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やらなきゃいけないことを後回しにしてとりあえず手のつけられるところから、まぁつまり簡単なところから(ところばかり?)やっているわけだが
それが今は夜な夜なケルト音楽を聞きながら思いついたことを書くということで

ケルト音楽、まじでヤバい。


元々民族衣装の類は好きだけれど、もう自分が着ている。
着ているソレが可愛いのなんの。
やっぱり布をたくさん使っているから重いんだけれど、それでも首元のレースはディティールが凝っているからしゃんと首に沿って立っているし、重ねたエプロンスカートは裾に向かって大きく広がり刺繍には何色もの糸が使われている。
手首まできっちりある長袖ブラウスの袖口は時代無視のゴールドのカフスボタンである。
酒場で踊り子かと思いきやカウンターの端の方で1人時々
うまっ
と声を漏らしながら酒を飲んでいる。看板娘でもないんかい。
架空虚構妄想の世界でくらい輪の中におれ。
木のカウンターは平らに加工されているはずもなく、ここで文字は書けないなと大きめの木目をさすりながらぼそっというと
ガタイの良い店主はそんなちまちまとしたことをする場所じゃねぇよとウイスキーをもう1杯出してくれる。
時代を越えてもコミュ障は健在の私は眉と広角を少しあげるだけで精一杯だった。
後ろの方で急にワッと歓声が上がったので振り返った。
町娘らしき女の子が少し照れながら周りの床より少し高いだけの場所で私と同じ服装をして身体をねじって踊っている。
気づいているのは私だけ、盛り上がる酒飲みたちも店主も踊り子本人でさえもこのミラーに気づく気配がない。
一瞬、昼間からひとり酒をするうら若き乙女に気を遣っているのかとも思ったが、
気づいていないふりなどする必要がないからここは人が集い笑い陽気な音楽が流れる場所であるんじゃないかと思い直すのだ。
しっかり私は落ち込むけれど、服は可愛いからいいんだ。

酔い醒ましに外に出ると季節の変わり目の風が吹いていて、エプロンスカートが揺れる。
少し砂埃の舞う、海へ続く長い一本道を海とは逆の方向へ歩くことにする。今日はもう帰ろう。
道端でめいいっぱい果物や野菜を広げる商人や、おっかない剣を持ち凛々しい顔立ちでザッザッと歩く兵たちとすれ違う。
当たり前に誰もこちらを見ない。こんなにも服は可愛いのに。

見てほしかったのか。そうか。


まあ、うん、もう二度とこれは着ないがな。捨てもしないぞ。

圧縮袋に入れて掃除機で吸いまくってやるよ!!!!
と叫んだところで部屋の端の小さな机でデスクライトを照らしながら文字を書く我に返る。
木目などない、きれいに表面加工された机に乗せたスマホで流していたケルト音楽を止める。


なんか、昔古着屋で買ったWranglerのデニムのジャンプスーツを久しぶりに会った同級生の男になんだそれと笑われたことを思い出した。
何より嫌だったのは、それ以降会ってもいない、会おうともならないやつに言われた一言を気にして着るのをやめてしまった自分だ。
今言われてもまたやめてしまいそうな自分は現在進行系で嫌だ。


うわ、なんか今、無性に古着屋に行きたい。アホみたいに極彩色のアウターとかほしい。ぶりぶりにクソデカの。


これが夜の悪い癖。
明日は同じ音で違う街に行きたい。

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