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母が起こした適当な奇跡

私は料理が上手である。
理由はシンプル。

美味しいものを
出来るだけ安く
自分好みの味付けで
たくさん食べたいから

自分で作るしかないのだ。
食いしん坊ゆえの料理好きである。

加えて、もう一点。

母が料理下手だったことも理由だ。

決して、美味しくないわけじゃないんだけど
いつも何かが足りないのだ。
味のキレもイマイチで、火の通り具合が中途半端。

例えば、ほうれん草のバター炒め

いつも塩を入れてからずっと炒めているので、もはや煮浸しのような状態で出てくる。そう、あれは煮浸し。

例えば、クラムチャウダー

あさりの旨味は出てるけど、なんか磯臭い感じもする…
ねぇ、ちゃんと砂抜きした?


こんな具合にくわえて
めちゃくちゃ効率が悪い。

基本的に、ひとつのことしかできない。
同時進行という文字も概念も、彼女の辞書にはないのだ。

そんなんだから、夜ご飯の支度に3時間くらいかかってしまう。
したがって、品数もそんなに作れない。

私が家事代行の仕事で
3時間で10品以上作るのを見て
目をまんまるくしていた。

ほんと手早いわよね〜
私にはむり
ほんとむり

これが母の口癖である。


そんな母が、人生で1度きり。
料理で奇跡を起こしたことがある。

あれは、数年前の冬。

母は、仕事の帰り道
近所にあるイトーヨーカドーに寄る。

閉店間際で安くなった食材やお惣菜を買うためだ。
30%引き〜50%引きのものしか彼女の目には入らない。

ある時、パックに入った生牡蠣が目に入った。
50%引きのシールが貼ってある。よし。

そこにあった生牡蠣すべてを自分のカゴにいれ
意気揚々と帰宅してきた。

ただいま〜!
牡蠣が50%引きだったから
全部買ってきちゃった!!

ここで母の残念なところをもうひとつ紹介しよう。

安いものを買っただけで満足してしまうのだ。

つまり、どう調理して食べるか
すっぽりと抜け落ちてしまうのだ。

いつもそう。
いい大人なんだからそろそろ学んで欲しい。

あ〜…どうしよう!
今日中に食べなくちゃいけないのに
何にも浮かばない!!!!

やれやれ。

どうせバター焼き(ほぼバター蒸し)か
お味噌汁に入るかのどっちかだな…

牡蠣の状態にも寄るけれど
母からヘルプがきたら
小麦粉をはたいてムニエルか
最悪、ホワイトソース作ってグラタンか

あんまりいい状態じゃなかったら
醤油とオイスターソースで乾煎りして
ニンニクと鷹の爪いれてオイル漬けだな

と、妄想しながら、私は先にお風呂に入る。
実家ではいつも、お風呂→ご飯→寝るというルーティンなのだ。


お風呂にのんびり入ってから
リビングに戻ると
父も弟も興奮している。

これはうまい!
いや〜…久々のヒットだね!
あんなに簡単なのに美味しい!

リビングがざわついている。

缶ビールは何本か空いてるし
白ワインがもう半分減っている。

これは、何か美味しいものが投下された証拠だ。

食卓にはパンケーキのような、オムレツのようなおかずが並んでいる。
たまごの中に牡蠣を混ぜ込んで焼いたらしい。

牡蠣オムレツ?

私もどれどれと、1口食べてみる。

うわぁ、なんだこれ。
もう、これ、完成形だ。

韓国料理の牡蠣のジャンに近いけれど
それとはまったくの別物。
あの水っぽさが全然ない。なのにジューシー。

かといって、チヂミでもない。
野菜が入っていないのはもちろん
あの、カリッ、モチッ感はないのだ。
not 片栗粉 only 小麦粉って感じ。

あるのは、あくまでふわふわ感。

そして、鼻に抜けるバターと牡蠣の香り。
名前をつけるとしたら、牡蠣のパンケーキのような。

これは白ワインが合うけれど
なんでだろう、ビールを飲んでも口が生臭くならない。

いや〜
たまご溶いて
小麦粉ちょっと混ぜて
牡蠣も入れてまぜてタネにして
フライパンにいれて
両面バターで焼いたら
いい感じになったわ

と、ドヤ顔の母。

やっぱり作ったものをおいしいおいしいって食べてくれるのって、嬉しいよね。


でもね

でもね

食卓にはこれしかなかった。

…ねぇ、晩ご飯ってこれだけ?
……あっ
冷凍の春巻き、揚げるつもりだったんだ!

そう言いながら、彼女は台所に戻っていく。

やれやれ
このままだと、夜ご飯のスタートが21時を超えてしまう。
さすがに遅すぎる。

お腹もすいてるし、手伝うとするか

私は牡蠣を全部たいらげ
エプロンをかぶって台所へと入っていった。


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