美しい横顔 #2
12月27日に亡くなった母はクリスチャンだったので、
12月25日のクリスマスまでは命を永らえようと頑張っていた。
12月26日の夜、危篤を告げられた家族が集まって、
母親と皆がそれぞれに最後の言葉を交わした。
母は私に言った。
「あーちゃん、もういいよね」
五年半もの時間を生きようと必死で病と闘ってきたというのに、
私はなんと答えればよかったのだろう。
今もこれが正しかったのかはわからないけれど、私は言った。
「うん、もういいよ」
そのあと母がどんな表情をしたかは覚えていない。
母を亡くして丸十年が経った。
正確に言えば十年も経ってしまった。
壮絶で、そして美しすぎる命の終わりの瞬間に立ち会えたことは、
私が生まれた証と生きる誇りになったけれど、
私はまだ母への歌を作ることができずにいる。
子供の頃からマザコンで、母に気に入られようとしながら、
そうできないことが辛かった。
私は私にしかなれないし、私がなりたい私を
母が受け止めてくれないことが悲しかった。
そして多くの衝突があり、私は最後まで、
母を喜ばせることができないダメな娘だった。
それでも病状が進み、立ち上がれなくなって病院へ移ってから、
母は少しずつ私を理解するようになってくれたと思う。
三十分
扉1
扉2
密かな楽しみ
やさしい子
お水
大嫌い
亡くなる一週間ほど前だったろうか。
母は私に聞いた。
「ママのこと好き?」
私は答えた。
「大嫌い」
「やらしいわね」
言ってやったけど、本当は違っていた。
母のパーソナリティーを私はどうしても好きになることができなかった。
多分友だちだったらけっこう嫌いな相手だったと思う。
思っていることはズケズケと言う。
相手の気持ちは忖度しない毒舌家。
ヒステリックであちこちで口論ばかりして恥ずかしかった。
それでも母といた時間の最後の最後で、
自分の体に流れる血が感情や意識を通り越したところで
「ママを愛してる!」と叫んでいた。
それぞれの親子にそれぞれの死別があるように、
私には私の、母との死別があった。
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