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黄斑円孔闘病記 -1-

これは昨年私が「黄斑円孔」という病気になり手術をした時の手記になります。なぜ手記を書いたかというと、この症状は手術をして治るのではなく、手術をした後の患者のふるまいが手術の成否を大きく決めるからです。
それで、手術後どうなるのか情報を探したところ、いくつか大変参考になる手記はあったのですが、じゃあ私も書いてみたらこの病で手術をする人にとって多少の助けになるかも知れん。と思い、記しました。脚色した部分は結構あります。完結したら有料マガジンになります。それまでは無料公開です。

初期の見え方と視力検査

昨年のちょうど今頃は目の奥に穴があいて大騒動だった。目に穴があくという表現にピンとこないかも知れない。私もまったく実感がなかった。ある日、なんとなく左目だけでものを見たら

(あれ?なんか見え方が変)

となったんである。試しに人の顔を見ると、人間に見えない。どういうことかと言うと、宇宙から来た別の生き物のように一部が欠け、ぐにゃりと歪んで見える。VXで作られたホラー映像になるのだ。どんなに美人でも、かっこいい男性でも恐ろしい異形の生き物になる。

こりゃすごいや…

私はことあるごとに右目を覆って左目でいろんなものを見てみた。いやぁ、面白い面白い。しかし、ふと思ったのである。

待てよ。…面白がってる場合か?

人の顔だけじゃない。字もなんか見えにくい。これはもしかして眼医者に行った方がいいのでは。そう判断した私は地元の眼科医を受信した。じゃねえ、受診した。

眼医者に行くとまずどんな場合でも視力検査をする。さて、私はこの視力検査というものに懐疑的だ。そもそもあれって、待っている間に記憶力のいい人は覚えられるんじゃないのか?仮に記憶しないとしても、例えば「C」の場合「右」と答えるわけだが、だいたいその次に指されるのは同じ「右」じゃないことが多い。そうなると「上、下、左」の三択だ。それがたまたま勘で答えて当たったとししょう。すると検査官はもうひとつ上の視力のところを指す。いやいや、見えてないって。さっきのは勘だって!ええい、じゃあ、これも勘で!「上!」「はい、よく見えてますね~」って、勘なのにまた当たっちまったじゃねえか。ということで、本当は1.0くらいしか見えてないのに1.5の視力になっちゃう。ってね、なっちゃうでしょ?どうなの?

でもまあ、これは私の頭の中のシミュレーションで、実際には正直に「わかりません」と言う。小心者だからだ。だけど、この「分かりません」というのもなんか嫌なんである。見える、と、見えない、の境目というのはハッキリパッキリしているもんではない。ぼやぼや~っとしている。正直に言えば「分かるような、分からないような」というものだ。「C」でも右のような、だけど上のような…という状態でたまたま「右!」と言って、それが正解なら「はい、視力1.2ですね」と言われてしまう。え、待って待って、それってたまたま当たっただけなんよ。見えてるわけちゃうんやで、ってなるんですよ。

だから私は視力検査を信用していない。とはいえ、もしかすると視力検査というのはそういうもので、だいたいでいいのかも知れない。1.2と1.5というのは私の中で大きく違うと思っているけど眼医者さんにとっては別にどうでもいいのかも知れない。この現代、MRIとかCTとか、細胞のなんちゃらとか。遺伝子だのゲノムだの。昨今の猛烈な医療の発展において、この視力検査においては、前時代的な、のほほんとした、牧歌的検査方法なのではないか。

ところが、このアルプスの、羊飼い的牧歌的視力検査で、私の左目がほとんど見えていないことが分かってしまった。そう、本当に「C」のどこが開いているが分からないんである。どういうことかと言うと見えてないのではないんだけど「C」の字がずれて見えるので、見ようとすればするほど見えない。一番上の文字すらも見えないありさまだった。

これはただごとじゃないぞ。診察室に入ると先生は開口一番、

「いやぁ、久しぶりですねえ。お店、どう?まだやってんの?」

先生は私が店をやっていた時のお客さんであった。狭い地方都市あるあるである。

目の中の様子(破れる前)

「あっ、先生。どうも。店はもう閉めました。10年前に」
「そうかぁ、いい店だったよなぁ」
「どうも、ありがとうございます」
「またやんないの?店」
「いやぁ、先生。もうそんな馬力ないですよ」
「そっかぁ、残念」

さて、先生は検査の結果を教えてくれた。視力検査のほかに目の中を写真に撮る検査もしていて、それによるとどうやら目の奥にある視力をつかさどる部分が膨れていて、それで見えにくいらしい。しかし先生は写真を見て首をかしげている。

「これねえ、ここに線がみえてるんだけど、これ、内側から引っ張っているかも知れんのよね、これちょっと怪しい感じよ」

左の写真中央の白い点が黄斑
右写真がそれを横から輪切り状態で見た写真。

はあ、と私。目の仕組みを理解していないので、あんまり言っている意味が分からない。膨らんでいるのと引っ張っているの、どう違うと言うのか。内側ってなんなんだ?

先生が言うにはこういうことであった。膨らんでいるのは「黄斑」という場所。この黄斑に黒目で見えた目の情報が集中して見えているわけで、歪んで見えたりしているのは、黄斑部分で映像がちゃんと処理されないからだ。右の目の写真を見ると、ちゃんと平常で、ちっとも膨らんでおらず、むしろへこんでいる。

こちらは右目の状態。黄斑部分はへこんでいる。
こういう医療写真を見るとワクワクしてしまう。

さて、内側からの力なら膨らんでいる、となる。中からぎゅぎゅうっと押しているイメージ。ニキビとか吹き出物とかがそうだ。だがこれが表から引っ張っるとなったらどうなるのだろう。何かが黄斑部分を捕まえて引っ張っている。そう、先生は写真を解析し、その可能性を示唆してくれた。これはデカい病院でもう少し詳しく診てもらったほうがいいですねぇ。先生はすぐに紹介状を書いてくれた。

「じゃ、お大事に。また店やってよ」

店やってよじゃねえよ。まったく。ああ、でもこりゃちょっと面倒なことになっちゃったんじゃないの?月末には旅行が入っているのに大丈夫?しかも車の運転もしなくちゃなんないのよ。憂鬱である。とは言え、別になんでもないかも知れない。うん、そうだよ。なんでもないかも知れないんだしな。


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