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ただのアニヲタはなぜ将棋にハマり、推しをつくったのか①

将棋との出会い

幼い頃からアニメが大好きで、小学生の頃にはデ・ジ・キャラットを好み、中学生になると実の兄にシスタープリンセス沼に突き落とされ、思春期を鍵作品と共に過ごした。そしてここ数年は黒子のバスケに魂を捧げてきた。恥の多い生涯を送ってきたが、特に後悔はない。
そんなアラサー女の私が今魂を捧げているものとは何か?

将棋である。

2年前まで将棋なんて羽生善治と、当時将棋ブームを巻き起こした藤井聡太の名前、あとは数年前に不正がどうとかでニュースになってたなぁ、とかそんな認識しかなかった。ジャンプで連載していた「ものの歩」という漫画と、「3月のライオン」のアニメは見ていたが、それだけである。さして将棋そのものに興味はなかった。
それがなぜこんなことになってしまったのか。それを語る前に、まずは「りゅうおうのおしごと!」という作品について語る必要がある。

2018年1月、私はBlu-rayレコーダーという神アイテムを手に入れた。さっそくいそいそと新作アニメの録画予約を入れていく。番組名だけを見て、特に内容は確認しない。あとで観てから、つまらなければ消していけばいいのだ。
その中にあった「りゅうおうのおしごと!」というタイトル。
「ファンタジーかな?最近流行のなろう系かもな」
そして1話を観た私は、その認識が的外れだったことを知る。

……ん?んん?なんだこれ……え、将棋??

りゅうおう、即ち竜王。そういえばそんな将棋のタイトルがあると小耳に挟んだことがある。
そんな当初の予想との大きなギャップを勝手に感じながら観てみたら、これがおもしろかった。将棋の内容なんてわからないが、出てくるキャラクターがみんな魅力的だった。そしてこのアニメを見て最初に将棋に興味を持った要素が、女流棋士制度である。

私はその時まで、プロ棋士と女流棋士は全く別の制度であるということを知らず、女流棋士=女性のプロ棋士だと思っていた。先述した「ものの歩」にも女性奨励会員は登場するが、女流棋士の話は1ミリも出てこない。先行する将棋漫画もほぼ同様であることを知るのは、後の話だ。

そんな新たな知識を得ながら毎週楽しみに視聴していた私が衝撃を受け、号泣したのが第7話。
主人公達のお姉さんポジションで女流棋士を目指す桂香さんが、研修会で降級の危機に立たされる。将棋への情熱も失いかけていた彼女が、あるものを見つけたことで情熱を取り戻していく、そんな話だ。
それまで大人で優しい面だけを見せてきた彼女が、そのイメージからかけ離れた大人の小狡さや厳しさを見せる姿が印象的だった。そしてラストシーンを観終える頃には涙と鼻水で顔がぐちゃぐちゃになっていた。

将棋って、こんなに熱くてせつないものなんだ。

その熱を保ったまま、アニメは最終回を迎える。その少し前に原作小説の既刊を買い揃え、少しずつ読み進めていた私は、アニメの何倍もの密度と熱を持ったこの作品に、どんどん夢中になっていった。
そんな折、原作者である白鳥士郎先生のツイッターから、彼が「叡王戦」なるタイトル戦の観戦記を書いたという情報を得た。
りゅうおうのおしごと!にもレギュラーの観戦記者が登場するが、実際の観戦記など当然、読んだことはない。好奇心と共に、私はリンク先に飛んでみた。

『save your dream』第1譜 金井恒太 六段―高見泰地六段:第3期叡王戦 決勝七番勝負 第1局 観戦記

この観戦記は後に、将棋ペンクラブ大賞の観戦記部門で大賞となるのだが、それは置いておいて。
普通の観戦記ではあり得ない長さの記事内に登場する棋士の名前、そのほとんどを私は知らない。けれどまるで小説のキャラクターのように生き生きと、呼吸やその人柄が感じ取れる文章を、気付けば夢中になって読んでいた。
そしてこの時に私の「推しの種」が植えつけられていたのだが、それはまた後ほど語ることにする。

話は変わるが、私は元ネタや題材のある作品にハマると、それを調べたくなることが多い。
薄桜鬼にハマって新撰組を調べ、艦これにハマって太平洋戦争や旧帝国海軍の艦艇を調べた。ヲタクには珍しいことじゃない。
私の場合、最初は「好きな作品をより深く知るため、楽しむため」という作品主体の目的がある。
だから原作を読みながら、少しずつ将棋や棋士について調べ始めていた。りゅうおうのキャラクターのモデルになっている棋士を調べ、駒の動かし方を覚えた。居飛車と振り飛車の違いを覚えながら、「豊島?強いよね」の元ネタを覚えた。詰将棋カラオケなる謎企画を知り、窪田七段(りゅうおうの久留野というキャラのモデルになっている)のキャラクターに衝撃を受けた。
並べるとなかなかにカオスだが、どれも覚えるたびにりゅうおうを楽しむための知識となり、そして将棋界のことをもっと知りたくなった。
そんな私の背中を力一杯押してくれたのが、白鳥先生の観戦記だったのだ。

将棋観戦してみた

叡王戦の観戦記だったので、まずは叡王戦を観てみた。……が、正直、楽しいかと言われると、微妙だった。考える時間は長いし、動きも少ない。解説を聞いても、何が起こっているのかわからない。
この時の私は赤ちゃんの首がようやく据わったようなもので、そんな奴にオリンピック選手のすごさなんてわかるわけがない。
棋は対話なりというが、言語はお互いが理解できて初めて機能するのである。
ヨコフドリ?新種の鳥さんかな?
焼き鳥でも食っててください。
そんな感じなので、それ以降は最後の方だけ観るようになった。四局目になると判官贔屓というやつで、よくわからないながらも連敗していた金井六段を応援していたが、結果は高見六段(当時)のストレート勝ちでのタイトル獲得となった。
将棋はわからずとも、そこにたしかに存在する両対局者の想いに、気付けば画面の前で拍手をしていた。

そんな私に転機が訪れたのは6月。
AbemaTVトーナメントの開催だ。
チェスのフィッシャールールというものを採用しており、持ち時間5分、一手指すごとに5秒が加算される。
ふぅん、なんかわからんけどこれなら長考もないし楽しめるかな?
そんな軽い気持ちで見始めた初回。

なにこれ超楽しい!!

考えても数分が限度。バンバン手が進むし、終盤はプロが慌てた手つきで指しては、壊れそうな勢いで時計を叩き合う。しかも盤面は駒がぐちゃぐちゃになっている。その光景だけでも楽しかった。
そして私自身その頃には少しだけ勉強して、詰将棋も3手詰めが少し解けるようになっていたから、叡王戦の時よりは解説が理解できるようになっていた。
赤ちゃんがハイハイできるようになったレベルだが、それだけでもうんと違って見えた。
こんなに目まぐるしい展開で、わずかな時間の中でも、一手一手にきちんと意味がある。プロの凄さに震えた。
それから大会終了までの数ヶ月、毎週末夢中になって観戦しては、翌朝が眠くてたまらなくなった。

それからしばらくは、たまにのぞく程度で、きちんと将棋観戦はしていない。が、詰将棋はちょこちょこやっていたし、ぴよ将棋でちょっと遊んだりしていた。
冬、今度は女流AbemaTVトーナメントを観る日々を経て、2019年の春。

私の人生は、「推し」の存在に大きな影響を受けることになる。

つづく。

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