『SCP: Secret Files (SCP:極秘ファイル)』レビュー
『SCP: Secret Files (SCP:極秘ファイル)』は、現代を舞台に、異常や超常現象を発生させる存在・モノ・事象などを、確保・収容・保護することを目的とした架空の組織『SCP財団 (SCP Foundation)』をベースとしたナラティブゲームだ。
この『SCP財団』とは作中の組織名であると同時に、それについて複数の作者が世界設定を共有して「掌編小説(Tail)」を創作し、コミュニティサイト上で公開しているシェアード・ユニバースまたはシェアード・ワールドと呼ばれる作品群を指してそう呼ばれる。
海外発祥だが、現在では多くの国にコミュニティサイトが存在し、同作をベースとした映像作品やゲーム作品もこれまで数多くリリースされている。本作もそのひとつだ。
ゲームシステム
プレイヤーは財団が持つ施設のひとつ「サイト-105」のアーカイブ部に配属された新人職員カール・アスタナとなり、職務として調査記録にアクセスしていくことになる。
それは単純に報告書を読み進めるものではなく、それに関わった財団職員当人の視点で、オムニバス形式で複数のストーリーをエピソード的に追体験していくものだと思ってもらえれば良い。
登場するエピソードは「SCP作品群」の中でも著名なもの、例えば『SCP-701 "The Hanged King's Tragedy (吊られた王の悲劇)"』などをベースとした、ゲームオリジナルのストーリーとなっている。
なお、ここまで述べた内容からもわかる通り、本作は『SCP財団』を知っていることが前提の作りで、チュートリアルはあるが、背景にある世界設定や用語の説明まではしてくれない。
そう言う意味ではファン向けであるし、知らなければホラーゲームのひとつという程度に収まってしまうため、最大限に楽しめるかはプレイヤーの知識によるところだろう。
SCP用語/ワードの翻訳の問題
本作は英語音声(フルボイス)・UI/テキストが日本語に対応。機械翻訳ではなく、多少のケアレスミスはあるものの品質は良いほうだろう。
ただし原作由来の問題がある。『SCP財団』では共有された世界設定を元に作品 (『Tail (テイル)』と呼ばれる) が執筆されていて、同様に共有された固有の用語/ワードが多数登場する。
日本にも歴史の長いSCPコミュニティがあり、固有の用語/ワードに対して既に定着した「訳語」が用いられているのだが、しかし本作ではそれに準ずることなく新訳されてしまっているのだ。
作品固有の用語/ワードが原作とゲームとで「表記ゆれ」を起こしてしまっては、読み手に齟齬や矛盾が生まれてしまう。SCPファンは元より、本作からSCPに興味を持ってくれたプレイヤーにとってもデメリットだろう。
この件については2022年6月にデモ版の時点でフィードバックし、開発元から改善に前向きな返信も得ていたのだが、結局そのまま正式リリースされてしまった形だ。
翻訳にも著作権があるため、意図的に異なる訳とすることは理解できる。しかしSCP作品は、コミュニティのクリエイティブ・コモンズ・ライセンスに即せば商用可能。用語/ワードの訳語もそれに含まれるので、わざわざ新訳する意味はないのだ。
日本のプレイヤーにとっては残念な状態だと言わざるを得ない。
総評
これまで多くの『SCP財団』を取り扱ったゲーム作品が存在しているが、近年リリースされたものの中では、本作のクオリティは十分満足できる完成度だろう。
しかし、SCP用語/ワードに関する翻訳の問題があるため、日本のSCPコミュニティの目線では手放しに褒めることができない。ゲームとしての完成度が良いだけにとても惜しい。
改善されるかは微妙なところなので、どうかその点は理解してプレイしてほしい。そしてもし本作からSCPに興味をもってもらえたのであれば、オリジナルの作品群にも触れてもらえれば幸いだ。
追記
SCP用語の翻訳問題について開発元より、担当者へ伝える旨のコメントがあった。しかし先に書いた通り、リリース以前にデモ版へフィードバックした際にも同じ返信をもらったものの、こうしてなにも変わらず製品版がリリースされている。あまり期待はできないだろう。
(開発元の返答)
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