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【膝枕スピンオフ小説】膝枕と3人の男 ※修正済み

予約している歯医者に遅れそうで急いでたらパニック起こしてそのままぶっ倒れたという経験のある朝倉です、ちなみに今年の6月の出来事

クラブハウスで流行っている、大人の朗読企画・脚本家の今井雅子さん原案の「膝枕」なるものがありまして

朝倉の推し声優さん、石野竜三さんが演じると聞いてどれどれと拝聴したら、凄まじい内容に衝撃を受ける!

推し声優さんが器用に演ずる様はとても耳心地、そして個人的に性癖(バカタレ)

というわけで友達の勧めもあり、脚本をしてみることにしたのはこの朝倉という名を借りた迷い人

完全二次創作
素敵な本家様「膝枕」 

まともに本を読まない素人の文章なので語彙力も乏しく、ミスも多いだろうし、脚本というか普通に小説ですが、暖かい目で見てくれたら幸いです

しかし何故…本家より長くなった

そして何よりあれです…えっと……

色んな意味で読むのに注意
お食事中の方と、精神的に疲れてる方にはオススメできない内容になってしまった

今後ミスとか直したい点があったら勝手に編集します

【8月26日追記】タイトルがイマイチだったので変えました
これも充分イマイチですが、これもこれで理由があるタイトルなのです

膝枕スピンオフ
〜膝枕と3人の男〜

大きなカバンの口を少し開け、そこに手に取った商品のストッキングを入れようとしている男がいた
万引き犯なら少し泳がせてから証拠を掴んで捕まえりゃ良かったものの、店員の桜田健太郎は咄嗟に近づいて「何してます?」と聞いてしまった

「あぁ、すいません、違います、この子に聞いてただけで……」

ストッキングを手にした男と一緒に健太郎がカバンの方へ視線を落とすと、男のカバンの中には若い女の"膝枕"が入ってあった

時々動画広告で目にする膝枕とかいう商品、新たな趣向のセラピーロボ?AI枕?だとかなんとか聞いてたが、遂に連れて歩く連中が現れるとは思わなかった

セラピーパートナーを連れて歩くのは最近になってよく見かけるようになった、だがそれは携帯式AIキャラクターとか、ぬいぐるみタイプのパートナーとかばかりで、まさかカバンにかさばる膝単体とは予想外

万引きじゃなかったから良かったものの、ややこしいことをするな
それは枕じゃないのか、家で楽しむもんじゃないのか

「なぁ、あのお客さん、万引きっぽいから声かけてみたんだが…膝を抱えた男だった」

「何を言っているのかわからない」

「俺も分からない」

暇そうにしていた仲のいい同僚・磯崎裕二を捕まえて、先程の変態客の話をした

「あの膝枕が恋人ねぇ、いやー新時代だねぇ、でもどうせなら俺は顔があった方がいいな」

そう笑ってる裕二は人間の恋人はいないが、日々の癒しはラブドールに託しているラブドール愛好家だ、厳選した美女のドールを家に置いてある
一応人前で連れて歩かないとはいえ裕二もあの客と同類だと思う

2人はさっきの客がニヨニヨとした顔で移動するのを眺めた
愛情のカバンに包まれた膝枕の肌の色がチラリと見えた、映画で見るバラバラ死体を抱えたサイコパスを連想させる

「裕二見ろ、ありゃ下着の方も行くよ」

「自分だけの下半身にTバックでも履かすんかな」

「あなたたち、こんな所で猥談してはいけません」

後ろから店長が呆れた顔で言ってきたので、2人はすぐ仕事に戻った

桜田健太郎はショッピングモール内の百均で働いている、広い店内とあって珍しい客を見つけるのはユニークであり、時より厄介者にもなり……

平穏を好み、今の仕事に満足している健太郎はたまにハズレの客に苦労される、今思えばあの膝枕を抱えた客はパートナー連れと装った本物の万引き犯な気もしなくもないが…とりあえずそうでないことを願う

でも様々な人間模様を見られるのがこの仕事の面白いところ……客にしろ仕事仲間にしろ
初日は磯崎裕二という男のインパクトにやられたもんだ

「はぁー疲れた」

帰宅した健太郎がマンションの玄関前で鍵を探してると「おかえりなさい」と横から声が聞こえた

隣の部屋に住む小学生、吉沢天彦(たかひこ)だ
何やら片手に大きな紙袋を持ってドアを開けてきた

「よっ、ただいま」

「健太郎さん、そっちに遊びに行っていい?」

小4にしてはどこか落ち着きがあり、健太郎のことを丁寧にさん付けで呼んでいる

健太郎と天彦は歳の離れた友人で、暇な時は天彦が健太郎の家に遊びに来る

部屋に入ると、天彦が持っている紙袋の中から厚みのあるノートと古いテレビリモコンとガラケーをどっさりと出してきた

「…これ、また分解の餌食になる物たちか」

「要らなくなった物品を集めてるんだ」

「で、このノートは?」

「アルバム、自由研究で分解図鑑を出すの」

「分解図鑑?」

天彦は歳の割に落ち着いているが、好奇心に満ち溢れていて頭が良い、多数の実験キットを集めて実験するのはもちろん、暇な時に工場見学を申し込んで出かけたり、自作ゲームを作ったり、去年の自由研究では自作PCを作り上げた
そして何より、機械の分解が好きだという

使わなくなったゲーム機やカメラ、玩具を分解して並べ、写真にしてアルバムに保存している

「今まで保存したコレクションを出すの」

「題材としては良いかもしれないけど、前から作ってあるものを出すのはせっかくの自由研究で手抜きじゃないか?」

今まで天彦が提出した自由研究の中でも、今回のは事前から作っていたものを出すという形

「いいの、研究なんて僕は夏休み関係なくいっつもしてる事だし、それに溜めた研究は世に発表して進展するもんだから」

「なるほど」

「解説用のデータもちゃんと作るからさ」

自分が天彦くらいの頃はこんなに勉強熱心だったろうか、健太郎は自分には持ってない要素を持ってる天彦が面白くて仕方がない

過去にすでに分解済みの物でさえ、機種ごとに分けて分解の記録をしたり、ただ単に遊びの一環として何回も分解することもある

普段はクールな彼も、分解となると嬉しそうな顔で機械の中身を暴いてゆくのだ

自由研究の話が一旦終わると、2人はそれぞれスマホをいじりつつ他愛もない会話を続けた
何か天彦の分解材料になるいらないものはないっけなーと健太郎が考えていると

「ねぇ、コレ見て」

天彦がくすりと笑いながらスマホの画面を見せてきた
そこに映っていたのは見たことのない動画サイトで、裸のサムネイルだらけ

「…おっ、なんだ、天彦もついにこういうのが好きな年頃か」

年相応にふざけ倒さず、好きなクラスメイトの話とかを全くしない天彦にエロのイメージなんて無かったら少し驚いたが、まぁ流石のこいつも人間として自然な感情を持つか…

と思っていたら、天彦はとある動画をタップして見せた
細身の男の人が1枚1枚服を脱いでゆく動画だ

「あのね、この人、僕の親戚のお兄さん」

「…は?マジでか」

「こうやって稼いでるんだって」

アダルトサイトを見せていつもより少しはしゃいでるようにも見えるが、それにしたって歳の割に合わないクールな対応に、健太郎は正直少々気味の悪さを感じた
分解の時のような輝いた目はしていない
そんな気味の悪さが天彦の面白いところでもあるから健太郎は友達になってるのだが…

「なんでお前んとこの親戚のにーさんがコレやってることを知ってるんだ?」

「前にお兄さんのとこに泊まりに行った時に、深夜にトイレで起きたら、廊下通った時に動画撮ってる声が聞こえちゃって」

「ほう」

「こっそり覗いてみたら"してるとこ見せます"って言ってた」

「…状況お察しします」

「あとで覗き見したのバレてさ、怒られちゃったよ……ただ家族に言わない代わりに自由研究の材料集めの手伝いとアイス奢ってもらう事にしたけど」

「つえーなオイ」

さてこの有望少年が、能力をどういった使い方をして成長するのか見ものである…悪用しない事を願いつつ

「けど俺に教えていいのか?」

「いいの、健太郎さんはこっちとは直接関係ないし、面白いし」

顔を見た事ない人間の性癖を面白さ優先で教えられても困りものである

「……ていうか、ここの配信者、みーんな顔出さないんだな」

見せてもらった配信サイトには、天彦の親戚とやらも含めてマスクをしていたりカメラ外に顔を出していたりと、あくまでカラダだけに焦点が当たるようにしている

「プライベートってのもあるけど、基本はカラダ目当てってことで顔はいらないってリスナーがいるからね、ここの人はみんなこうして体を売ってるってこと」

カラダ……

膝枕が売れたのも、手軽にカラダから感じられる幸福感を得る為なんだな、と納得はした

……しかしデートまで行ったら上級者なんだよな


「ふーん体だけねぇ、俺は顔も無いと満足できないんだけどなぁ」

翌日の職場での休憩室
かく言う健太郎も、関係者じゃないことを言い事に天彦の親戚の話を裕二に持ち出した
朝礼が始まる前とあって2人とも余裕をこいている

「そう言ったら、お前が好きなラブドールはどうなんのよ」

「え、だってラブドールは顔はあるじゃん」

「でも本来擬似セックスするものじゃないかラブドールって」

その一言で裕二がなんとも険しい顔をした

「ほほう性欲満たす括りで言ってきたか…勘違いしないでくれよ?俺は人に近い形をしている美しいものだから好きなんだ、俺の場合はオナホにはしてない、俺にとってラブドールは愛でるものだ」

「芸術品として?」

「まぁ芸術、そうだな、その理論だろうけれども、俺としてはそのつもりでなく好きなんだが」

「…マネキンじゃダメな感じ?」

「細部まで、ナカまで拘ってないとダメだからな
あ、でもナカを使う機会は無いからクオリティが高けりゃ別に上半身だけでもいいけど、そっちの方が軽量化になるし」

意志のないものを好むこと全てを芸術の理論で括っていいのかが裕二の中では議論の余地があるらしいが、それはそれとして

つくづく、裕二はとんだ変態なんだなと健太郎は思った

ラブドールと重ならない、性的欲求を直接的に満たさない、そこが逆に変態なのだ

どういう基準で愛でるかは自由だが、こいつの股間の働きと性的感情はどうなってるのか、もし自分が天彦だったら裕二の脳みそ分解してるとこだわと健太郎は考えた

「顔の認識は必要だ、俺以外のラブドール愛好家も顔があるから好きなわけだ、顔がなけりゃタダのオナホ、顔があるからキスもできるし……まぁ何が好きかは個人の自由だけど」

「まっった朝から刺激の強い話をして…」

呆れ店長の到来で2人はこりゃ申し訳ないとへこへこ頭を下げた、店長も半笑いだった


新しいバイトが来る、と聞いて朝礼に現れたのは、ピンクのインナーカラーの髪が印象的な綺麗な女性だった

「織田真希です、皆さんよろしくお願いします」

実ににこやかな笑顔だ、従業員一同拍手で迎えたが、健太郎は何もしなかった
早朝は速やかに終わり、各自持ち場に移動した

「可愛い子が来たなー健太郎」

「……」

「健太郎?」

健太郎の顔が青ざめている
皆が持ち場に移動し始めているのに微動だにしない

「健太郎?汗すごいぞ?」

「桜田さん?」

気が付いた店長も駆けつけるが健太郎は反応が無い

「…なんで」

「え?」

「なんでいるんだよ…」

一点を見つめて口元を震わせ、服を掴んで何かに怯えてるようだった

さっきまで裕二といつも通りの健太郎として会話をしていた彼に、一体今の一瞬で何が起きたのか

「大丈夫か、やばいな…健太郎1回裏行こか」

「言うな!」

健太郎の「言うな」の意味が何なのか、裕二も店長も全く理解できなかったが
その健太郎の叫びに気付いた織田真希が、歩み寄ってきた

ばれた

認識された

健太郎の頭の中が随分と単純化してしまった

「久しぶりー」

真希はけらけらと笑いながら健太郎に話しかけた

その瞬間、健太郎は咄嗟に走り出してバックヤードに入っていった

「変わんねぇなぁ、ほんと弱ぇ」

呆然としている裕二と店長に反して、真希は嘲笑っていた


健太郎の脳裏に浮かんでくる
「キモイんだけど」と笑う声
汚されて返された体操着
群がってくすくす笑う女子たち
教師に注意されても反発する生意気な態度
あわよくばクラスを支配しようとする…あの女

"整った顔からこぼれる醜い笑み"

「ひぃっ、うっ、ううっ、うっ、あぁぁっ、あぁぁっ!」

休憩室に行くと、椅子に座って下を向き頭をかきむしって酷く怯えている健太郎がいた
いつもの健太郎ではない、完全にパニック状態だ

裕二も店長も動揺を隠しきれなくて、心配と共に恐怖すら感じた

ばたん、と控え室のドアを一旦閉めた瞬間、健太郎の叫びが1回止まった
その後は軽い過呼吸が続いたが、徐々に落ち着きを取り戻してきて、2人は近づいて様子を伺う
店員が健太郎に目線を合わせた

「……すいません、すいません…すいません…」
脱力した様子の健太郎がぼそぼそと喋り始める

「…どうしました?」

「すいません……すいません……」

店長の優しい声に安堵し、静かに涙を流すも、ただ小さな声で謝罪するばかり

「……バイトの…」

「え…?」

「あの女……」

織田真希のことか、と理解した2人
嫌な予感しかしない

「あの女、俺の元同級生で、昔、あの女に、いじめられて……」

うつむいて静かに震える、しばらく沈黙が続いた
彼女の面接を担当した店長は罪悪感を覚えた

「……そうか…いや、知らなかったとはいえ、申し訳ないことを…」

「いや、店長は悪くないです…すいません……」

「……お前がそこまでになるっつーことは、余程酷いことされたんだな」

裕二は健太郎の背中を撫で続けた

「よし、シフトを考え直すとしよう」

「すいません…そこまでしなくても…」

「いいのいいの、桜田さんの精神衛生上よくないでしょ、あと何かあったら教えてね」

店長の人の良さに救われる
そんな2人の会話の最中に、裕二はぼそりと
「……カミサマはあんな可愛い顔の代償に性格の悪さを入れたってわけか、なんてこった」と呟いた

健太郎が立ち去った時の真希の態度…社会人になっても反省の色が無いのが伺えた



「はぁぁ…最悪……癒しがほしい…」

部屋で大の字になって寝そべる健太郎
真希のあの笑顔を思い出す、傍から見たら整った顔、でも健太郎にとっては悪魔同然の顔
あの女が笑った顔が何より大嫌いだった

「お気の毒に……お疲れ様」

また健太郎の家に遊びに来ている天彦に、織田真希のことを話した

「僕、教養のない人間大っ嫌い、だから健太郎さんの味方だよ」

「ありがと…でもなんか…しんどっ……」

しばらく真希と顔合わせをするのかと思うと気分が悪い、蘇ったトラウマによる心の傷も治るのに時間がかかりそう
途端に健太郎は癒しが欲しくなった

「癒し…ゲーム、キャバクラ…いや、もっとリラックスできるもの…マッサージ…温泉……うーんそうじゃなくて……」

「セラピーパートナーはどう?」

「あー……でも、うーん…」

デイスプレイ型AIパートナー…は温もりがないし
ロボやセラピーぬいぐるみ…が好きなわけでもないし、小動物とかで解消されるものではなくもっとこう人間に近しいもの……

派手なコミュニケーションは必要とせず、でも人々が求めている人間的な触れ合いを必要とする、童心に帰えるような心地良さを得られる"程よいもの"

「……ニセモノでもいいから、優しい人に愛されたい……」

らしくない科白を吐いた

「膝枕は?」

「……あっ」

「AI膝枕ならちょうどいいんじゃない?今の健太郎さんには…」

膝枕なら、本物の人間と違って深いコミュニケーションを必要とはしないが、人間との関わりに得られる触れ合いと幸福感を程よく得られる
なるほど、膝枕はそういう時に使うのかと納得した

試しにスマホで販売サイトを覗いてみたら、入荷まで1ヶ月待ちという
……すぐ癒しが欲しいと言うのに1ヶ月も待っていられるか

「1ヶ月……えー…すぐ届かねぇな……」

「もし買ってみていらないと思ったら僕にちょーだい、中身調べてみたいから」

「いやだったらお前が買えよ」

「小学生は資金繰りが難しいの」

すぐ手に入らないのならいらないかと思っていたが、貯めていたポイントもあることだし、半ば天彦のワガママに付き合う形でつい購入ボタンをタップしてしまった

シフトが変わる前までの間は何度か真希と出会ってしまう、再会の時に嘲笑っていた彼女がそれ以上何かやらかさないかと願っていたが、翌日仕事へ向かうとその願いは一瞬で崩れた

『童貞クン♡』

と書かれた付箋が健太郎のロッカーに貼っていた

裕二が呆れ笑いをしながら「くそ程度の低いいじめだな」と呟いた

「わざわざこんなことする為に男子ロッカーに来たのか」

「…だから俺この女が嫌いなんだ…あのヤリマン…」

「うん、やり方から偏差値の低さを感じる」

「てか俺一応童貞じゃねーし」

「あ、そなの?」

「なんでお前も俺を勝手に童貞扱いしてんだよ…高校卒業してから彼女ができたことがあんだよ、しばらくしたらすぐ振られたけど」

真希が貼った付箋を破きながら話を続けた

「ヤッて分かったんだけど俺そもそもセックスそんな好きじゃなくてさ、数回はヤッたんだけど疲れるし当時の彼女が積極的になるほど冷めてきて、それで呆れられて…」

「案外聖人?なんだな」

「……というか、積極的な女子に恐怖を覚えるようになったと思うんだわ…俺…」

虚ろな目、変わってしまった健太郎
恨みを込めるように付箋を細かく破き終えると、ゴミ箱に「ホント気持ち悪い女…」と呟いて捨てた

全てが胸糞悪い、ゴミ箱に捨てられるのが付箋じゃなくてあの女ならいいのに
子どもじみた嫌がらせとはいえ、じわりと混み上がりまとわりつく泥のような不快感、あー馬鹿馬鹿しい、こんな頭悪い奴に弄ばれてるのかと思うと反吐が出る

付箋1枚貼られたのは、まだ可愛い方だった

シフトが変わる前、仕事中の健太郎に近寄って「なんでいつもそんなダサい髪型してんの?俳優の真似してる的な?似っ合わねー痛い痛い」と余計な悪口を言ってきたり

商品のネイルを「このまま貰っちゃおっかなー」とか言い出して手に取ったから、健太郎が思わず声をかけると「はぁ!?何あたしが勝手に万引きしてるみたいな言い方すんの!?なんでこの程度のジョーダンも通じないの?馬鹿なの!?てか今やってることパワハラだからね!!」と、周りにお客がいる中で大声で怒りだす始末

このままじゃダメだと察した店長が無理やりだが早急にシフトを変えた

でも今度は、シフトの時間じゃないのに女友達を連れて客として来るようになった
どうせ自分がバイトしてるところだからと、プライベートの格好のまま勝手に関係者専用スペースに友達連れて入ったり、店員をしている健太郎をこき使ったりした

「あれがウチの高校時代の馬鹿、たいして顔よくないのに女子に愛想振りまいて調子に乗っててちょーキモかった、下半身と頭が繋がってんの」と友達に健太郎のことを伝え始めた

ようやく帰った頃には、健太郎も店長も他の社員含め全員ぐったり

「……健太郎は女遊びはしない奴だって俺は知ってるよ、どうせお前のことだ、男女関係なく気さくに話してたらマキちゃんがお前を女好きだと勝手な解釈したんだろ?」

「そうだよ……むしろ下半身と頭が繋がってるのはあの女の方だった……」

「ほんっと黙ってたら美人なのに、喋れば高学年男子なんだから…女子だけど」

「あーーーーもう無理、限界、あんな低俗と一緒にいたら頭がおかしくなる」

「……なんか行動が、好きな子に振り向いてもらおうとちょっかい出す心理に若干近い?」

「ないないないないない!!!仮に俺の事が好きだったとしても全部ダメ、何も響かん、行動が人間としてありえないし存在自体が毒物と同等だし教養の無さが生理的に無理」

「……お前マキちゃんのこととなるとほんっと口が悪くなるよな、それだけ嫌いってことはわかってっけど」

俺には今他に味方がいる、と頭の中で理解していても
織田真希という女の存在は健太郎の日常をじわじわと苦しめてゆく

真希は健太郎ある所にとにかく突っかかって行く

健太郎の存在そのものを少しずつ否定する

時に健太郎は、少々荒いやり方でも真希を陥れたい衝動に駆られる、しかしそれは絶対できない

そんな事をしたってどうせ自分が訴えられるだけ

健太郎はこんな人間に言い返すのも馬鹿馬鹿しいと思って何も実行はしない
というか、実行する気力が出てこない

仕事を休む判断もできない、自分のいない間に居場所を荒らされるのも許せないし、好きな仕事場を奪われるのもプライドに駆ける

健太郎は、少しずつ正常な判断ができなくなってきていた
家にいると虚しいと感じる時間が増え、少しずつ自分の食事の量が減っていることにも気付かない

健太郎の目の下に隈ができた頃に、突然変化は起きた

「はぁ何で!?少しからかっただけじゃん!」

「からかうでは済ませられません
それに桜田さんだけに限りません、あなたの今までしてきた行いには目に余るものがあります」

朝から休憩室で店長と真希が何やら言い争ってる
急遽休んだ人の代わりに来ていた裕二はその声を聞いてしまい、恐る恐る盗み聞きをした

「あなたが過去に何をしたか…私は知っていました…が、あなたが今社会人である以上、少しはあなたの事を信じていました……けど、残念で仕方ありません
学校卒業してまでも桜田さんを困らせて……あなたは何がしたいんでしょうか……それに、これ見てください」

店長が店に置いてあるお客様ノートを広げて見せた

『織田という女性店員さんの対応が気に入りません』
『以前若い女性店員さんが、店の中でほかの店員さんに対して理不尽な怒り方をしていました、内容的に正当なものと思えず、ハラスメントのように感じました』
『派手な髪の若い女の子の態度が不快です、接客より勝手なお喋りが多く、声も大きくて態度も荒っぽく、一緒に来てたうちの息子が怖がってしまいました』

「こんなに、あなたに向けたお客様の声が多かったんですよ」

真希が手を強く握りしめ、わなわなと震えている

「それと、お客様としても出禁です、ブラックリストに入れておきます」

「…ふざけんなクソジジイ!」

真希の怒号が響いて、裕二は思わず身を引いた
暴力沙汰になってしまうのでは…と心配したが

「いっ、いたいいたいいたいいたいっ!!やだっやめっ!!」

突如として真希の弱々しい声が聞こえた
思わずそっとドアを開けてみると、店長に右手首を掴まれ軽く捻られている真希の姿があった

「暴力はやめなさい」

…あ、そういや店長、昔柔道やってたとかなんとか言ってたな…店長カッケー…
「のわぁっ!!?」
呑気なことを思っていたら、真希が涙目になって裕二の方に向かってきた
勢いよく休憩室を出て行こうとしたので裕二は避けようとして尻もちを付いた、かなり焦ったけれど失礼ながらすんごい修羅場を見てしまったので少し面白くなってしまった

裕二を無視して帰り出した真希の後ろ姿が哀れであり、健太郎にも見せたかった光景でもあり……
真希の去る様子を見に店長も出てきた、裕二の存在に気付いて少々気まずい様子

「……お恥ずかしい姿を見せてしまった、私も大人気ない、正当防衛かと思ったのですが……」

「いや店長めちゃカッコイイっす」

その後、健太郎がバイトに来るとすぐさま真希をクビにした事を報告した

「もう大丈夫ですよ」

その言葉に、魂が抜けたようにぼうっとしていたら健太郎の目から、静かに涙が零れた

「…対応が遅くなってしまいました、桜田さん本当に申し訳ありません……体調の方はどうですか?もし辛いのであればしばらく有給をとっても大丈夫ですから」

「みーんなマキちゃんが嫌だって言ってたんだぞ

因果応報ってやつだよ、良かったな健太郎」

「…そうか……そうか……」

健太郎から笑みが零れるかと思っていたら、無表情で涙を流し、意味もわからず呆けている様子だった

いや、あの女に制裁が食らったのはものすごく嬉しかった、クビになったから良かったはずなのに…

喜びもつかの間、喪失感と脱力感に苛まれて、精神的な疲労がなかなか取れないでいる

健太郎がどこでバイトしてるかは知られたから、いくらブラックリストに載せてくれたとはいえ遠慮なく客として乗り込んでくるのではないかと不安にかられた

余計なことを考えるな、と分かっているものの
真希からの呪いが解けない

もしかしたらまた自分に何か危害を加える存在が来るのではという被害妄想をしてしまう

あれから真希と出会う事はなくなったが、またいつ真希に出会ってしまうのだろうかという不安が拭えない
真希の笑みが未だ夢に出てくる、フラッシュバックが前より多くなった

この短期間で、健太郎は随分とやつれてしまった

幸い新しいバイトが来たのもあり店の人手は足りてて、健太郎がゆっくり休める期間を設けてくれたが、しばらく健太郎は部屋で孤独を味わう

「あっ、宅配だ」
夏休みも終わり学校帰り、クラスメイトに自由研究を見せたところ好評だったので気分が良く、いつもより足取りの軽い天彦が、マンションに宅配便が来てるのを確認した

健太郎の宅配ボックスに荷物が入れられている…

「…もしや」

天彦は健太郎の部屋に向かってインターホンを押しすと、無精髭を生やした健太郎が玄関からでてきた

「健太郎さんの荷物来てたよ、アレ来たんじゃない?」

……あぁそっか、買ってたな、もう1ヶ月か
というか、自分はたった1ヶ月でこうも簡単に壊れたのか…笑えるな

縋る思いで、これに頼もうと決心
宅配の荷物を抱えるとやはり重い、散らかった部屋に持ち込むと、適当にテープを剥がして開封した

丁寧にされた梱包越しでも分かる膝枕の存在感

「…うわ、リアル……」

開封する前に説明書を読んだ

物によっては返品不可の種類もあると聞く膝枕、健太郎が複数の販売会社から選んだのは『人々に優しく・廃棄物リサイクル印』という謳い文句で売られていたもの
訳あり商品のような形で売られていて、従来より格安でこれといった原則が無い

『本商品は他社の製品と違い廃棄物をリサイクルして作られた商品となりますが、お客様のご期待に添えるよう職人の高度な技術の元、人物そのものに近い肌触りと繊細な構造で作られております、購入後30日以内なら無料返品、修理・処分の場合はコチラの番号に』

1番安いものだから、と思ってみたが品質が気になる
他社と比べて保証はかなり手厚いのはありがたいが……何の廃棄物をリサイクルしたらこんなものになるのだろうか、他社の製造過程のゴミを集めたとかなんとかレビューで書いてた人がいるが、残り物でこんなのが作れるもんなんだなと少し感心した

…少し緊張する、自分だけのAIパートナー
抱えるとずっしりとした質感が腕に伝わる、床に置くとそっと梱包を剥がす

元がゴミと思えぬほど、精巧で美しい脚の膝枕だった、人間の下半身そのまんま取ったんかいと思うほどリアル

動画で確認した別の会社の商品より、AIとしてのコミュニーケーション能力はそんなに高くはなく、派手なリアクションはしない
しかしこの膝枕は、静かに優しく出迎えてくれた

「…乗せていい…?」

そう言うと、そっと膝枕は座り直すように改めて姿勢を正した

「……失礼します」

なんで敬語になってしまうのか…
ゆっくりと頭を乗せてみると、頬に伝わる柔らかさと膝の温もり、まさに人間そのもので驚いた

あまりの心地良さに衝撃が走った

これは健太郎が求めていたぬくもりだった
迫ることはせず、何も言わず、あるがままに受け入れてくれる

「……俺…しんどかったんだよ…」
膝枕に話しかける、そこから愚痴が止まらない
自分は膝枕を連れて歩く男にはなるまいと思いつつ…この際、恥を捨てて甘えまくろう

こわいほどあたたかい、何年ぶりだろうかこの安堵感、涙が出てきた

幼い頃に親に甘えていた時のことを鮮明に思い出した、何も気にすることはなく優しさのベールに包まれて眠るあの時の心地よさ

止まらない涙が、膝枕の膝を伝って落ちた

久々に、健太郎は良い夢を見た
淡く光る空間の中で、誰か優しい人の膝枕で眠り撫でられる、夢の中でも眠っているというのはおかしなものだが、それだけ健太郎にとって求めていた最大の癒しの空間が確立されたのだ

うなされることの無く、健太郎は久々によく眠れて清々しい朝を迎えた

光に反射して舞う埃がきらきらと輝いている
「……膝枕、買ってよかった」

健太郎の体調が徐々に回復して行き、バイトに復活し始めた頃だった

『取引会社の商品情報・個人情報を流出させたとして、元社員と元バイトの女が逮捕されました』

「なぁなぁ!マキちゃん逮捕されたっぽいぞ!?」

「…は?ほんと?」

「テレビでマキちゃんの名前が出てたの見ちゃった」

今朝から奇妙なニュースが流れていた、複数の会社の機密情報が一気に流出されたという
個人情報漏洩の事件はたまに聞くが、こんなにも複数の企業が巻き込まれたというのは珍しい

健太郎はニュースサイトで見出しを見た程度で、記事の中身は見ていなかった

ニュースによると、町工場の元社員が元バイトの女性と協力し、工場と交流のある企業の様々な情報をかき集め、ネットの海へばら撒いたという

「そのバイトの女ってのがマキちゃんだったよ」

「……それ、信じていいのか」

「うん、そう書いてた、あってるはず!」

「なんだそれ」

そう言ってる健太郎は少し笑っていた、気分が良くなった
試しにスマホで確認してみたら、確かに織田真希と名前が出ていた
あいつのことだ、そんな馬鹿な真似をするのも納得だ

そうだ、社会のゴミなんて、捨てられて当たり前だ!!

吹っ切れて、ほぼ体調が回復した健太郎は、このまま膝枕に依存し続けるのもやめようかとそろそろ考えていた

最後の夜、膝の温もりを感じながら話しかけた
「友達にあげていい?」
膝枕はリアクションはしない、この膝枕はこういう派手に動かないタイプと分かっていても、なんか冷たいことを言ってしまったようで少し申し訳ない

でも説明書では特に制約がないと書かれてあったし、あげても問題ない
「…最後になる…ごめんね……」
膝の間に入るように、いつもより深く膝枕に寝た

生身の人間のような膝枕、衣類の下は、まだ見た事ない、脱がそうと思えば脱がせる代物、ましてやこの膝枕は激しく抵抗しないだろう
そんな邪なことを意識するとなかなか落ち着かない、けど膝枕は本来そういう商品ではないから、こんな自分の事を癒してくれた優しい膝枕に対して失礼、なので滾る気持ちをグッと堪えて最後を迎えた


そして翌日、早速天彦を呼んだ

「くれるの?」

「うん、今の俺にはもう必要ないから…あ、重いから気をつけろよ」

「健太郎さんは女性に失礼なことを言う男なんだね」


あのニュースはたちまち取り上げられるようになった
しかし、あの女が逮捕されたとはいえ内容は内容、じっくり見たくないニュースなので健太郎は思い出させないよう尽く無視していた

『逮捕されたのは、都内の某工場にて社員だった男、畑瀬渉(38)と、バイトの織田真希(25)』

でも各地でこの言葉を聞くと少し耳心地が良い

いい気分で店に着き、早速仕事を始めてたところ……
「ねぇ、真希知らない?」

健太郎と裕二にズカズカと聞いてくる若い女の客が来た、この人……あの女の友達
類は友を呼ぶというか、完全に苦手なタイプだった
裕二の後ろに隠れて全てを裕二に任せた

「知らないってどういうこと?」
裕二が尋ねると、真希の友達は悲しそうな顔になる
「どうしたの?」

「……バイトクビになったーって聞いた日から音信不通なの、あんたたちなんかやった?」

「何それ、なんで俺らが疑われるのー、ていうか最近ニュースで聞くじゃん…新しいバイト先で大変なことしでかしたって言う」

裕二が挑発させるような言い方で話す、余計なことをするなと健太郎は焦ったが…

「え?違う違う、あたしもニュース見て驚いたけど、あれ違うから」

「え?」

「あれは同姓同名の人、そもそも真希、新しいバイト先見つかったらすぐ連絡するし、だーから真希はずっと前から音信不通なの!真希のとこのお母さんに聞いても…あんな娘は知らんって何も答えてくれないし…あんたらが責めたから真希大変なことしたんじゃないの!?」

女の勢いがヒートアップしてきた時に店長が間に入り、2人は裏へ逃げた

あの騒ぎっぷり、あの女と似ていて気持ちが悪い
健太郎は椅子に座ると軽く発作を起こしかけていた

裕二に背中を撫でて貰いながら、少し落ち着いた頃にそそくさとスマホで例のニュースの記事を探した
以前より詳細が詳しく掲載されている

追加された複数の容疑者の写真を確認すると、捕まった織田真希という女は、かつて健太郎にトラウマを植え付けた女とは全く違う顔だった

…ただの同姓同名、アイツではないのか
健太郎の全身にずんと重みが掛かったように思えた

あいつは今もどこかで生活している
ああいう奴は、気にせず変わらず生き続けるのか…

途端に、あの膝枕が少し恋しくなった
…今頃、天彦のオモチャにされてるんだろうか……

仕事を終えると、天彦のいるマンションへ向かった
どうせもう分解されて元の膝枕になってない可能性はあるが、奇跡を信じてもう一眠り、膝枕の温もりを感じたかった

街中を駆け足で行く健太郎のことなんか気にせず、他の民衆の殆どは上を見上げ、街の大型ビジョンに釘付けだった

『畑瀬被告らは、「仕事で関わった企業の方針が気に食わなかった、腹いせでやった、私たちは何も間違ったことはしていない」と容疑を否認していて…』

淡白なニュースキャスターの声が響き渡っていた

吉沢家の部屋の前に着くとインターホンを押した、数回押しても反応はなし
試しにドアノブに手を添えると鍵はかかっていなかったので遠慮なくドアを開けた

「天彦、どこにいるんだ、天彦!」

「今取り込み中だから〜」

天彦の声がエコーがかって聞こえた、この声は風呂場にいる事になる
少々焦りながらも風呂場を探し当てると、見つけた脱衣所のドアを勢いよく開けた

でも、なんで風呂場……?

「やっぱ内蔵、残してるんだね」

膝枕は衣類を脱がされ、綺麗に正座しながらも上部分をくり抜かれていた
そしてその穴から形がゆるく崩れた大腸をぐにゅりと抜き出す天彦の姿があった

裸にされた膝枕は抵抗せず、ピクピクと小さく痙攣している

「綺麗に血抜きしてある、へぇ、ガッコの人体模型より役に立つじゃん…大腸が萎れてるのがザンネンだけど」

あまりのグロテスクな光景に目を見張る
物静かな少年の目はいつも以上に輝いていた

「内蔵の色そのまんまじゃん、ヒ素なのかな?いやそれとも…」

天彦の言ってる意味が分からない、その臓物はやけにリアルで表面がねっとりしている

「…お、おま……それ………」

「入ってきちゃったの…?まぁいいや
僕解剖も何回かしてるからさ、これやってみたかったんだ……まって、ここ切れ目がある」

天彦がナイフを奥に入れると、子宮部分を切り始めた

何が起きているのかわからない

「なるほど、これが膝枕のコアか…」

「コア…?」

「人工知能の脳部分だよ、ここに入れてるんだ」

「……てかなんで、内蔵なんか…わざわざ入れておく意味が…」

「そりゃ人間であるがためでしょ」

「……は…?へ…?」

「でも人間らしさを保つためには、やっぱこの腸の形が惜しいなぁって思う、折角"本物"を使ってんだから」

は?

「あれ知らなかった?これ元は人間だよ

前々から噂は聞いててね、ネットの情報だからそんな信じてなかったけど……事実で良かった、新しい発見ができた」

……意味がわからない

意味がわからない、いみがわからない…

その情報はどこから…ネットの何だ…ていうか

なんで天彦はこんなに動じてないのか全く分からない

「ほらニュースでやってる情報漏洩の話、実はだいぶ前から少しだけ情報がネットで公開されてたからさ、それで知ったの」

「漏洩……」

すぐさまスマホで調べた、もしかしたら膝枕の会社からも情報がネットの海に流れ出てしまったかもしれない

まだネット上に残っているか分からない、そもそもどこにあるのか…手を震わせながら検索していると、掲示板サイトにて流出した情報をコピペしているページがあった

【『不適合人民活性化プロジェクト』人格異常が見られ社会的な害悪・不適合者と判断された人民を選別し、新たな形で有効活用ができるよう改造するプロジェクト、それぞれの能力または身体的特徴を活かして人々の役に立つに変える

通称・人民リサイクル】

あの会社の語る廃棄物というのは社会的に捨てられた人間のことなのかと理解した途端、胃液が戻ってくる…が、なんとかこらえた

そしてページには、会社のプロジェクト内容の他に事細かに商品と製造番号、そして使われた人間の名前の一覧と顔写真・商品写真が載せられていた

ある者は骨を骨格標本として、ある者は目玉を加工しアクセサリーとして
ある者は膝枕と同じシリーズの商品、腕枕の1部として…

「……ははっ、狂ってる……すげ……はっ……」

怖いもの見たさか、すっかり腰が抜けてるのにスワイプする指は止まらなかった

そして膝枕の商品情報のページまで行った

目を離していた隙に、天彦が子宮(コア)を切り離していた

「製造番号が書かれてる…」

思わず天彦の方を見ると、掲げられてる子宮の中身に番号が濃く刻み込まれていた

『商品番号 306』

306、306、さんぜろろく

簡単に覚えられる番号が記憶されてしまった

「作り方が簡単な割に大量生産されてないんだね…あ、そっか、膝枕に相応しいカラダを選別するだろうから」

なんて天彦の呑気な言葉に返事はせず、震えていた手をスワイプさせた
自分が眠った膝は企業に殺された誰か、それが誰なのか気になった

"さんぜろろく"

【膝枕 製造番号306 協力者・織田真希(25)】

少し髪は伸びたがピンクのインナーカラーが特徴的な女の顔が載ってあった

"捨てられたゴミは姿を変えて使われる"

手からスマホがするりと落ちる
今何を見た、何を、何を見た、また同姓同名、それに違いない、でもあの顔が、あの髪色が、記憶に新しい

ひぃ、ひぃ、と徐々に呼吸がおかしくなってゆく

顔と喉を掻きむしる、髪を引っ張る、何もかわらない、どれだけ己の肌に痛みを加えても、あの時感じた膝枕の温もりが思い出される、気持ち悪くて仕方がない

廃棄…いや人民リサイクル印が安い理由は明確だ、通報などを受け社会から不適合者とみなされた人間は保護されたのち殺され、各企業がタダで手に入れる

必要な部分だけ切り落としたら内蔵洗浄と防腐と、元から用意されてる人工知能を女性の場合は子宮の中に入れたら…それは完成するのだ

ヒトガタを作る手間を省くのだ
そこに、せっかくの人間がいる限り

「あァああぁァァああアぁぁァあッ!!!!!!」

健太郎は腹の底から発狂した、声も体もコントロールできない、視界が歪む、全身の鳥肌、いっそ気を失ってそのまますっかり記憶を無くして欲しかったものの、皮肉なことに意識がおかしいまま保ち続ける

自分の顔を1回殴ると、今度はそのまま吐いた
全部吐ききっても吐き気が止まらない
それは怒りでもあり恐怖でもあり、自分の人生はこの女にいつまで支配されれば気が済むのかと嘆く

壊れてしまった健太郎を見て、流石の天彦も少しは動揺した
落ちた健太郎のスマホの中身を見て全てを理解した

「…健太郎さん落ち着いて、この女は社会的に不適合とみなされて生存権を解除された、良かったじゃない」

「……」

突然黙り出した、かと思えば今度は笑いだした

「きひっ、ひっ、はっ、ははははははっ!!!あー!!!あー!!!あァーーー!!!…ひぁっ……」

良かった?そうだよ良かったよ

でもな でもなでもな

どうせなら俺がこの手で いや、それはまだいい

二度と姿を現して欲しくなかった

たとえどんな形だろうとも

……社会的に役立たずなんだろ?

お前なんか お前なんか お前なんか お前なんか

「物になる価値すら無いんだよ」

クーラーに冷やされるカラダ、なのに一向に引かない汗、止まらない鳥肌

胸を引っ掻き回しながら、腐臭も何も漂わない膝枕に健太郎は不敵な笑みを見せた

「……せっかく生まれた人間を、資源として何かしら活用したかったんじゃないの」

その瞬間、ふっつりと健太郎の意識が消え、気がついた時には天彦の首を絞めていた




『この事件について桜田被告は「記憶が飛んだ、気がついたら殺していた、殺すつもりはなかった」と供述していて』

BGM代わりに付けているテレビ、もう3日前から流れているニュース

裕二が自室でパソコンをいじっていると、インターホンが鳴った

「おっ、来たか?」

すぐさま玄関へかけよる、付けっぱなしのパソコンには"会員限定"のサイトが表示されていて、複数のドールの商品画像が並んである

宅配の荷物を受け取ると、ラブドールが居座る自室に戻り、カッターで荷物を開けていた

深く刃を入れすぎないよう丁寧に
カッターで切るぎしぎしとした音が室内に響く

「……健太郎は良い奴だよ、人の中身を見られるんだからな」

丁寧に包まれた梱包をゆっくりはがしながら呟いた

裕二は、自分が面食いなことを気にしている
人間的な評価ができない、そもそもあまり社交的きなれない他人への興味の無さもあるが、恋とかいう深いコミュニケーションを育むには向いていない人間だ

健太郎が少し羨ましかった、どんな可愛い子にも惑わされない、ちゃんと人を見る男

ゆるゆると仕事をするのがモットーな割に、接客の評価が高い、そして決して自分を作りすぎず、厄介な客には正当に反論し、良い意味で客との対応は雑すぎず距離がありすぎず丁寧で…店長からの評価も高い

人としてよくできているよ

……でも、膝枕選びはほんとーに運が悪かったな

健太郎と裕二は表面上は気の合う存在
だけど深層の部分はまるで違う存在

健太郎の深いとこに根付いた人への憎しみを俺は知っている
好きと嫌いは表裏一体だ、健太郎は人に対して酸いも甘いも受け入れすぎた

健太郎、真面目なお前のことだ、きっと刑務所の中で更生してくれるであろう、模範囚にもなるだろうな

少しでもヘマをしたら…こっち側になるからな

「……はぁ、綺麗…髪も瞳も首も胸も…うん、過去一の代物」

【上半身ドール&顔セット  人民リサイクル印価格20万円】

「だから顔が無きゃダメだと言ったんだよ」

裕二は精巧な上半身ドールとなった真希に、真っ赤なリップを塗って恍惚としていた






読んで頂きありがとうございます、体調の方はどうでしょうか、あまりの駄文に吐き気を催してもこちらは責任を背負いきれません

【メインの3人の男性】
主人公・桜田健太郎
同僚・磯崎裕二
小学生・吉沢天彦

この3名の名前の由来はTHE ALFEEです、完全に自分の趣味です

さて、例の女・織田真希について

オダマキの花の全般を表す花言葉は「愚か」

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