最後の恋

「優子、あなたにあって欲しい人がいるねん。あんた、丁度会社休みやろ?」

母は、ハニカムように私の顔色を伺う。これはもしや、

「また、恋人でも出来たんか?」
と、ため息混じりで答える。さらに上目遣いに私を見るはは。
「恋人やなくて、婚約者や!」
「なに?それどういうこと?それも世間は、非常事態が発生してるのに。
」そう、私の母は、いつも突拍子のない行動に出る。

母には持病があり入退院を繰り返していた。私が小学生の時父は、癌に侵され手の施しようがない状態で、癌と分かった時には時すでに遅し、あっという間にこの世を去った。
後に遺された母娘2人の生活。そんな中でも、母は、いつも前を向いていきていた。
私が、中学生の頃、母に恋人が出来た。とても優しい人だった。しかし、突然、彼は他に好きな人が出来たと言い、母の前から去った。
母は毎日泣いて泣いて泣いた。
しかし、涙はそのうち枯れて出なくなり、いつもの前向きな母が戻って来る。
母はそのうち色んな所へ出かけるようになった。いつどうなるな分からんから、会いたい人に会いに行く。

私も高校生になり、そんな母の遺伝子を受け継いだのか。自分の好きな物に夢中になった。私の好きな物は、爬虫類だった。友達に話すと、「え〜気持ち悪いっ」て言われ、気がついたら周りに誰もいなくなっていた。しかし、母の前ではいつも明るく振る舞う。だった2人の家族だから、心配はかけたくなかった。

放課後図書館で、爬虫類の図鑑を眺めるのが唯一の楽しみだった。

「田中さんも爬虫類好きなん?」
驚いて顔を見上げる。背の高い男子。多分同じクラス。
「そうだけど。あなた誰?」とても失礼な態度にもかかわらず、彼は、「同じクラスの吉田だよ。」
屈託の無い笑顔で答える。
その後ひとしきり爬虫類の話で盛り上がった。

その後の高校生活は楽しかった。だった一人でも趣味の合うう友達が出来ただけで、見るもの全ては彩られる。
高校卒業以来、彼とは疎遠だ。

「それでその婚約者とやら、いつ来るん?」つっけんどんに尋ねる。母は、モジモジしながら、
「今から家出るって言うてたから、もうすぐここに着くわ。」
なんでいつもこうなのだろう。勝手に決めて事後報告する。
「ちょっと待って!こんなに散らかり放題の所に来るんかいな。」
「だって、婚約者やで。この先ずっと一緒に暮らすんやから、普段の生活見てもろた方がええやん。」

ピンポーン

玄関のチャイムが鳴る。

「優子、出て!」
重い腰を上げて玄関のドアを開ける。「こんにちはぁ、いつも母がお世話になっております」
アレ?どこかで会ったことある顔。
「田中さん、元気だった?俺だよ!吉田!わすれたの?」
頭の中の引き出しを整理する。
「あの爬虫類の吉田くん?」
「田中さん変わんないなぁ。」

散らかり放題のリビングにかれをとおした。
「うわっ、家に負けないくらい散らかってる。」クスッと笑いながら母の横に座る。母は少しハニカミながら、
「私の婚約者で良き理解者の吉田卓さんやで。今、障害児施設で働いてる。」
「今日は、夜勤明けで、そのまま来たんだ。手土産のひとつも持って来れば良かったかなぁ。」

「そんなことより母とどこで知り合ったの?」
「俺が働く施設に週1度お母さん来てくれるんだよ。お母さん絵が上手いから、子供たちの人気者だよ。」
「それでなんで?母と結婚?歳も離れてるし、吉田くん私と同じ歳じゃん。」
「お母さんの前向きな姿に光を感じたんだ。ビリビリってその瞬間。この人と人生を共にしたいって思った。」
隣を見ると、母は、恋する乙女に戻ったようだった。
「本当に母でいいの?
もしかすると、明日の朝、後悔するかもしれないよ!」

「後悔するもんか!俺が見つけた宝物。」
母は、下を向いたままだった。が、
「さぁて朝ごはん作るか。」
顔を上げた頬に涙が流れていた。

この先この2人はどうなるか分からない。
しかし、私は、この恋が本当に母の最後の恋になることを願う。

今はまだ修行中の身ですが、いつの日か本にしたいという夢を持っています。まだまだ未熟な文章ですがサポートして頂けたら嬉しいです。