スポーツパフォーマンス分析をどう学ぶか ――大学の授業科目として|橘 肇(月刊トレーニング・ジャーナル2021年5月号、連載 スポーツパフォーマンス分析への招待 第17回)


橘 肇
橘図書教材、スポーツパフォーマンス分析アドバイザー

監修/中川昭
日本コーチング学会会長

(ご所属、肩書などは連載当時のものです)

この連載では、体育・スポーツ系大学の教育におけるスポーツパフォーマンス分析を主要なテーマの1つとしてきた。今回は、4月から筆者自身が非常勤講師を務めることになった、ある大学の授業について取り上げる。

連載目次ページ
https://note.com/asano_masashi/n/n8eb8a36798c8

スポーツ情報分析を教える立場に

 今月号の発売予定日は4月10日、ほとんどの学校では新学期がスタートしていることと思います。新型コロナウイルス感染症の状況がどうなっているのか、この原稿を執筆している時点ではまだ予断を許しません。しかし教育関係に携わる者の1人として、学生の皆さんが少しでもよい環境で学習や研究に励むことができるよう願ってやみません。

 さて、この新年度は私にも大きな変化がありました。横浜市青葉区にある桐蔭横浜大学スポーツ健康政策学部(写真1)で、非常勤講師としてスポーツ情報分析に関する科目の授業を担当することになったのです。昨年のこの連載の中で、大学でのスポーツパフォーマンス分析に関する教育について取材をしたことがありました。そのときは、まさか私自身がそれを教える立場になるとは思いもしませんでした。


写真1 桐蔭横浜大学(大学中央棟)

「スポーツパフォーマンス分析入門」の前書きにおいて、「わが国においても今後、体育・スポーツ系の学士課程や修士課程のカリキュラムの中にスポーツパフォーマンス分析に関する授業を重要科目の1つとして位置づけることが急務であると考えられるが、その際の教科書としても本書は最適であろう。」 1) と書かれています。図らずも最初にそのチャンスをいただいたのが、翻訳者の1人である私自身というのは何かの縁なのかもしれません。話をいただいたときは迷いましたが、学生たちと共に自分の学びを深めるチャンスだと考え、お引き受けしました。

 そこで今回は、今年度、私がどのように授業を進めていきたいと考えているのか、それを記してみることにします。大学のスポーツ教育の中にパフォーマンス分析をどう位置づけるのか、そのケーススタディの1つとして、読者の皆さんにも考えていただくきっかけになれば幸いです。なお今回は、授業科目を総称する場合は大学の専攻名に合わせて「スポーツ情報分析」としています。

スポーツテクノロジー学科スポーツ情報分析専攻

 桐蔭横浜大学スポーツ健康政策学部の3つの学科の1つ、スポーツテクノロジー学科は「幅広い分野のテクノロジーを学び、選手を成功に導くコーチングスキルを修得」「専門的な2つのコースで、からだ・スポーツを支える科学のプロを目指す」「科学的なトレーニングやコンディショニング方法を学ぶ」の3点に学びのポイントを置き、指導者やトレーナーなど、様々な分野で体育やスポーツを支える人材の育成を目指しています 2)。学科にはスポーツ科学コースとトレーナーコースの2つがあり、スポーツ科学コースにはさらに「スポーツコーチング専攻」と「スポーツ情報分析専攻」が設けられています。

 私が今年度担当するのは、スポーツ情報分析専攻に設けられている4つの科目です(表1)。これらの科目が設けられたのは2018年度で、それ以降、前任の先生が中心となって授業内容と授業環境の整備が進められてきました。


表1 2021年度の桐蔭横浜大学のスポーツ情報分析関係の授業科目(前年度のシラバスを参考に筆者作成)

 この学科の大きな特徴が、学生1人1人に対して、しっかりと情報分析の実習ができる環境が整えられていることです。その拠点となるのが、スポーツ情報分析のための実習室、「TOIN Sports Analytics Lab」(略称T-SAL)(写真2、3)です。ここには70台を超える学生用コンピュータが用意され、その全てにスポーツ情報分析のための代表的なソフトウェアである「Dartfish」「SPLYZA Teams」「Hudl Sportscode」が装備されています。また情報分析活動に欠かせないビデオカメラや、映像をコンピュータに取り込むためのキャプチャデバイス、スタジアムや屋外などで無線ネットワークを構築する際に必要なWi-Fiルータなどのハードウェアも用意されています。これまで私が仕事で関わってきたどの大学よりも、環境と設備の面では恵まれていると言っても間違いないでしょう。学生たちには、こうした機材の操作法をしっかりと身につけて競技スポーツや体育教育の現場で活用してもらいたいですし、それがこの専攻の大きな特徴になるはずです。


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