乃木坂46という花

 あるいはゆっくりと咲く花たちについて。

 人間を、とりわけ女性を、アイドルを花に喩えることは常です。乃木坂46の楽曲にもアイドルとしての成長や苦悩を花に喩えて歌うものはたくさんあって、中でも「ゆっくりと咲く花」が最もわかりやすいと思います。2期生曲で、彼女たちの不遇とも言われるアイドルとしての歩みを歌ったものです。

■花に喩えた歌
・「ゆっくりと咲く花」
 2期生としての生き方。

 風にも吹かれたし 雨にも打たれた
 日陰にだって いつしか花は咲くんだ
 ゆっくりゆっくりと 蕾が膨らみ 大きな花びらが開くその日まで
 ずっと見守りながら 待っててくれた人よ ありがとう

・「三番目の風」
 入ったばかりの3期生へのエール

ああ ひっそりと日陰に咲く花の名を知らない
ああ でもいつかは 誰かの目にも留まって欲しい
環境に恵まれなくてその不運恨むより チャンスを待とう

・「アンダー」
 アンダーメンバーへ価値観の押し付け

アンダー 影の中まだ咲いてない花がある
客席の誰かが気づく
アンダー 今やっと叶った夢の花びらが
美しいのはポジションじゃない

・「ハルジオンが咲く頃」
 深川麻衣さん

君も季節がすぎれば いなくなるとわかってる
限りある命 永遠の花はないさ
次に会えるのはまた新たな夢を見て
今よりキレイな花 咲かせるだろう

・「私の色」
 高山一実さん

私の花 いつ咲くのだろう その花びら 想像できない
未来は偶然が重なり合って 風に吹かれてる
そう願いは いつ咲くのだろう どんな形してるのかな?
いろんな花を眺めて来たけど 今まで見たことない希望持ちたい

・「忘れないといいいな」
 北野日奈子さん

私の席は後ろで みんなの方から見えにくかった
それでも諦めないで 自分らしく微笑んでた
そんな花が咲き続けたこと それは奇跡なんだ

 こうして見るとやはり卒業曲とか、集団としての在り方を問うような曲が多いような気がします。気のせいかも。


■花の名前をもつメンバー(一部抜粋)
・生田絵梨花 伊藤万理華 井上小百合 桜井玲香 中田花奈
・伊藤かりん 寺田蘭世
・伊藤理々杏 岩本蓮加 梅澤美波 大園桃子 佐藤楓
・遠藤さくら 筒井あやめ 柴田柚菜
・川﨑桜

 なんとなくメンバー一覧とかを眺めてみた時に花のイメージを抱くことも多かったので並べてみましたが、思ったほどではなかったかもしれない。百合、桜、桃、楓などサイリウムの色に繋がるからそういう印象を持ちやすいのかもしれません。花のイメージが少ない植物まで広げると松とか麻とか入ってくるのでかなり増えますね。花にゆかりのある名前が5期生に一人しかいないというのは少し寂しいです。

■花のいのちはみじかくて
 花で思い出すのが、8th YEAR BIRTHDAY LIVE1日目オープニング映像です。2分程度の映像で、もちろん円盤にも収録されていますが、のぎ動画だとモニター映像ver.として字幕付きで観られます。監督はMVや個人PVでもおなじみの林希さん、ナレーションは林原めぐみさん。

 遠藤さくらさんが花束を持って歩いている
 ナレーションで流れるのは林芙美子の短詩

風も吹くなり 雲も光るなり
生きてゐる幸福は
波間の鴎のごとく
漂渺とたゞよひ
生きてゐる幸福は
あなたも知ってゐる
私もよく知ってゐる
花のいのちはみじかくて
苦しきことのみ多かれど
風も吹くなり 雲も光るなり

 そして映像内で遠藤さくらさんが言う。
「限られた時間という美しさがある。
 だから私たちはこの一瞬に命を燃やす」

 正直、既存の詩に言葉を付け足したようで、多少の冒涜感というか、まさに蛇足という感も否めないのですが、ただのオープニング映像なのでそこまで求めてもしょうがないか。理想を言えば詩と映像だけでメッセージを伝えきってほしかったところです。とにかくバースデーライブの一番最初にこれを宣言したということ。overture、そして「夜明けまで強がらなくてもいい」で開幕します。

 花の命は短くて苦しいことが多いというのは、楽曲でネガティブな言葉とセットで歌われていることからもよく分かります。華やかなものの裏にはどうしてもつきまとうもの。「風も吹くなり 雲も光るなり」という言葉は具体的にどういう現象をイメージして書かれているのでしょう。字面だけでいえば「雷光を伴う嵐」と読めなくもないのですが、「多かれど」を受けているので少なくとも前向きなイメージではあると思います。爽やかな風、雲間から漏れる日差し、みたいな。苦しい中にも生きている幸せは確かにあるということですね。

 あぁ、というかこれ「三番目の風」「4番目の光」なのかも。

 アイドル人生苦しいのが前提とはっきり言っているのは少し残念な気持ちもありますが、コロナ滑り込みで行われた8th YEAR BIRTHDAY LIVEは、この宣言を裏切らないクオリティだったと思います。関係性重視の卒業生曲メドレーもよかったですし、終盤のゴスペルバージョンのパフォーマンスは乃木坂の最終回感がありました。

 なんかたまに「選抜という言葉は…」みたいなげんなりする映像演出がありますけど、そういうのじゃなくて、こういう乃木坂らしい映像をもっと作ってほしいですね。
 影響受けやすい&もともと本の虫なので、林芙美子の『放浪記』でも読んでみようかなと思わされるくらいのインパクトはありました。それでは。

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