イグアナ10

会社の外は、予想してた以上に寒かった。吐く息がドライアイスの煙のようになっていた。しかし、今の冷気も私には感じない。激しく動悸を覚える。

足速に駅へと向かった。何故か額から汗が流れた。車内は、まだ帰宅する人が少ないらしく、座席は疎らに空いていて、私は、降り口に近い席に座る。

会社を辞めたことは後悔も微塵もない。ただあんなふうに自分が他の社員から見られてたのかと思うと胸が痛い。自分でも、感ずいていないわけではなかった。ただ真面目に仕事をするだけではいけないのか。みんながするように自分に対して媚びることが人間関係にとって必要なのか。
車窓から見える景色が歪んで見えた。
いけない!気持ちを切り替えよう。

私は席を立ち、ホームに降り立った。
日に日に日が短くなって、空は藍色にちらほら星が見えた。

真一郎は、仕事見つかったかしら、ふと思う。明日は、ハローワークに、離職票を出して失業保険の手続きをしよう。

駅の近くの激安スーパーで買い物を沢山した。それを両手に持ち、会社に置いていた。私物まで持って歩くのは、困難を極めた。買い物袋がアスファルトスレスレになっていた。

その時、ヒョイっと両手が軽くなった。
「よくこんな大荷物持って歩けるね。」
後ろから買い物袋を取り上げるスーツ姿の真一郎が、笑っていた。

今はまだ修行中の身ですが、いつの日か本にしたいという夢を持っています。まだまだ未熟な文章ですがサポートして頂けたら嬉しいです。