やること4、読みたい本を読む
仮に1年数ヶ月の命だとして、あと何冊読めるか考えるとおよそ50冊くらいになるはずだ。
現に父から渡された本屋大賞の本も300ページほどだったから読了まで1週間かかるだろう。
学生時代、文献を大量に読み漁る学部に4年いたおかげで、活字アレルギーを起こすことはない。が、問題は内容だ。
感情の起伏が激しい物語は乗り物酔いみたいな胸焼けが残ってしまう。
薄さのわりに情報が押し込まれ、ちょっと仲良くなっただけのキャラが死に、最後は決まって主人公が前向きな感想を残す。
どこで感動できるの?それでも薦めてきた人から感想を求められるのだ。
麻辣担々麺を食べた時のような、刺激が強すぎて「痛い」以外の味覚がマヒしてしまうような読後感。
「私には刺激が強かったよ」くらいにとどめていた。
それでも「これに感動できないとかありえない」という者たちがいるが、逆に推薦理由を紹介させると「この話は全体的にエモい」だの「ハッピーエンドになれないところ」「好きぴが死んじゃったじゃん」である。
相容れない意見に目くじらを立てる前に、言語を媒介して感情を人に伝える方を鍛えていただきたい。
幸か不幸か、私に本を薦める人は司馬遼太郎好きの部長以外いなくなった。
そもそも「紀行文が好き」に共感してもらえない時点で好みが大きく違う。
アイラ島の過酷な荒波を小窓から眺めながら燻しが利いたシングルモルトをなめる冬、
ニースの狭い路地間から石畳を射す夕陽の鋭さが肌をもヒリつかせる様、
マカオのギャンブルで大敗した人の唖然とした無音感。
私の好きな「スリル」はこの臨場感なのだ。
だからなのか、
唯一共感を得られたのが伊坂幸太郎の殺し屋シリーズだった。
周りはキャラクターの暴力性に、私は心理戦に、エンタメを感じた。
他では、『土を喰う日々』『日日是好日』『春宵十話』が好きで、
ファンタジーなら『忘れられた巨人』、上橋菜穂子の守り人シリーズ、
SFなら『虐殺器官』や『ジュラシックパーク』だ。
どうしても読書仲間の年齢層が高くなる。
本当に1年きりの余命だったらアイラ島やグリーンランドに行っても良いが、体調を崩して計画を縮めるくらいなら、思いっきり自分の好きな本を揃えるのもありだ。
ざっと計算すると、10万円くらい。文庫本限定なら半額ほどだろう。
本棚を追加するとしても5,000円もかからない。お手頃な趣味である。帰宅したら読みたい本リストを整理しよう。
駅に着くと遅れていた始発がちょうど入って来たところだった。
「この電車人身事故のため1時間遅れての到着です。この先止まる駅は…」
職場の最寄り駅まで3駅しか停まらない特急に変わった。
春先の月曜日は特に多くなる。
ふと一昨日夢の中で見た言い争っているような人影が浮かんだ。
きっと死ぬ予定のなかった人だったのかもしれない。
思わぬ死によって計画が台無しになったら、どんなに辛かっただろう。
黙祷を捧げてからページをめくった。
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