業である事が分かる。


 ところで、ゲーム内において「テンガンざん」「ハードマウンテン」「こうてつじま」と言った洞窟系マップが多い中、何か気付くことはないだろうか。

 私の用意した答えは、「山マップなのに地表マップがほとんどない」である。「ハードマウンテン」と「こうてつじま」が地中を進む、なんなら下って行くマップになっていることは言わずもがな、テンガン山もゲーム当初は横切るだけのマップであり、イベントを進めることで内部の壁が崩れることでようやく登れるようになる(この際、テンガン山にも地表マップが存在しないと以前は記していたが、正確には存在したことを以前の版での読者に謝罪しておく*1)

 これはシンオウの価値観が、山は「中を掘り進むもの」という発想に偏っているからと考えられる。

 このシリーズにおける重要な遊び要素としての「ちかつうろ」も、一般人が地下を好きに闊歩でき、その中で宝石類から古代の化石まで様々な地下資源を採掘できるという点で、シンオウ地方に根付いた山地や洞穴への身近さや手軽さを補強する根拠足りえるだろう。


 さて、「シンオウには火山が多い可能性がある」「シンオウ人は洞穴へ頻繁に出入りする」、この二つから導かれる推測として上がるのは、かつてのシンオウの人々は頻繁に火山活動やマグマを見ることになっただろう、という事である。

 当然、人間にとって灼熱の環境は恐怖の対象であるし、その中で悠然と重力を無視して這いまわるヒードランのようなポケモンがいれば口伝で語られてもおかしくない。

 しかしまだ論としては完全ではない。なぜならポケモンには「ほのおタイプ」が存在し、彼らの世界において火を操るというのは一種の特徴にすぎないからだ。

 さて、ここで最後の補強材料を持ちだそう。

 このダイヤモンド・パールをプレイするにあたって、最初の三匹からナエトルやポッチャマを選んだ方はあることに苦労されたのではないだろうか。勘の良い方はお気づきになっただろうが、シンオウにはほのおタイプの野生ポケモンが異常に少ない。ダイヤモンド・パールではポニータしか出現せず、それ故に炎使いの四天王オーバも5匹中3匹が別タイプのポケモンという半ば異常事態であった。

 ゲームシステム上の欠陥と判断してかプラチナではほのおタイプが追加されたが、最初の世界観に準じて論を進めると、シンオウ地方には元々ほのおタイプが極端に少なく、それ故に見ることも触れることも少ない種類のポケモンだったと考えられる。

 この地方に存在する野生で「もらいび」を持っているのがヒードランだけなのも、シンオウの人々が炎に動じないポケモンを他に知らなかった可能性を大きくする。

つまりヒードランは、シンオウの人々が目撃できる中で唯一、炎やマグマへの完全な耐性を持ったポケモンなのである。


結論

 これで全ての論拠は揃ったので、要点をもう一度まとめておこう

・シンオウ地方には山が多く、現実の北海道と類似させるととりわけ火山が多いと考えられる
・シンオウ地方では古くより鉱業やそれに関連した文化が発達しており、人々の洞穴や地下への忌避感が少なく頻繁に出入りする
・シンオウ地方の特徴としてほのおタイプが少なく、人々がほのおタイプに触れる機会が少なかった

 以上より、
「シンオウ地方は古くより山と生きていたが、その中には活発に火山活動をする物もあり人々を悩ませていた。 それでもシンオウの人々は山を掘り進め発掘物を集めようとするので、当然マグマ地帯や高温の洞穴に突き当たる事もあった。 そんな中、マグマ流れる死の領域で、体に纏った金属を溶かしながら灼熱の壁や天井を這いずり回る謎のポケモンを見かけた。 ほのおタイプの知識の薄いシンオウの人々は、マグマ地帯に生息する謎のポケモンをヒードランと名付け、炎をもろともしない姿を見てこれを山の神のように扱い、噴火を起こすのはあのポケモンの仕業に違いないという口伝を広めることで、最終的に何もしていないヒードランは『伝説のポケモン』となった」
というストーリーが成り立つ。

 現実でも、季節性の台風を「神風」と表現したり日食や彗星を「天変地異の前触れ」と恐れるなど、知見を得る前の人類はしばしば自然現象を神や悪魔に例えて崇拝することがあり、それが自然信仰の自然な成り立ちである。

 この場合、シンオウの人々にとっての恐れるべき自然は「火山」であり、ヒードランが「信仰」の対象となったのはディアルガやパルキアを中心とするシンオウ神話体系とは全く無縁の土着信仰、山を恐れつつも山に入る事を止めない人々が生み出した『伝説』に因るものだと私は考える。

 そして、ヒードランが生態ピラミッドの頂点に近い存在であり、元から人間の立ち入れない所をテリトリーにしている上に少数かつ長寿のポケモンだったため、たまたま他のヒードランが見つからなかった、というのが私のヒードランの解釈である。

 例えば唯一人々に確認されているヒードランが、鉄仮面部分に特徴的な傷など負っていれば、より「古くから伝えられる唯一の個体」としての信憑性は増し、伝説のポケモンであるという風潮はより増すだろう。

 これで、今回のヒードランへの考察は終わる。私が本文を通して伝えたかったのは、ヒードランをネタ扱いする風潮への一石。

 また、ポケモンLEGENDSアルセウスにより過去のシンオウを深く掘り下げる動きがある中で、シンオウをただのゲーム舞台と捉えず、そこに息づく人々を感じ取るというゲームの楽しみ方に気付いてもらいたいという心。

 そして最後に。人生で初めて手に入れたマスターボールをヒードランに使った、彼のポケモンを愛する一人のトレーナーとしての、純粋な愛情。


初noteでしたが、長文ご拝読ありがとうございました。


蛇足

──なお、ここからは筆者の想像するヒードランの生態なので説の補強にはならないが、ただの妄想として興味がある人にだけ読んで欲しい。

 作中で「噴火を起こすポケモン」として言及されたヒードランであるが、通常の入手方法では「ふんか」を覚えない事、図鑑の説明にも一向に載らない事から、私はヒードランにこのような能力はないと考えている。

 ヒードランの固有技としてマグマストームがあるが、これが噴火を起こす力かというと、私は首を縦に振ることはできない。この技は「はげしく もえたぎる ほのおの なかに あいてを とじこめて こうげきする」という説明であり、噴火のイメージとは少し異なる。

 火山にまつわる自然現象で「ストーム」と形容され、閉じ込めるような副次効果を持つもの。私はマグマストームを火砕流の比喩だと捉えている。嵐の様な速度を持ち、更にほのおタイプに相応しい熱量で対象を呑み込んでしまう火砕流は、噴火よりもこの技のイメージに適切なのではないだろうか。 

 余談ではあるが、北海道は有数の火砕流被害地域であり、歴史に残っているだけでも1640年の北海道駒ヶ岳、1822年の有珠山で大規模な火砕流被害が確認されており、地質調査によって支笏カルデラの周辺でも数十kmに渡る火砕流の堆積物が確認されている。つまり、北海道とシンオウ、そして火砕流の関係は根深く、繋げることは決して無理筋な話ではない。

 そして火砕流は、噴火に伴って起こる副次現象であり、これをもってヒードランが噴火を起こす能力を持つとは断言し辛い。

 であれば、作中で言及される「かざんのおきいし」とは何なのだろうか。それについて、まだ語っていなかった「ヒードランに雌雄がある」という伝説のポケモンらしくない性質に絡めた考察が一つある。

 まず、ゲーム上でヒードランはタマゴ未発見となっているが、私は普通に産むと考えている。上記の通り、私の解釈ではヒードランは「伝説」の名にふさわしい特殊技能は無いが、真っ当に希少かつ強力なポケモンであると捉えている。よって、絶対数が少なくて見つからないものの実は繁殖を行うポケモンであるという風に解釈している。

 でなければ、生物として雌雄が「区別できる」道理が通らないからだ。

 育て屋に預けても生まれないではないかという意見があると思うが、これは環境の問題だと思っている。この世の中の生き物は、季節によって産卵期が決まっている物が多い。それは恒温動物でも変温動物でも変わらず、ある意味で世の摂理ともいえる。

 なら、金属を溶かすほどの体温を持つヒードランにとって、外界は寒すぎて子作りの環境には適さないのではないか。

 産めない体なのではなく、産めない環境だからタマゴを産まないのではないか。

 ここで、ヒードランを呼び出すためのアイテムであるかざんのおきいしの説明文を見てみよう。アイテムとして入手できるのはブラック2・ホワイト2のみなので、そこからの抜粋になるが、
 「しゃくねつのマグマの熱でとけた岩石が固まってできたもの。中にマグマが残っている。」
という記述がある。

・只の石ではなく、一度溶けてからもう一度固まったものであること。
・そしてまだ中にマグマが残っていること。
・ヒードランの体温は金属を溶かすほどという事。
・ヒードランの特性は「もらいび」であり、炎は強さに関わらず無効化できること。

 この4つから私は、「ヒードランはタマゴを生んだ後に溶けた岩石とマグマで更なる殻を作り、常に超高温を保つことで孵化させる」という説を打ち立てたい。

ヒードランの主食は明らかにされていないが、住んでいる環境を考えると岩石やマグマを食べていると考えられる。そんなヒードランにとって、かざんのおきいしの成分は強固な外殻であると同時に高純度の餌と言えるだろう。

 事実、この世界にはタマゴを幼虫の餌に直接産み付ける生物が複数おり、オトシブミなどのように親が子供のエサ兼住処を作る生物までいる事を考えると、そこまで特異な生態でも特異な発想でもないと思う。

ヒードランがHGSS中で教え技により「むしくい」を覚える事も、このポケモンが虫に類似する生態を持っている可能性の妥当性を上げる材料になっている。


 つまり、ヒードランを鎮めるためにかざんのおきいしが必要なのではなく、ヒードランにとってかざんのおきいしがあるのは当たり前であり、
何も知らぬ人がかざんのおきいしを持ち出すと、子供を奪われたことによってヒードランは怒り暴れ、その余波として「結果的に」噴火が起こる。

──ハードマウンテンに伝わる説話も、そう解釈することはできないだろうか。

*1)2021/12/17改稿

2023/8/11追記:知らぬ間に1000❤️を突破していた様で、拙作をここまで評価して頂き誠にありがとうございます。Twitter(現X)などを観察する辺り、著者の想定通り安易にヒードランをネタにする投稿へのカウンターになっている様で、1人のヒードランファンとしては嬉しく思います。Pokémon LEGENDS アルセウスで掘り下げが少なく残念でしたが、今はPokémon Sleepで「めをあけたまま寝」をするヒードランを楽しみにしています。

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