初めて指導するとき(エッセイ・動き続ける 11 月刊トレーニング・ジャーナル2019年2月号)


森下 茂

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初めてはいつも緊張

「仕事に慣れてはいけない、初めて話すと思え」。こう話すのは林家小三治さんだ。落語のネタに限らず、大抵のことは慣れてくるといい加減になってくる。別な言い方をすれば緊張感がなくなってしまう。それが人間だと言えばそうなのだが、その自分への戒めとして小三治さんは語っているのかもしれない。逆に言えば、初めての仕事はよくも悪くも緊張感を持つことができる。おそらく事前の準備も変わってくる。

 かく言う私も、この仕事をして20年ほどになるが、初めて伺うチームの場合には、いまだに相当緊張する。「監督はどういう人だろうか?」「選手たちのレベルは?」さまざまなことが頭に浮かんでくる。

 今でもはっきり覚えているのだが、私がこの仕事を始めて、最初にチーム指導の現場に行くことが決まったときのこと。師匠に質問した。「今度、やっとチーム指導に行けることになりました。何を準備したらよいでしょうか?」。すると師匠は、「バカだな、お前は。行く前から何も決められるわけないじゃないか。行ってみて先生と話をして向こうの要望を聞いて、実際に選手のレベルを見なければ、何も決められるわけがないだろうが」と。

 不安がいっぱいな私は、行く前からある程度やることを決めて少しでも不安を解消したかったのだが。しかし、師匠の言っていることは、今なら頷ける。当たり前だが、現場にいかない限り、トレーニングプログラムを組み立てようがないのだ。

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