1.アスレティックトレーナーの活動の場 ──アスリートに限らず幅広い年代が対象に(月刊トレーニング・ジャーナル2023年11月号、特集/スポーツ選手を支えるさまざまな専門職)


石郷岡 旭・一般社団法人3C代表理事、JSPO-AT

https://issya-3c.net/about/

アスリートや一般の方、さまざまな年代に対してアスレティックトレーナーとして活動する石郷岡氏に、今後の働き方の見通しも含めてお聞きした。

特集目次
https://note.com/asano_masashi/n/n6509ce30c67a

アスレティックトレーナーとして

 現在、私はアスレティックトレーナー(AT)という立場で、ジュニアアスリート、子どもから一般の方、スポーツ経験のない方、障がいのある方、幼児といった幅広い年代、幅広い層の方に対してトレーニングやストレッチの指導をしたり、身体をよりよい状態にするようなコンディショニングに関わる指導を中心にしています。そのほか、専門学校の講師や、スポーツ指導者講習会での講師をしたりもしています。

 中学、高校、大学のチームそれぞれの年代のスポーツ選手にも関わっています。愛知県の私立中学校である大成中学校柔道部、埼玉県の公立高校である伊奈学園ラグビー部、成蹊大学のアメリカンフットボールのチームサポートに携わっています。トレーニング指導ということで依頼されているのですが、結局やることはケガのリハビリや予防もありますので、ATとしての仕事全般ということになります。そこでの業務は、主にケガの予防のための身体づくりやケガを防ぐためのコンディショニング指導といったものになります。ジュニアの場合には、まずは基礎的な身体づくりとして必要な自分の身体を使った自重トレーニングが多く、その他、学校にある限られた物品を使ってできるようなトレーニングとなります。アスリートとして最低限必要となる基礎的なトレーニング指導というとイメージしやすいかもしれません。

 業務としてはウォーミングアップの指導やテーピングも巻きますし、応急処置もします。AT教本に書かれていることを全てやると言っても過言ではありません。

 子ども、一般の方、障がいのある方への指導については、活動場所としては整骨院の中にトレーニングスペースを設けているところがあり、そのスペースで業務委託という形で指導しています。来室される方は、ケガをして整骨院で治療し、ケガがよくなったという人たちが多く、これからケガを予防するため、あるいはその不具合の根本的な解決をするためにトレーニングをしているという形になります。

 トレーニングスペースは、4畳ほどの限られた空間なので、充実したトレーニング機材があるわけではありません。ただ、先述した自重トレーニングを中心に、姿勢改善や、肩こりをよくしたいとか、膝の痛みを減らしたいという方向けに、「こうした動きが必要ですよね」「ストレッチを教えますよ」という感じで指導しています。さまざまな方がいらっしゃいます。80代のおばあちゃんもいらして、「今は歩けるけれど、これから先も車椅子生活はしたくないので筋力トレーニングをしたい」という方もいれば、「病院に行ってケガはもう治ったのでそろそろ運動していいですよ、と言われても、どの程度の運動から始めればいいかがわからない」という方もいらっしゃいます。それ以外にも「マラソン大会でこの記録を出したい」という方とか、「1週間後の大会までに足首の状態をよくしたい」という方もいます。

 子どもたちもメジャースポーツ以外に、アーティスティックスイミング、新体操、トランポリンといった様々なジャンルの子が来ます。このような競技の、とくにジュニアの現場には、なかなかATのようなサポートができる人材がおらず、トレーニング指導を受ける機会がないので、こうした指導を求めて来てくれるといった側面があります。私自身、これらの競技経験はありませんが、ATの勉強をしていた学生時代に色々な競技の指導ができていたので、その経験が生かせているのかなと思います。

 このようなジュニアアスリートへのサポート、そしてその保護者との会話から、いわゆるマイナースポーツにおけるATのニーズも非常に高いということがわかりました。ラグビーやアメフトなどのコリジョンスポーツでは、事故やケガの危険性が高いため、ジュニアの現場にも救急対応ができる専門家の配置の必要があることから多くのATが介入されている状況ですが、そうではないマイナースポーツでは、まだまだATというのは身近ではありません。AT自体は増えてきているので、そういったスポーツ現場にどんどん活動を広げていくと、ATの認知度の向上も含めてよりよいスポーツ環境につながるのではないかと思います。


写真 さまざまな年齢層へのサポートを行っている

仕事になったきっかけ

 大成中学校柔道部は、私が大学院生のときに国際武道大学の男子柔道部のトレーナーをしていて、リハビリを担当していたのがキャプテンだったのですが、その選手の母校の監督さんから、誰かトレーニング指導ができる人はいないかと探しているというので、たまたま紹介してもらいました。今年で11年目になります。月に1回、2〜3日現地に行っています。

 伊奈学園のラグビー部と成蹊大学のアメフト部は、トレーナーさんのつながりで、「トレーナーを探しているけどどうだ?」と紹介してもらいました。ちょうど、そのとき勤務していた日本スポーツ協会を退職したタイミングで、私の退職を知ったいろいろな方たちから「仕事ある? こんな仕事はどう?」と声をかけていただき、先述した整骨院内での業務のほか、東京都のトップアスリート発掘・育成事業、スポーツ指導者講習会、東京オリ・パラなどにも携わることができ、本当に多くの方々に支えていただきました。

 講師を務める専門学校では、「どこでどういう紹介があるかわからないのがトレーナーの世界であること、セミナーや外部活動などに積極的に顔を出してたくさんのトレーナーとつながることも大切であること」などを、これら自身の経験をもとに話しています。

今に至るまでの道のり

 もともと高校時代はサッカーをしていたのですが、恥骨結合炎というケガを患い、高校3年時に、まともに競技ができなかったことがきっかけで、トレーナーの道を選びました。進学先に迷っているとき、後の恩師である山本利春先生(国際武道大学)のブログで、トレーナーを学校現場に配置することでジュニアのケガを防げるという、白木仁先生(筑波大学)との対談記事を見て、まさに自分のようにケガで苦しむジュニアアスリートをなくしたいという思いも重なり、国際武道大学に入学したのです。進学した同大学院の修論でも、高校の部活動にトレーナーが今どのくらい介入しているのか、という研究をしました。そのような背景もあり、トップダウンでより多くのATを学校に介入・配置するような仕組みをつくりたいという思いを持ち、日本スポーツ協会に入職しました。

 同協会では、総合型地域スポーツクラブの育成支援をするクラブ育成課という部署に所属していました。全国の総合型地域スポーツクラブに対する情報提供や研修会等の開催、スポーツ庁や日本スポーツ振興センターと協力し調査・研究などの仕事をしていました。

 総合型クラブの育成・支援の業務を行う傍ら、学校へのATの介入・配置や熱中症・応急処置・コンディショニングとして必要な氷の確保を目的とした全学校への大型の製氷機の設置などについても具体的なアイディアを出しましたが、残念ながら実現には至りませんでした。

 ATとしての活動も並行して実施しており、総合型クラブの現場を見学したり取材しに行ったりする中で、そのような環境にもスポーツ医科学的な視点を持つ人材がなかなかいない現状を知りました。そのような中で、全国の総合型クラブの関係者と出会い、その多くの方々が熱いバイタリティを持っており、クラブの活動を通じて、行政や関係機関など地域全体を動かしていることを知り、自身の活動を通して仕組みを変えることもできるのではないかと、これまでのトップダウンの考え方からボトムアップの考え方に魅力を感じ、退職に至りました。

 その後は、法人を立ち上げ、行政のイベントに顔を出したり、地域の保護者対象にセミナーを開いたりしながら、自身の活動を知ってもらうよう取り組んでおります。そのような活動を通じて、行政のほか、様々な関係団体とも関わりを持ちながら、結果的に学校だけではなく、地域のスポーツ環境を安全・安心なものに整えられればと考えています。

メモの習慣化

 とくにジュニアの現場では、金銭的な確保が難しいことから、私のように、各チームに毎日いるわけではなくて、月に1回とか週に1回とか試合のときだけなど、介入する頻度が少ない実態がほとんどだと思います。そのため、とくにジュニア年代の選手たちに対して口を酸っぱくして言っているのが、自己管理をしっかりとしましょうということです。アスリートであるためには、まず自分の身体をしっかりと理解して、よりよい状態にコントロールするための管理能力が必要です。トレーニング指導や知識のインストールをしたとしても、その次の日、私がいないときに何もやっていない、何も覚えていないなら意味がありませんので。

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