第24回高所トレーニング国際シンポジウム2023を開催して


第24回 高所トレーニング国際シンポジウム 2023 in Tomi, Nagano 開催にあたって、大会長:半田 秀一(身体教育医学研究所) にお聞きしました。


講師の選定と依頼

──前号(https://note.com/asano_masashi/n/n458d82ed6f4f)に引き続き、半田秀一さん(身体教育医学研究所)に、改めてお聞きします。大会長として、第24回高所トレーニング国際シンポジウム2023の運営、お疲れ様でした。きっと大変だったと思います。

半田:ありがとうございます。

──シンポジストや講師の選定や依頼について、まずRandall Wilberさんをお呼びすることが決まったのでしょうか。

半田:今回のシンポジウムで最初に決めたのが、Randall Wilberさんにお越しいただくことでした。アメリカ陸上チームの高所トレーニングの実際について、世界基準のお話を聞きたいと思っていたのです。アメリカからお越しいただくということで、到着の日まで心配でしたが、無事にお越しいただけて本当によかったです。

──今回はパネルディスカッションも用意されていて、水泳に関しては市役所にお勤めの方のご尽力があったと聞きます。

半田:はい。水間源さん(東御市水泳協会)です。かつて水泳選手であり、平井コーチの指導を受けていたこともあり、岩崎恭子さんはじめパネリストとしてご参加いただけるように声をかけていただいたのです。これだけのメンバーが揃うということはなかなかないと思います。

──陸上トレーニングのパネルディスカッションの企画にあたっては、どのような経緯がありましたか。

半田:陸上中長距離の横田真人コーチが、TWOLAPSのチームを含め、湯の丸の高所トレーニング施設を長期間にわたってご利用いただいています。実際に湯の丸のよいところや、もっとこうしたらよいのではないかというところを実体験をもとにお聞きしたいと思い、お越しいただきました。また、木村友香選手が横田コーチの指導を受けられているということで、選手目線でのお話も聞きたくお願いしました。

 さらに陸上トレーニングということで、夏だけでなく冬にも林間コースを用いてトレーニングをされているパラノルディックスキーの新田佳浩選手と長濵一年コーチにお越しいただきました。

──そのような形でシンポジウムの企画を組み立てていくのですね。総合討論では、高所トレーニングの安心・安全について、広い範囲の話題が取り上げられました。

半田:湯の丸高原では、陸上や水泳のトレーニング施設、宿舎、食堂など、ハード面が概ね完成した状況です。これからソフト面をさらに充実させていこうということで、研究者・医師・指導者・トレーナー・管理栄養士が一堂に会し「安心・安全」の支援体制を考える機会にしたいと思いました。

 日本水泳連盟の医事委員長の元島清香先生には水泳での帯同の際にどのようなことをされているのかをお聞きしました。そうして呼びかけたところ、地元の病院の先生方にも参加いただき、支援体制の充実に向けてディスカッションを行うことができました。

──今回のシンポジウムでは大会長講演もありました。一般市民の方も、湯の丸高原という環境を健康づくりに活用していただきたいというメッセージを感じました。

半田:まさにそこです。実際に、湯の丸高原でウォーキングすることで健康になれることをお伝えしたかったのです。

 東御市民の方々にご協力いただいた研究成果を発表しました。広く一般の方にお伝えしたいと思い、できるだけわかりやすく発表したつもりです。低地で行うよりも短期間で、筋力や持久力の増強効果がありますので、健康づくりの場としても有効に活用いただきたいと思っています。

 今回、研究用として送迎バスも用意できたのですが、今後は交通の便を含めて支援体制を整えていかなければと思っています。

──今は湯の丸高原へは、基本的には自家用車で上がってくることになりますか。

半田:そうですね。今は定期便などがありませんので、「足」をなんとかしてほしいという声はあります。

──動脈血酸素飽和度(SpO2)と心拍数を測定する経験も、この大会長講演の中でありました。

半田:測定器を40台用意して、実際に測定のご体験をいただきました。ぜひ、機会がありましたら、高所でのトレーニングもご体験いただければと思います。


写真1 Randall Wilber氏による講演

 

講演を聞いて

──Randall Willberさんの講演はいかがでしたか。

半田:運動生理学者の視点から、高所トレーニングの運動効果や、身体に及ぼすメカニズムの面をお話しいただきました。アメリカ陸上チームが実際に行っている内容については、なかなかほかには聞く機会がありませんので、貴重な機会になりました。いわゆる高所トレーニング、Living High, Training Low、Living Low, Training Highなどを含め、いかに高所環境をうまく使っていくかというところでもヒントになるお話がありました。これから高所トレーニングを取り入れたいとお考えの方には、ぜひご視聴いただきたいと思います。

──スイスやイタリア、米国などの高所トレーニング施設が次々に紹介されたのが印象的でした。選択肢の中に日本の施設も含まれると思いました。

半田:そうですね。国内高所トレーニング施設として、岐阜県の飛騨御岳高原、山形県の蔵王坊平、そして、長野県の菅平高原と東御市のGMOアスリーツパーク湯の丸などがあります。湯の丸の施設をオープンするにあたって、先輩施設様よりご指導いただきました。今回のシンポジウムにもご参加いただいて、これからさらに連携していこうという話もありました。

──連携というのは、ソフト面をお互いに高めていこう、というところでしょうか。

半田:飛騨御嶽高原高地トレーニングエリアの施設は、ナショナルトレーニングセンター高地トレーニング強化拠点にも指定されていて、「医・科学サポートパッケージ」として、血液検査や尿検査なども実施されしっかりとサポートされています。そういったサポート体制についてもご指導いただきながら、湯の丸でも同じ項目で測定できるように近づけているところです。

 私も驚いたのですが、高所環境では空気が乾燥しているのと併せて、運動しているために脱水になりやすいというのです。尿比重をチェックすることで、脱水の状態も確認できるのです。その結果をもとに、選手に水分補給を促すなど、フィードバックすることができます。

──高原で涼しいので、水分補給を忘れがちなのかもしれないと思いました。

半田:そうですね。山の上は涼しいので水分を摂らないこともあるのですが、多くの選手が脱水の状態であることも分かりました。また、血液検査で栄養状態も確認できますので、水分摂取や食事のアドバイスも含めて支援体制を整えていきたいと思います。

シンポジウムを受けて

──シンポジウムで印象に残っている言葉などありますか。

半田:萩野公介さんが語ってくれたコメントで、湯の丸について、ここでは、水泳選手だけでなく、陸上の選手やトライアスロン選手などがいて、いろいろなアスリートと空間を共有することで元気がもらえたという話がありました。あらためて、水泳と陸上トレーニング選手が有機的につながっているのだと感じました。

──「叫びたくなる」という元選手の方もいらっしゃいましたね。

半田:そうですね。オリンピックで金メダルを獲得するには、そこまで追い込まれることもあるのだと感じました。実際に大きな声を出したり、カラオケができるスペースなど、実現可能な要望でもありましたので、これから整備していくうえでよいご意見をいただいたと思いました。

──講演の中で、平井コーチによる、負荷の強弱をどのようにつけていくかという点で興味深い発言がありました。

半田:平井先生から水泳トレーニングの詳細な組み立て方をご紹介いただきました。この負荷の強弱を考慮したトレーニングメニューがあって結果に結びついているのだと思いました。そこまで教えていただけるのかとびっくりでもありました!

──トライアスロンの村上晃史コーチの講演は、乳酸測定などを含め実際にどのようなことをしているかという、スポーツ現場らしい話でした。

半田:そうですね。トライアスロン選手は乳酸測定をこまめに行ってトレーニングメニューを組み立てているということがわかりました。写真もふんだんに使っていただいて、湯の丸高原をうまく活用していただいているのだということがわかりました。

──横田コーチの話はいかがでしたか。

半田:横田コーチは、新谷仁美選手のお話も交えて話していただきました。ランニングの最中に胸郭が押しつぶされるようになるので、ストレッチングなどコンディショニングが必要だとおっしゃっていました。私もアスレティックトレーナーであるので参考になるありがたいお話でした。胸が狭まる感じがどのような感じなのか、選手にも聞いてみたいと思いました。

──スポーツ科学の領域では、岡﨑和伸先生(大阪公立大学)から、高所トレーニングについての論文から要素を1つずつご説明いただきました。

半田:岡﨑先生はご自身も陸上長距離種目のご経験者であり、多くの高所トレーニングの研究を調べ、ご自分でもご研究されています。

 盛りだくさんの高所トレーニング研究の最新情報についてご発表いただきました。Randell Wilberさんの講演と両方を聞くと、高所トレーニングの理解が高まるのではないかと思いました。私も、再度、録画視聴を行い学びたいと思っています。


写真2 水泳についてのセッション。選手とコーチの立場から活発な発言があった

自治体からのサポート

──東御市長さんが来場して挨拶なさっていました。自治体としての支援の姿勢を示していただきました。

半田:花岡市長あってのGMOアスリーツパーク湯の丸だと思います。2日間にわたって来場いただき、市長の意気込みに我々が一所懸命ついていっているという側面もあります。やりがいのある高所での仕事環境を与えていただき、ありがたいと思っています。

──オンデマンド配信をされているということですね。

半田:録画視聴の申込みを延長して受け付けています。申込みは2023年12月24日まで可能です。視聴は2023年中、つまり12月31日まで可能です。

 高所トレーニングを始めてみたい、あるいはすでに高所トレーニングを行っていて、さらに有効に活用するにはとお考えの方に、うってつけの情報を得ることができますので、ぜひご視聴いただければと思います。

──運営お疲れ様でした。

半田:ありがとうございました。

(浅野将志)


写真3 陸上競技トラックが整備されているGMOアスリーツパーク湯の丸

 

〔メモ〕
第24回高所トレーニング国際シンポジウム



写真4 室温が一定に保たれたプール

■資料

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