2. 栄養サポートの実際(月刊トレーニング・ジャーナル2022年1月号 特集/休養と栄養の大切さ)

村尾咲音・札幌保健医療大学、管理栄養士

スポーツ選手や中学生、高校生のアスリートへの栄養サポートを行う村尾氏に、無理のない食事摂取をしていくうえでのコツについてお聞きした。

スポーツ現場での栄養士の仕事

 現在は札幌保健医療大学に勤めています。大学とレバンガ北海道が栄養サポートパートナーになっていますのでトップチーム13名とU15の中学生30名弱のサポートを行っています。今年度からU18が始動し、新たに高校生のサポートが始まりました。

 トップチームのサポートとしては、個別指導やホーム戦の後に食事提供をしています。個別相談では毎月練習会場で体組成を測定し、フィードバックを行っています。シーズン中の選手への直接の指導は月1回になりますが、必要に応じてメールなどを使って具体的なアドバイスを行っています。

 ユースに対しては一人ひとりの成長段階をみながら、運動によるエネルギー消費量の増大や栄養素の摂取不足により成長が妨げられないようにサポートを行っています。

 選手には毎日自分で練習前後に体重測定と記録をしてもらっています。また、身長は毎月測定しています。私はその記録から成長分析を行い、どれくらいの成長段階であるかを調べています。育成年代から選手が自分で体重を測定・記録することは、コンディションの自己管理能力を身につけていく上でも重要なものと考えます。

 身長・体重の実測値と成長分析のデータがそろったところで保護者を対象に栄養相談を行っています。保護者の方に話をするときはできる限り具体的に、それぞれの生活環境も考慮して実践可能な提案をすることを心がけています。もちろん選手にも定期的に栄養の話はしますが、中学生くらいまでは食事を用意するのが本人ではなく保護者である場合が多いため、食事内容の改善に関してはやはり保護者へのアピールは重要だと考えます。

 選手たちには、まずは食事に興味を持ってもらうことを最優先とし、定期的に栄養セミナーや簡単な調理実習を行っています。食事に興味を持つようになると、選手たちは自ら私に話しかけてくるようになります。「自発的であること」はバスケットボールへのモチベーションはもちろん食事の自己管理能力を養っていく上でも大切なものだと考えます。

成長分析

 成長分析では「成長曲線」という年間に何センチ身長が伸びたかを曲線化したものを見ていきます。成長曲線は選手個人の各年齢の成長段階を知るためのデータとなります。栄養の過不足は体重の推移が評価指標になりますが、成長期の体重増加は身長の伸びの影響を受けるため、体重の実測値だけでは適切な評価ができません。そこで実測値とともに成長曲線をみて、成長の度合いに対して体重増加が適切であるかを考えるようにしています。

 また、これらのデータとともに重要な評価項目として体格指数があります。中学生の体格指標としては肥満度、ローレル指数、BMIがありますが、チーム内の身長の幅が150〜190cmくらいまである場合は、ローレル指数とBMIの両方の推移を中学校1年生の段階から追っていき、総合的に評価するのが望ましいと考えます。いずれの指数においても「痩せ」に入る状態では身長の伸びも悪い傾向があるため、そのような場合には体格指数の改善を目標とした栄養管理を行っています。

 保護者との栄養相談の際には、まず最近の食事内容や量、体調面などを聞き取り、栄養摂取量が足りていないと判断したときは、できる限り具体的に改善を提案します。「もっと糖質を摂ってください」ではなく、「朝食の主食の量をしゃもじ一杯分だけ増やすことはできますか?」「練習後におにぎり1個食べることはできますか?」など食品・量・タイミングを具体的に伝えるようにすると、実践のしやすさは格段に上がります。また、保護者も選手も負担を感じないような提案をしていくことも重要であり、実践してもらう改善点は多くても3つ程度にするようにしています。

体重が増えない、減ってしまう選手への対応

「一生懸命食べているのに体重が落ちる(もしくは増えない)」という声をよく聞きます。実際、選手本人は本当に頑張っている(限界まで胃に詰め込んでいる)のですが、摂取量よりも消費量が勝ってしまい体重増加が滞っているケースがあります。

 では、無理してもっと食べる量を増やさなくてはいけないのかというと、決してそのようなことはありません。成長期は同じ年齢でも体格はもちろん内臓の成長度合いも一人ひとり異なるため、一度に食べることができる量や消化吸収できる量に個人差があります。チーム内で相対的に食べる量が少ないからといって、単純に食事量を増やしてもただ苦しいだけで、場合によっては食事が嫌いになってしまう可能性もあります。「体重を増やしたいけど食事量を増やすのは難しい」というケースへの対応で大切なことは「量を増やさずにエネルギー摂取量を上げる工夫」を一緒に考えることです。

 スポーツ栄養といえば「白米をたくさん食べる」と言うイメージがあるかもしれませんが、摂取エネルギー量を増やすための食品が米である必要はありません。アスリートに脂質はタブーに思われがちですが、脂質(9kcal/g)は糖質やタンパク質(4kcal/g)よりもエネルギー補給の効率がよいため、エネルギー不足の際には活用すべき栄養素です。パンに塗るマーガリン、サラダのドレッシング、時には揚げ物などもうまく取り入れていくことで食事量を変えずにエネルギー量をアップさせることができます。ただし、脂質過多は消化不良を起こす可能性があるため、胃腸の不快感がないかなどを確認した上で活用していくことが大切です。

 また、痩せている状態の改善にはアイスクリームやプリンといった菓子類も活用することがあります。栄養管理でアイスクリームというとギャップを感じるかもしれませんが、その選手が「食事はこれ以上増やせないけどアイスなら食べられる」というのであれば、エネルギー補給の手段として活用すべきです(菓子類の活用は3食の食事をきちんと食べているのが大前提になります)。

 食事の量を変えずにエネルギーアップを図る手段はこのほかにもたくさんあります。一人ひとりの生活や嗜好に合わせて補給方法を提案していくことで、無理なく栄養状態を改善することができ、身体の成長はもちろんパフォーマンスの向上にもつながっていくと考えます。

食の好みに対してどうするか?

 中学生くらいだと多少の好き嫌いがある選手が多いです(食わず嫌いから少し苦手くらいまで幅はありますが…)。

ここから先は

1,884字

¥ 150

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?