『ネジ式ザゼツキー』はいいぞ
この記事は「謎クラの好きな小説 Advent Calendar 2022」として書かれたものです。
あらすじ
シリーズ探偵である御手洗潔が登場する作品ですが、他作品とのつながりは、ほぼ無い作品なので、今作から初めて読んでも大丈夫だと思います。
謎クラに薦める要素
作中作
このところの謎解きトレンドの一つとして「メタ構造」があります。有名なところだとタンブルウィードエキスパート。最近だと公演内公演内公演や朝焼けにばらついてなんてのもありましたね。
『ネジ式ザゼツキー』にも、作中に『タンジール蜜柑共和国への帰還』という童話がまるまる挿入されています。この童話、なんと文庫で100ページ分という力作となっています。そんなに長い作中作に隠された衝撃の秘密。どうでしょう、気になってきませんか?
あんたがた
あんたがたという高難度全体戦の謎解きジャンルがあります。
今回、紹介のために再読してみて、この作品はそれに通じる愉悦があるな、と感じました。凡人の目には意味不明な怪文書としか見えないものが、膨大な知識と知恵を備えた天才のひらめきによって解体されていく快感を味わいたい方には、この本は特にオススメです。
失われた記憶
記憶を失う謎解き公演、多いと思いませんか?
私だったり、あるいは第三者だったりが失われた記憶を取り戻していく、これは永遠のテーマです。どうやって取り戻していくのか、そして、取り戻した記憶はどのようなものなのか、知りたいですか?知りたいですよね!
タイトル回収
なんやけったいなタイトル付いてますよね。ネジ式?ザゼツキー?
これはちゃんと回収されるのでご安心ください。そして、その意味が分かったところで読者に突き付けられるのは信じられない事実です。そこからの怒涛の展開にページをめくる手は止まらなくなるでしょう。
御手洗潔はいいぞ
この作品を読んで面白かったなら、御手洗潔が活躍する他の作品にも手を伸ばすことをオススメします。『ネジ式ザゼツキー』とはまた違った彼の魅力に触れることができるでしょう。
記念すべきデビュー作。某作品の影響で、トリックだけは知っているという方も、是非ちゃんと読んでみてください。トリックだけがミステリーの醍醐味ではないことをしっかりと教えてくれる名作です。
今作と同じく「失われた記憶」を扱った作品であり、御手洗潔最初の事件でもある作品。めちゃくちゃ傑作です。
一度読んだら忘れられない、ヤバすぎるトリックが記憶に残る快作。後の多くの作品にも影響を与えたと言われています。
短編でサクッと読みたい方にはこちらを。「数字錠」なんて名前の作品、謎クラだったら、もうそりゃ題名だけで読みたくなりますよね?
吉敷竹史もいいぞ
島田荘司のもう一つのシリーズ看板、吉敷シリーズもおすすめです。いわゆる火曜サスペンスにありがちな時刻表をこねくり回すようなトラベルミステリー…ではありません。
驚愕の事件が待ち受けています。御手洗とはまた違った人間臭さを持つ探偵役である吉敷竹史も魅力的です。
吉敷竹史シリーズの1作目。のちの作品へのつながりもあり、まずはここから読み始めることをオススメします。
激ヤバな「奇想」が展開される傑作であり、吉敷竹史シリーズの縦糸である「通子」絡みでもあるため、是非とも読んでおくべき作品。トラベルミステリーへの認識が変わる一冊です。
「浅草で浮浪者風の老人が、消費税12円を請求されたことに腹を立て、店の主婦をナイフで刺殺した。」そこから?という始まり方ですが、どんどんと広がっていく社会背景とめくるめく奇想に彩られたミステリーが相まって素晴らしい作品となっています。
ここから先はネタバレを含みます!!
具体的な内容に触れた書評になります。読了後にお読みください。
タンジール蜜柑共和国への帰還
物語のキーとなるこの童話。縦書きの小説の中に突然横書きで "You mean the Tangerine Orange Republic is…"という会話が差し込まれた時には、驚きました。何度再読しても、ここに差し掛かるとワクワクします。内容的にも視覚的にも、ここが1つのターニングポイントになっているのです。
謎の怪文書に『Lucy in the Sky with Diamonds'』という鍵を1つ組み込むだけで、パーっと世界が開けていく気持ちよさ。さらに、B層・S層・T層という三層構造という説明によって、快刀乱麻を断つように夢の物語がエゴンの記憶へと解体されていく場面は、この作品の最高潮に盛り上がるタイミングと言っていいでしょう。
ネジ式ザゼツキー
しかし、その盛り上がりの後に賢者タイムに浸っているような余裕はありません。『タンジール蜜柑共和国への帰還』を読み解き、手に入れた「エゴン・マーカットの真実の記憶」は、いやはや、夢物語よりも現実離れしていました。それでも、それは現実なのです。ここからが本格ミステリーの真骨頂です。どんなにあり得ないと思えることでも、論理的に考えて正しいならば、それが真実となる、その理屈を読者に納得させてしまうだけの筆力と構成の妙を持つ島田荘司の凄まじさをとくと味わえたことでしょう。
視点
付記になりますが、この作品は章ごとに視点人物が変わっていることにも意味があります。最初の章はなんと御手洗潔本人の視点で、エゴンが置かれている立場の難しさを読者はともに追体験しつつ、いら立っていたり心中で考えを巡らせている御手洗潔を本人視点で味わうことができます。
エゴン本人視点の『タンジール蜜柑共和国への帰還』を経て、ネジ事件に舞台が移ってからは、ハインリッヒの視点で話が進みます。小見出しとして振られていたアルファベットも「A」に戻ります。ここで物語は従来のワトソン・ホームズ型探偵小説の構造に回帰し、利口な凡人たるハインリッヒに寄り添いながら、読者は御手洗潔の活躍を楽しんでいくのです。
そしてもう一つ、大切な視点人物がいます。そう、後半でのゴウレムパートです。これはエゴン視点なのか?と錯誤させますが最後まで読むと犯人視点であったことがわかり、物語を締めくくります。また、トリックの内容への直接的な示唆ともなっていました。
これらを巧みに書き分け、各パートで読者をひきつけて離さない文章。それこそが、島田荘司の大きな魅力の一つであると、私は考えるのです。
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