3.湯の丸高原(長野県東御市)に整備された滞在施設──陸上競技、水泳、トレーニングを高所環境で(月刊トレーニング・ジャーナル2021年1月号 特集/高所および低酸素トレーニングの活用)


岡田真平・公益財団法人身体教育医学研究所
小宮山勇司・東御市役所文化スポーツ振興課

長野県東御市に高所トレーニング施設が整備された。できるまでの経緯と、どのような利用方法が考えられるかについてお聞きした。



特集記事目次
https://note.com/asano_masashi/n/n2048f9d2ce35

整備までの道のり

 当施設は、標高約1750mに位置しており、行政上は「湯の丸高原スポーツ交流施設」、ネーミングライツにより「GMOアスリーツパーク湯の丸」となっています(写真1)。スキー場として活用されている場所に整備されました。2017年に陸上競技トラック(写真2)がオープンし、その後2019年に長水路プール(写真3)ができました。付帯施設として合宿可能な湯の丸高原荘(写真4)と民間による食堂が整備されました。これらにより、長期滞在が可能なオールインワンの高所トレーニング施設となっています。


写真1 GMOアスリーツパーク湯の丸(湯の丸高原スポーツ交流施設)


写真2 陸上競技トラック


写真3 長水路プール



写真4 合宿施設(湯の丸高原荘)とニッスイ湯の丸アスリート食堂

 東御(とうみ)市の湯の丸高原だけでなく、長野県小諸市の高峰高原とも尾根でつながっており、その自然環境を利用して道を走ってトレーニングが行われてきた場所だったのです。小諸市では陸上の誘致に力を入れており、東御市のほうでは専門家と日本水泳連盟とのご縁もあってプールを誘致しようとしていました。これら陸上と水泳に加え、さらに隣には上田市があり、ここにはラグビー合宿などで有名な菅平高原があります。

 6〜7年前から整備に向けた準備を始めていました。紆余曲折を経て、東御市に高所トレーニングで人を呼べるような施設をつくろうということで、高所トレーニングの専門家からプールをつくるのであれば陸上トラックもあったほうがよいとの助言もいただきました。また、どういうものがあればトップレベルの選手たちに使ってもらえるかについて、構想段階からコーチングの専門家からも助言をいただきました。このように計画段階からさまざまな意見をいただくなかで整備することができました。2017年11月にトラックのこけら落としに合わせ、当地で第20回高所トレーニング国際シンポジウムが開かれました。翌年の春から、実業団チームを中心として継続的に活用いただいています。陸上は5月〜11月あたりまで、年間5,000人ほどご活用いただいています。

 水泳プールに関しては、東御市へのふるさと納税や企業や個人からの寄付金の助けを借りながら開設することができました。水泳は冬が強化期間となるようで、日本代表の合宿や代表選手が所属するチームなどでも活用いただいています。オリンピックだけでなく、パラリンピック選手、さらにマスターズの選手にもご利用いただいています。これ以外には、水泳と陸上ができるという特徴を活かしてトライアスロンの方々もいらしています。

利用期間はさまざま

 利用期間はチームによりさまざまで、大会から逆算して3週間ほどの長期滞在を行う実業団もあれば、そこまで滞在期間が長くない大学チームもあります。2泊3日の利用もあります。宿泊が集中する時期があるのですが、宿泊さえ押さえることができれば、走るところはトラック以外にもロード、クロスカントリーのコース(写真5)がありますので、練習できます。


写真5 屋外の走路も整備

 1750m程度の標高ですので、海外の高所トレーニングの土地と比較するとマイルドな刺激になるようです。低酸素刺激に対する個人差もありますので、海外の合宿地より追い込めるとおっしゃってどんどん練習を積み重ねる方もいますし、逆にダメージが蓄積される方もいるようです。アクセスもよいので、このような環境をどのように活用すれば結果につながるかを試行錯誤で模索していく場、高所環境を繰り返し経験して深く学べる教育の場になると思います。

標高差を活用

 住環境と隣接して、トレーニング施設(写真6)もありますので、ランニングや水泳の練習の合間にトレーニングを組み込みやすいと思います。


写真6 トレーニング設備

 湯の丸高原には標高1750mのランニングエリアがあり、高峰高原はもう少し高い標高1900〜2000m、さらに車で30分くらい先に下っていくと小諸市に標高約1000mのトラックがあります。さらに30分ほどで佐久市の本格的な陸上競技場があります。このほか、菅平高原が1300〜1500mほどです。車で45分圏内でリビングハイ、トレーニングローも可能で、標高差を含めて練習内容に変化をつけることができます(図1)。当地(湯の丸高原)を宿泊いただく際の基地とし、ここからさまざまなところへ車で移動して練習し、また帰ってくるという流れでお使いいただくこともあるようです。周辺エリアのトータルマネジメントが可能なスポーツコミッションも立ち上がっています。宿泊のほか、トレーニングのための場所を押さえていく体制ができています。


図1 湯の丸高原の地理的な概要

 1つのエリアの中にトレーニングと食事、住環境がコンパクトにまとまっていることが特徴で、私たちのイメージとしては大学のキャンパスです。個々に本格的な練習ができ、食事の内容もしっかりしています(女子栄養大学の監修で、管理栄養士も常駐)。「快適に過ごせました」「トレーニングに集中できました」といった声もいただいております。オリパラ代表選手の活用も多く海外で練習しているトップ選手からは「こういうのがあったら」という提案もいただいています。

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