従業員にとって「優しい対応」とは

「当社は、従業員に優しい会社なので・・・」という話を、よく人事担当者や経営者から聞きます。
 しかしながらこの優しさの陰にある、厳しさには目が向けられていません(あるいは目を塞いでしまっている?)

メンタルヘルス不調者のフォロー

優しいと自称する企業の多くは、休職者が復職する際の判断が十分ではありません。
 完全な労務提供ができることを確認せず復職させているため、場合によっては不完全な労務提供しかできないことを前提として復職させているため、復職後は当然のことながら完全な労務提供ができません。

しかしながら、それでも会社としては困っていません。それはなぜか。他の従業員が不足分の補填をしているからです。

「そんなことはない」と思われるかもしれません。

ですが、そのような方にお聞きしたいのは、「休職者が出た場合に、その分その部署への担当業務等を減らしましたか?休職者が担当していた分の業務を、同じ部署の他の誰かに割り当てたりしていませんか?」という点です。
 あるいは「休職者が担当している業務を担っている間、その従業員の方の賃金や待遇をアップさせましたか?」という点も同じ議論が当てはまります。
 もちろん、休職者の担当業務分をその部署の担当から除いているような企業もあるかもしれません。待遇を一時的にアップさせた企業もあるかもしれません。しかしながら多くの企業は、そのようなことはしていません。

要するに、従業員に対する優しさと称して、復職時に不完全な労務提供を許容することは、他の従業員に対して本来の担当分以上の業務を、その対価を与えずにさせているということです。
 これを、労働時間は延ばさず、労働の密度を上げて対応している場合には、サービス残業をさせているのと大差ない対応をしているわけです(あるいは、一方で残業の削減目標などを立てている影響か、残業をつけることができずに、サービス残業状態になっていることも。。。)。
 なお、その分を残業していて残業代を払っている、というケースについては細かく言及しませんが、そもそも残業を前提とした業務分担を適切とは考えていません。

ローパフォーマーの放置

同じ構図は、ローパフォーマーを適切に指導せず、その不足部分を他の従業員に押し付けている、という場面にも表れます。
 従業員に対する優しさと称して、本来すべき業務をできていないローパフォーマーに対して適切な指導をせず、その分を他の従業員に負担をかけている、しかもこの場合も同様に、賃金や待遇を上げることなくさせている。

この対応のどこが「従業員に対して優しい対応」なのでしょうか。ここでいう従業員とは、一体誰のことなのでしょうか。
 「従業員に対して優しい対応」をしているつもりである従業員に対して甘い対応をし、結果的に真に会社に貢献しているはずの他の従業員に対して厳しい対応をしていないでしょうか。

誰に対しても、完全な労務提供を求めることで、結果的に他の従業員への適切な負担につながり、まさに真の意味で、「従業員全体に対する優しい対応」へとつながります。

なぜ現場の状況は上司に伝わっていないのか

多くの場合、現場の状況と上司の認識にズレが生じています。それを端的に表す上司からの質問が「2割でも3割でも働いてくれるなら助かるので、早く職場復帰してほしい」というものです。この質問の背景にある、残りの7〜8割をフォローすることになる他の従業員のことは、考えられていません。
 もちろん現状では、休んでいる人の分も仕事をしているわけなので、10割をフォローしていることになります。それを2〜3割でも軽減させたいという思いがあるのかもしれません。ですが実態としては、十分に働けない人が職場にいることの悪影響の方が多いでしょう。2〜3割しか働けないのなら、他の人たちでカバーするから、目の前にいて欲しくない、というのが心の叫びではないでしょうか。
 結局、たとえばこの方がやった仕事をダブルチェックせざるをえず、2〜3割も働けていないどころか、余計に仕事を増やしているということがあるのかもしれませんし、2〜3割しか働けていない状況に対して、申し訳なさそうにするどころか、フォローする人たちをイラッとさせるような言動をしているのかもしれません。あるいは、明らかに2〜3割しか働けていない人の方が、それをフォローする人たちよりも、給料が高いなどがあるかもしれません(正社員を非正規社員でフォローしているとか)。
 こうした状況を、上司は正しく認識していないから、不完全な労務提供でも、いてくれるだけマシだという判断をしてしまうのでしょう。

まとめ

「従業員に対して優しい対応をしている」というならば、特定の従業員だけではなく、従業員全体に対して優しい対応をしてほしいと思います。
 それは皆をしっかりと働かせるという一見すると厳しく見える対応かもしれませんが、そもそも職場は働く場所なのですから、どのように働くかが問題であって、働かせないことの正当化はできません。

(おまけ)育休取得者のフォロー

職場で育児休業を取得する従業員がいた場合にも、今回のような議論は生じます。これがねじ曲がると、育休取得者に対する悪感情につながるわけです。

この点、個人的には、育児休業取得者の業務を担当している従業員に対しては、賞与等を上乗せする形で、その貢献に報いた方が良いのではと考えています。
 賞与を原資を割り当てて計算している場合には、結果的にそうなっているかもしれませんが、育休取得者のフォロー分として、目に見える形で報いてはいかがでしょうか。

なお私傷病休職とは異なり、育休取得者の社会保険料等は会社負担分も免除されるため、従業員が育児休業を取得しても、会社の財布は全く痛みません。さらに「育児休業取得者がいるから、受注を減らします」というような対応は決してしていないはずですから、会社の売上自体には特に影響はないはずです。
 他の従業員に対して、賞与を多めに配分することは、難しい話ではないと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?