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レジギガスの伝説は本当か?~カラナクシと地下通路から見る大陸移動の考察~

序論

 シンオウ地方には、レジギガスという伝説のポケモンが眠っている。ホウエンに登場する三体のレジ系ポケモン、またガラル地方に登場する二体のレジ系ポケモンを生み出したとされる、言うなればレジ系のマスター的立ち位置のポケモンである。

 生命を創造できる力の源と彼らを生み出した理由、そしてキッサキ神殿で苔生すほど長く眠っていた原因など、シンオウ地方の伝説ポケモンの中でも屈指の謎を秘めており、プレートを手に入れる事で読める文章にある示唆的な表現からアルセウスとの関係も考察されるなど、非常にロマンをくすぐられるポケモンなのは間違いない。

 が、「本文ではこれらについて考察を行うことはない」

 では今回レジギガスについて取り上げるのは何か。まずは図鑑説明をご覧いただこう。

「なわで しばった たいりくを ひっぱって うごかしたという でんせつが のこされている。」

 この記述より、レジギガスはシンオウ神話において国土創生を司っていると考えることができる。現実の日本にも、出雲神話において八束水臣津野命という神が大陸に網をかけて出雲国の国土を増やしたという伝説が残っているので、これはそれほど突飛な神話というわけではないだろう。

 しかし、現実的に考えて身長4mに満たないポケモンが大陸を引っ張る膂力を発揮できるだろうか。ポケモンには、ホウエン地方を作ったとされるグラードンとカイオーガの伝説はあくまでただの「伝説」であり、実際のホウエン地方は地殻変動によって生まれたという裏設定が存在する。であれば、同じようにレジギガスも物理現象の結果をこじつけられたのだろうか。

 私はこれをやんわりと肯定するが、同時に「伝説が伝説になる背景」を考慮する必要が多分に存在すると思う。これを先ほどのグラードンとカイオーガを例に説明しよう。

 ホウエン地方は非常に海洋面積が多く、ダイビングによる海底の探索に代表されるように海洋マップの豊富な地方である。一方でえんとつやまに代表されるようにマグマによる造山活動も活発であり、海上にもカルデラ跡のような奇妙な形の岩礁が存在する。

 相克する海と陸、その地形を見たホウエンの人々が作り出したのがグラードンとカイオーガの神話であり、その物語には彼らの培った土地勘が確かに根付いている。

 ならば、シンオウに伝わるレジギガスの国引き神話も、全くの想像ではないのではないか。それがポケモンの仕業で無かったとしても、彼らがそれを語るのには彼らなりのシンオウの大地への理解があるのではないか。

 それを探るのが、今回のレポートである。


本論

 今回私が提唱したいのは、古代シンオウの人々がレジギガスに国引き神話を当てはめたのは、この大地が実際にプレート運動によって大陸を引っ張ってきたように生まれたからである。

 つまりシンオウ地方は複数の大陸が結合して出来たという仮説だ。

 その根拠として初めに見てもらいたいのが、以下のマップである。

地下通路

 シンオウ地方にとって欠かせぬ要素であり、ゲームを遊んだことがある方なら幾度となく潜ったことがあるだろう、ちかつうろ。

 あなたが実際に潜っているとき、こんな経験をしたことはないだろうか。

 「レーダーが光ってるのに、ここからじゃ道が繋がってないんだけど」

 無論私も経験したことがあるが、当時は何も感じることなくレーダーに次の反応があるのを待っていた。しかしこの「地上では繋がっているのに地下では繋がっていない」という状態こそが、シンオウは本来別々の大陸だったものが衝突合体して一つになったという仮説に説得力を持たせるのではないだろうか。

 繋がっていない理由として「バトルゾーン」と「まんげつじま」は立地的に船でしか行けない孤島であるから、という理由で納得できる。

 カンナギが別のちかつうろになっている理由にも一応の説は用意しているのだが、今回のアプローチとは別方向の話であるので、本文の最後に軽く乗せるという但し書きの元で本論からは外させていただく。

 今回は「ナギサ周辺」と「シンオウ東部」、特にシンオウ東部が別大陸であるという仮説について詳しく掘り下げて行きたい。

 ここから先の議論では便宜的に、クロガネやミオを含む塊を「シンオウ東部プレート」、ハクタイやノモセなどの多くを含む塊を「シンオウ中央プレート」と呼称する。

 まずナギサシティと222ばんどうろがちかつうろのマップで別扱いの理由、私の立てた仮説は「ナギサシティと222ばんどうろは巨大な陸繋島とトンボロであり、元は大地ではなかった」というものである。

 ナギサシティは元々海岸の岩場を切り開いて作られた街であり、本来は人間の住めない場所である、というのは作中の描写からも納得いただけるだろう。

 また、222番道路が海抜の低い一本道である、というのも実際のマップチップから読み取れる情報として正しいといっていいだろう。

 ここで思い出して欲しいのは、222ばんどうろと繋がるリッシ湖のほとりは、砂浜からほど近い距離にロッククライムを使用できるほど起伏の激しい高台があるという事である。

 崖付近の海岸から垂直に砂浜が伸び、そしてまた別の岩場に繋がる。地球上をくまなく探せば元々からそんな地形も見つかるだろうが、今回はこれを陸繋島の特徴として見なし、リッシ湖のほとりからナギサシティまでが正にこの関係であると主張する。


 次に本題であるシンオウ東部が別の大陸であったという仮説を証明しに行きたいが、その前にカラナクシの図鑑説明をご覧いただきたい。

・にしのうみ
「環境で 姿が 変わる。 水温が 温かい 海では この姿に なるという 説も。」

・ひがしのうみ
「エサで 姿が 変わるとも いわれるが 正しいことは まだまだ わかっていないのだ。」
「 環境で 姿が 変わる。 水温が 冷たい 海では この姿に なるという 説も。」

 これは現状最新のシリーズであるソード・シールドでのカラナクシの図鑑説明だが、それでもまだカラナクシの姿が分かれる理由は分かってないらしい。

 それでも、海水温によってそこに住まうエサの種類が異なり、それによって色が変わるという仮説を立てれば両方に筋が通りそうな気がする。

 しかし、シンオウにおいてこれは「全くおかしいのだ」

 シンオウ地方が、テンガン山を挟んで気候や植生、登場するポケモンまで異なるのは有名な話だろう。

例えば、西側では雪が降る地域があるのに比べて、東側では高い緯度であっても雪の降る気配はなく、それどころか南部には湿原まである。

 また生えている木の種類であるが、東側は広葉樹が生えているのに対して西側は針葉樹林である。これは、ほぼ同緯度の湖であるシンジ湖とリッシ湖を比べて頂くと分かりやすい。

 ここまでは現実に即した地域の分布によく当てはまり、テンガン山の東側は日照時間が短く気温が上がらないため寒冷であり、テンガン山西側は太陽が良く当たるため比較的温暖であるという、テンガン山を挟んだ山陰と山陽の関係が成り立っていると言える。

 しかし、ここで先ほどのカラナクシの図鑑説明を見ると、彼らはシンオウの気候条件に逆行している。上記のものは述べたようにソード・シールドの物であるが、地方によって条件が逆転するとは考え辛いので、彼らがシンオウでテンガン山を境に姿が変わるのは、海水温が条件ではないかもしれない。

 ならば、これには他の理由があるはずなのだ。

 ここで、ゲーム内のカラナクシの分布を見る。姿が二つあるので当然分布も東西両方にあるのだが、「にしのすがた」はミオから205ばんどうろに掛けて、つまり「シンオウ東部プレート」上に分布し、「ひがしのすがた」はノモセシティの付近と224ばんどうろ、つまり「シンオウ中央プレート」上に分布することが分かる。

 また、シンオウ地方にはテンガン山の左右どちらかにしか分布しないポケモンが多数存在している。下でそれらを全て紹介しよう。

・テンガン山の西のみ出現「フワンテ、パチリス、ミミロル、ムウマ、ヤミカラス、スカンプー、ケイコウオ系統、ニューラ、グライガー、ブーバー、ウリムー系統、ユキワラシ」

・テンガン山の東のみ出現「ウソハチ、マネネ、ラッキー系統、ピカチュウ系統、ミカルゲ、アンノーン、ウパー系統、ヒポポタス、マリル系統、スコルピ、グレッグル、マスキッパ、テッポウオ、タマンタ、ラルトス系統、ベロリンガ、イーブイ、チルット、デルビル、モンジャラ、ヤンヤンマ、トロピウス、サイホーン系統、ヨマワル、ストライク、エレブー」

 豪雪地帯にしか生息しないポケモン、また逆に湿地にしか生息しないポケモンなど、テンガン山の東西より地域性に影響されるサンプルも含まれていそうではあるが、カラナクシに限らずテンガン山の東西でシンオウの生態系は大きく異なる事が分かる。

 ここから、シンオウ地方のカラナクシは海水温やエサの違いではなく、「元々別の地方に存在した別種のカラナクシが、プレート運動による大陸の移動によって一つの地方に集まり、同時に2種類存在することになった」という仮説を唱えたい。


 また、レジギガス、ダークライ、クレセリアなど、シンオウ神話のメインストリームに属さない、いわゆる準伝説ポケモンはこのテンガン山西部に集中していることも分かる。

 これも、太古のシンオウ地方において「シンオウ東部プレート」はシンオウ地方の一部ではなく、独自の体系を持っていた「シンオウ東部神話」がアルセウスを中心としたシンオウ神話に集合される形で組み込まれたのではないか、と想像できる。

 これであれば、元々「シンオウ東部プレート」にいたレジギガスに大陸を引っ張ってきたという逸話が付けられる理由にはなるのではないか。

 さらに、彼による被造物とされているレジ系ポケモンがシンオウに存在せず他地方に分散して存在する理由が、「レジギガスがレジ系ポケモンを生み出したのはシンオウに来る前」と説明できるのではないか。

 そして、アルセウスと戦ったという推測の域を出ない説にも、「他大陸からのポケモンと民族であれば侵入者と思って排除しようとする」という合理的な戦う理由を見出せるのではないか。

  ついでに、唯一「シンオウ東部プレート」上の湖に眠っていたエムリットが解放後に住処へ戻らずシンオウ全土を飛び回るのも、他2匹に比べてシンジ湖への帰巣本能が薄いからではないかと考えられる。

結論

・ちかつうろから見る岩盤レベルでの隔たり
・テンガン山東西での環境の大きな違い
・なぜか他地方に眠るレジギガスの眷属

 やや突飛な仮説で粗もあることは自覚しているが、レジギガスに大陸を引っ張ったという神話が付随した理由を、プレート移動論という「大陸移動」の主な原因を上記の地理的条件と結びつける形で探ってきた。

 本文はあくまでもレジギガスの図鑑説明文からシンオウの地理を考察する目的で書かれたものであり、このスロースターターな威厳あるポケモンの設定上の能力についての研究ではないため、筆者の前著作であるヒードランの考察と比べて物足りなく感じた方もいるのではないだろうか。

 序論に書いた通り、レジギガスはシンオウの伝説ポケモンの中でも屈指の神秘性と考察材料を秘めている。ポケモンの世界は現実の地方をモデルにしているだけあって作り込みが深く、どのような知見からでも一定の考察が出来ると思う。

 あなたの思うレジギガス像があるのなら、ぜひ形にして欲しい。

備忘録
 序盤で棚上げにした、カンナギタウンのみ別の地下通路である理由。これはあくまで何の根拠もない、カンナギタウンが古くから神話を受け継ぐ町であるという理由からの推測であるのだが。

 カンナギタウン専用のちかつうろは、丁度「シンオウ中央プレート」にぐるっと囲まれるように存在しており、逆に見ればちかつうろの書くとして存在しているようにも見える。

 ストーリー上ではシロナのお使いで訪れ、アカギと戦うだけの町。ポケモンジムも無い、ストーリーという縛りが無ければトレーナーとしてはほとんど立ち寄る意味のない寂れたこの町が、実はシンオウ地方のどんな栄えた街も敵わない「本当の中心」と示唆しているのではないかと、私はそう思う。

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