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世界は、美しい。「永遠の門~ゴッホの見た未来~」

ゴッホの映画「永遠の門」(At Eternity's Gate)を観てきた。

素晴らしかった。

まずウィレム・デフォーの演技。
そして、あまりに美しい情景描写。

ゴッホは「炎の画家」と言われるように、激情的な人物というイメージがある。
それに比べてウィレム・デフォーのゴッホは、より繊細で、どこか情けなく、ときに呆けたように街をさまよう
本当に「絵を描くことしか、できない男」という感じ。

ただ、彼が不幸には全く見えなかった。

美しいアルルの自然の中、

夕暮れ時、空が夕方から夜に移り変わるグラデーションを前にして。
黄金色に輝くすすきの野原に分け入りながら。

時にうっとり、時に驚いたように、時に丸裸の子供のような表情で
目で、耳で、肌で、吸い込んだ空気の匂いで
全身全霊で自然からのインスピレーションを受け止める姿を見ると

それは、とても生き物らしく満たされた生き方なのではないか
そんなふうに思ってしまった。

それでも、やはり周りの評価に苦しみ
誤解を受けることに、わかり合いたかった人に自分を受け入れてもらえないことに傷ついていく。

でも終盤、ボロボロになりながらも

明確に自分の役割を見つけたかのような
静かに、青く燃える炎を瞳の奥に宿らせはじめる。

それは、狂気や激情とは真逆の
悟りとか覚悟に近いものだったと思う。

目の表情だけで、それを表現するウィレム・デフォーが凄かった。

***

ゴッホの展覧会を見に行くと本当に印象的なのが
アルル時代を境に「化ける」こと。

圧倒的な表現力と引き換えに、何か悪魔とかと契約したよね?

背筋がゾクッとして、思わずそう問いたくなる。

本当は、この映画で描かれているように
「自然、そしてその中に存在する神」と繋がったのかもしれないな。

"自然は神であり、美である。
全ての美しいものは自然の中にすでに存在している。
画家は、それを人々に伝える存在だ。"

この映画でゴッホはそう語る。

恩田陸さんの小説「蜜蜂と遠雷」で
(去年一番感動した小説なのでいろんなとこに書いてるけど)
ピアノの天才である主人公が
”僕は音楽を外に連れ出したいんだ”と言ってた。

世の中はもともと、音楽に満ち溢れている。
僕はそれを連れ出して表現したいんだと。

そして多分、私もそれを知っているんだ。
私にとって子供の頃から、音楽も映画も特別なものだったけど

それは「世界は美しい」ということを教えてくれるからだ

ドビュッシーの「月の光」によって、月夜はもっと繊細に艶めいて感じた。
ボロディンの「ダッタン人の踊り」を聴いて、乾いた草原に息づく人たちの生き様に思いを馳せた。

この映画を観ながら、そんな自分のルーツに気がついたし、

「永遠の門」も、まさに私に「世界は美しい」と思い出させてくれる映画だった。

***

最後に。ゴーギャンとの関係性の描き方も好きだった。

最終的には破綻し、ゴッホは自分の片耳を切り落とし、
ゴッホはアルルを追放されたけれど。

自然の中に美しさがある、というゴッホに
君の目で、君の中にあるものを描け、というゴーギャンの言葉は影響を与えただろうし

決別後の数少ないやり取りのなかで、
ゴーギャンもゴッホにインスピレーションを与えられていたんだな、と思えた。

人と人って、短い期間では決別したとしても、お互いの心に残りあってることがある。
そんな、人生の温かみのようなものをゴッホの人生に感じられたことが嬉しかった。



読んでいただきありがとうございます。「自分の個性」に気づき表現していける女性が世の中に増えるように、アウトプットをしていきます!