再会
「もしもし、どうしたの?」
「今日って時間ある?昨日のMRIの結果でお話ししたいことがあるんだけど。」
「ない。じゃ、」
「あ、待って!水族館デートしませんか?」
「は?むり。」と言って切った。
なぜ、私がMRIを受けたことを知ってるんだ?仮に病院の職員だとしても、守秘義務という観点で先に個別で電話をかけるのはいかがなものか。そもそもいつサトシと電話番号交換した?
朝から腹立たしい。
車ではなく、電車とバスを乗り継いでいくことにした。
時間はたっぷりある。遠足気分で駅に着くとサトシが待ち伏せしてた。
「ハルナさんですよね。」
「いや、人違いです。」
「いや、ハルナだろ。俺だよサトシだよ」
ゾッとした。最悪の3連休スタートだ。
案の定電車の中までぴったりくっついてきた。
周りにどうSOSを出そうか考えていると、聞いてもないのに自分の勤務先(今朝電話をかけた病院勤務だった)や、私が最寄り駅で降りるのを何回か見かけていたこと、1回だけ尾行したら曲がる角が多すぎて見失って家までたどり着けなかったこと(犯罪!)を話し始めた。
「前にメッセージ送ったのに繋がらなくて、そうしたら昨日うちで検査受けに来てたの見かけて、問診票に記入してた電話にかけてみたんだ。」
(駅降りたら病院にクレーム入れよう。)
彼としては、SNS上で他の同級生たちと連絡を取り合ってから、大学やインターンで再会したり、オフ会をしているそうだ。
見栄張り合戦でお互いの欲や恥をさらし、身内や居住地の近辺をも晒す。
この惨状から早々に離脱した自分は「消息不明」になっていたそうだ。
おう、こちらもお断りだ。
とにかく、コイツをどこかで振り切らなくては。もうすぐ乗換駅だ。
こんな時のために「マウイ」を召喚することにした。
彼は地元に残った高校時代からの友人で、お互い暗号や謎解きを出し合っては解いてをしてきた仲だった。
【マウイおはよう。ただいま○○駅。すぐ向かいます!携帯の電池キレそう…。適当に時間つぶしてて!】
サトシが目ざとく見つけた。
「俺、目の前にいるのに他の男と連絡してんの?」
『あなたは知らない人です。これ以上付きまとうようでしたら警察呼びます。』
車内にいた人達がこちらを振り向いた。
腹式呼吸の声は怒鳴らずとも、しっかり人に届くのだ。
「は?朝田ハルナで知り合いだろ。旧姓たかねだろ?」
慌てたサトシはFacebook を見せて確認してきた
「ほらこれ、ハルナだよね?」
「この方はハルナさんですが、私はハルナではありません。」
見せてきたFacebookの写真は、振り袖姿の榛名貴音だった。
表示名は Takane Haruna となっていた。
彼女と私は双子と言われるほど容姿が似ていて「ハルハル」と呼ばれていた。
おそらく彼女もFacebook から早々に離脱していると思われる。
「は?問診票に「朝田晴凪」って書いてたじゃねえか」
『問診票の情報を職場の許可なく入手して個人利用しているということでしょうか』
車内がザワザワし始め、動画を撮りだす者まで現れ始めた。
『問診票には電話番号の他に住所の記入欄もありましたが、電話を問診票から入手したということは、私の住所も把握しているということでしょうか』
駅についてドアが開いた時にドア付近にいた数名がやつを取り押さえてくれた。無事に鉄道警察に突き出し、私も事情聴取に応じた。
問診票から入手した情報でストーカーされた旨を伝えると、対応を婦警さんに替えてもらえた。
「これはハルナさんって読んじゃいますね。」
出生届の際に漢字を間違えて「風」を「凪」にしてしまった母のおかげで、初見では「ハルカ」と読めないのだ。
管轄の警察署でパトロールしてもらえることになったが、早めに引っ越しをしよう。
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